小話集4 2話

🌼フローラルウォーターを作ってみよう🌼


「今日はフローラルウォーターを作りましょう!」

 ルシア様のお家に着くなりメエメエさんが叫んだので、僕とマーサとルシア様はキョトンとした。

 その横でブランさんは、どうでもよさそうに欠伸をしていたけど。


「いきなりどうしたのさ、メエメエさん? フローラルウォーターって蒸留でできるんだよね?」

 不思議に思って聞いてみると、メエメエさんは踏ん反り返りながら言った。

「精油を作るとなると道具が必要ですが、フローラルウォーターだけならキッチンにある道具で作れますよ! 温室のハーブで作ってみませんか?」

 後半はルシア様とマーサに話しかけている。

 僕とブランさんはどうでもいいと思っているね。

 思わず黒羊の後頭部を睨んでしまったよ。


 まずは温室に行って好きなハーブを採取する。

「ローズマリーなどいかがでしょう? お料理にも使えるので、この辺に植えておいたはずです」

 メエメエさんが示した先には、ローズマリーの大株が育っていた。

 それをルシア様とマーサが切り取ってザルに載せて洗う。


 多目的ルームに戻ると、メエメエさんはテキパキと道具を用意していた。

 魔石コンロとフタつきの深めの鍋、それよりも小さい器とせいろ用の蒸し器。


「お鍋の中に蒸留水を注いでください。そこに蒸し器をセットして、真ん中に用意した器を置きます。その周りにローズマリーを敷き詰めてください」

 メエメエさんの指示で、マーサが準備を進める。

 僕とブランさんは反対側から、そのようすを眺めていた。


「次にフタを裏返しにしてお鍋に載せます。その上に氷を載せるのですが……」

 メエメエさんはどこからともなく氷が入った革袋を取りだした。

 この世界にビニール袋とかはないからね。

「これをフタの上に置いたら、魔導コンロに火を点けてください」

「これでよろしいですか?」

 マーサがメエメエさんに確認すると、満足そうにうなずいていた。

「はい、たいへん結構です。弱火で三十分ほど加熱して、あとは水蒸気が中の器にたまるのを待つだけですよ」

 へぇ~。


 待っているあいだに原理を聞く。

「要はローズマリーを蒸すことで、水蒸気の中に香り成分を移すんです。その蒸気がフタを伝って中の器にたまります。氷は蒸気を冷やすためですね」

 ほうほう。

 だんだん多目的ルームの中にふんわりと香りが広がってきたよ。

 

「ねぇ、これって食べられるの?」

 ブランさんがお鍋を見ながら聞いてきたんだけど、メエメエさんが鼻で笑った。

「アホの子ですね! なんでも食べ物に結びつけるなんて! これは化粧品に使えるんですよ!」

 メエメエさんはポーンと飛び上がり、ブランさんの頭に着地するとポンポン跳ねていた。

 ……あぁ。

 ルシア様とマーサは苦笑するだけだった。

 それでいいの?

「待っているあいだに、お茶にでもいたしましょうか!」

 マーサはスッと目を逸らし、椅子から立ち上がったよ。


「私は煎茶でお願いします!」

 メエメエさんは我先に注文していた。

「ぼくは、ジュース」

「わたしもー」

「はい、ただいまご用意いたしますね」

 多目的ルーム内を自由に飛びまわっていた精霊さんたちが、マーサを追いかけていって自分の飲みたいものを注文している。

 うむ、かわゆす。


 お茶の準備が整うまで、精霊さんたちは作業テーブルの上にお菓子を並べだした。

 焼き菓子やチョコがたくさん並んだよ。

 メエメエさんも席について、自分用のお煎餅をしっかり準備していた。

 ルシア様も「今日焼いたのよ」と言って、パウンドケーキを用意してくれた。

 色とりどりのお菓子を見て、ブランさんが大喜びしていたよ。

 色気より食い気だね!

 その後、みんなで仲良くお菓子を分け合って、おしゃべりしながらティータイムを楽しんだ。


 さて、三十分以上経過しちゃった。

 魔石コンロの火を止めて、しっかり冷ます。

 そのあとフタを取ってみると、中の器にフローラルウォーターがたまっていたよ。

 香りはそんなに強くないかな?


「フローラルウォーター自体が香りの強いものではありません。これをお肌につけて使ってください。防腐剤が入っていませんので、時間停止つきマジックバッグの中にしまっておくとよいでしょう」

 とはいえ、できたフローラルウォーターの量が小ビン程度なので、みんなで香りを楽しんだらなくなったよ。

 ルシア様とマーサは「今度は違うハーブで試してみましょうか?」などと、楽しそうに語らっていた。

 その横でブランさんは、メエメエさんのお煎餅をくすねてバリバリかじっていたよ。

 もれなくメエメエさんのモフモフアタックが炸裂した!


 精霊さんたちと僕は、ほんのりローズマリーの香りをまとって、ルシア様のお家をあとにした。

 植物園に戻って離れのリビングに行くと、アル様が紅茶を飲んでいたので、今日の出来事を話して聞かせると、アル様は満面の笑みで僕に言った。


「やぁやぁ、女子会は楽しそうだね!」

 んん?

 僕は女子じゃないよ?


 アル様は「アハッハーッ!」と、大笑いしていた!

 何げに失礼!!

 



■メエメエさんって、どんな精霊さん?


 そんな質問をみんなにしてみた。

 グリちゃんたちは首をかしげて困り眉毛になっているよ。

 みんなで輪になって相談を始めた。

 しばらく待っていると、代表してユエちゃんが教えてくれた。


「あのね、メエメエさんは植物園の管理人さんで、闇の大精霊だよ! ボクたちあんまりお話しないよね?」

 みんなが大きくうなずいていた。

 純真無垢な精霊さんたちとメエメエさんでは、相容れないものがあるよね。

 納得だよ。



 次はラビラビさんに聞いてみた。

「メエメエさんですか? この植物園の管理人ですね。無理難題を押しつけてきます。自己中だと思います! 業突く張りデッス!!」

 そう叫んでグッと拳を握りしめていた。

 なんか恨みでもあるのかな?


 そのとき、ラビラビさんの耳がピクピク動いた。

「ああ、待ってください。ソウコちゃんから電波が届いています。何々、キノコと地鶏をどうにかしろ! 燃やすぞゴラァァァッ⁉ ――――だそうです」

 僕はそっと目を逸らした。

 ラビラビさんも目を逸らしていた。

 キノコはどうにもならないよね……。

 いっそのこと燃やして食べちゃって!


 それにしても、ラビラビさんのお耳は感度がいいんだね。



 気を取り直して、オコジョさんとナガレさんのところに行ってみよう。

「ほう、メエメエさんかのう。まぁ、問題はあるが、有能な黒羊だのう」

 ナガレさんは遠くを見ながらつぶやいた。

 問題があると思っているんだね。


「おお、メエメエさんか? あいつはおもしろい精霊だな! 楽しいものをポンポン作ってくれるから、ワシは好きだぞ!!」

 オコジョさんは心底楽しそうに返事をしたよ。

 メエメエさんは好き勝手にいろいろ作るからねぇ……。


「最近は温泉からグライダーで滑空するのが楽しいぞ!!」

「温泉は普通に入って!?」

 


 その時たまたま近くを通りかかった、ミディ暗躍部隊の黒子ちゃんに声をかけてみる。

 通訳はユエちゃんにお願いした。

「あのねー、ちょっと駄目なところもあるけど、良いボスだってー」

 ……そうなの? 

 メエメエさんって、精霊遣いの荒いブラックじゃない?

 言わされてない??

 黒子ちゃんはソッと目を逸らし、お辞儀をして瞬く間に消えた。


 ブラック説濃厚!?

 強く生きるんだよ~~!

 


 離れのリビングに戻ってくると、アル様が謎の薬を作っているところだった。

「おや、相変わらず暇そうだねぇ? 何、メエメエさんかい?」

 暇そうは余計だよ!


 アル様は顎に手を当てて考え込んだ。

 しばらくして顔を上げると、にっこり笑って叫んだ。

「おもしろいから私は大好きさッ!!!」

 またしてもアッハッハッハ~と大笑いしていたよ。

 そうだと思う。

 ふたりがそろうと碌なことにはならないもん!


「そういうハクはどうなんだい? 君に取ってのメエメエさんだよ」

 アル様が逆に聞いてきた。

 

 僕にとってのメエメエさん?

 性格は悪いけど、頼りになる黒羊だよね。

 グリちゃんもポコちゃんもクーさんも、ピッカちゃんもフウちゃんもユエちゃんもセイちゃんも、大事な友だちだけど、メエメエさんはちょっと違う気がする。

 僕にとってのメエメエさんって、なんだろう?

 ブラックで自分勝手なやらかし黒羊。

 しょっちゅう面倒事を巻き起こす、守銭奴駄羊?


「今私の悪口を言いましたねぇぇぇーーッ⁉ きえぇぇぇーーッ!!!」

 ポーンと飛んできたメエメエさんのモフモフアターック!! をモロに食らった!

 メエメエさんは地獄耳だった!!


 そんな感じで戯れる僕らを、アル様は生温か~い目で見て笑っていたよ。

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