第20話 白神吹雪は呼び出される①

朝。学校に行ってみると、俺が来た瞬間に俺の所へ走ってくる蒼井が珍しく他の男子たちと話していた。


まぁあんな美少女なので普通になら俺だけに構っている方がおかしいと思う。


今日は体育祭の競技選択があるので授業が1時間潰れるということでいつもよりかはやる気が出ているが体育祭の競技選択はもはや戦争と呼べるものなので自分がやりたい競技を選択できるか不安である。


欲望を言うのならあんまり目立たない競技で蒼井と違う競技がいい。夏休みが終わってから蒼井が近くにいるせいで目線がどこに行ってもすごいのだ。


明らかに俺は蒼井に見合うほどイケメンじゃないからな。ブスとまでは行かないと思うが、特徴無い普通な顔をしている。


「なぁ紅葉、体育祭の競技って何にするか決めてる?」


「特には決めてないかな。でも私って手が短いから、手が長い人が有利な騎馬戦は選ばないかな」


確かに紅葉の体格だと帽子を取りずらいし、下に回って支えることも出来ないので騎馬戦はパスだろう。


質問をすればHow about youの返しがもちろん返ってくる。


「俺は目立たないならなんでもって感じ。そうだなぁ……リレーとかだったら出るのはいいけどアンカーとか1番手は嫌かな」


「蒼井ちゃんと一緒にご飯食べたりしてる時点でだいぶ目立ってると思うけど?」


それはごもっともであるが俺から関わりに行ってるわけじゃないのでどうにもできない。かと言って蒼井に関わるなって言う訳にもいかないので今の状況は変わることないだろう。


先生が入ってきたのでさっきまで男子と話していた蒼井が席に戻って来る。


「蒼井が俺の所へ走ってこないのって珍しいね。男子と何話してたの?」


「体育祭でなんの競技を選ぶか、なんか私と同じが良いって言う人が多いんだよね。私、そこまで運動神経が良いわけじゃないのに」


絶対に運動神経とかで誘っているわけじゃないがそれに気づかない蒼井は鈍感すぎると思う。


明らかに蒼井と近づくために誘っているが、それに対して俺が何か止めようとする訳では無いし蒼井が好きに組めばいい。蒼井が俺の事を誘ってきたら話しは別だが大体の確率で誘って来るだろう。


そもそもあいつらからしたら蒼井と仲がいい俺は邪魔なんだろうな。


「吹雪くん、二人競技のどれかで一緒に出ない? 」


「別にいいけど確定じゃないでしょ。二人競技の定員がオーバーしたら出れないかもしれないんだから」


出たい種目が被ったらくじ引きで決めるらしいので二人競技で誰かのペアと被ってしまえば蒼井の運に賭けるしかなくなる。


「で、どれに出たいの? 俺はなんでもいいから蒼井が決めてよ。俺は1人で出る競技の方を決めておくから」


決めておくと言ってももう決まっているのだが先客がいるようだ。被せて蹴落とすような趣味は無いし別の競技のところに名前を書いた。


隣を見れば蒼井が俺の名前と自分の名前を書いていたので決め終わったのだろう。


「なぁ吹雪、放課後にちょっと時間あるか? 屋上に来て欲しいんだ」


「わかった。多少遅れるかもしれないけど行くよ」


俺になんの用があるか知らないがとりあえず呼び出されたので行くには行ってみるが、まぁいいことは起きないだろう。



※※※



紅葉と蒼井に先に帰ってもらって、俺は体育祭の種目決めの時に呼び出されたので俺は屋上に向かっていた。


「約束通り来てやったけど、なんか話でもあるのか?」


「お前、蒼井さんと一緒に出るんだってな。お前如きがなぁ……見合ってないんだよ」


来てみれば初っ端そんなことを言われたが蒼井に見合ってないことぐらい自分でもわかってる。


「俺が見合ってないことぐらい自分でも理解してるけど? 俺は向こうから誘われてるんだからいいだろ?」


俺から誘ったことは一回だけあるが、そのことをこいつは知らないはずだし今言ってることは家に入れたことじゃないので関係ないだろう。


「るせぇ! 昔からの知り合いといって転校したての蒼井さんと一緒に居すぎなんだよ」


「あの時が初対面なんだけど?」


やっぱり初日の蒼井の『久しぶり』発言のせいで色々勘違いされているようだ。


「じゃあなんで蒼井さんはお前のことを彼氏だとか元カレだとか言ってるんだよ!」


「いや、それは俺が聞きたいんだけどなぁ……。でも、蒼井から誘われてるんだからさ、俺がどうこう言われるのはちょっと違うと思うな」


俺から蒼井のことを誘っていたら話は別だと思うが、俺は誘われたのを承諾しただけなんだから。


「文句があるなら自分から誘えばよかったじゃないか。お前は自分で誘えなかった敗北者、チキンだ」


俺がそう言えばそいつは顔を真っ赤にするが、俺の言ってることは間違ってない。


蒼井と一緒に出たいなら自分から誘えばいい、向こうから誘ってくれるのを待ってるだけなんていう甘ったれた考えじゃ、一生蒼井に近づくことはできないと思う。


別に俺が蒼井を独占してるわけじゃないので好きに話しかければいい。


「蒼井にお前から話しかければいい。俺は独占するつもりは無いし、蒼井と付き合うつもりもないから、告白するなら頑張れよ」


「なんで知ってるんだよ……」


俺が蒼井と一緒にいることにキレてきたんだから蒼井に好意を持ってるってことぐらいは察せる。


これ以上話をしても意味が無いので俺は屋上から階段を降りて行った。


『度の過ぎたことはするなよ』とだけ口にして。

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