🐕🐈柴犬さんは子猫さんと仲良くなりたい

朱音ゆうひ🫠

柴犬さんは子猫さんと仲良くなりたい


 北の大地、北海道の牧場。

 柴犬さんは、お散歩の時間を迎えてわくわくです。

 

「わん、わん、わふっ」

 

 黒いつぶらな目は、きらっきら。

 くりんっと巻いた尻尾は、興奮を伝えるように荒ぶっています。


「ゆっくり、ゆっくりなぁ」

 ご主人は脚が悪いのです。

 柴犬さんはハフハフいいながら頭を縦に振りました。

「わふ、わふっ」

 わかってるで! 

 とアピールすると、ご主人はニコニコしています。

 

(いい子にしてたら、前のご主人も会いに来てくれるかな)


 柴犬さんは、牧場に引き取られてまだ三日目です。

 前のご主人さまは関西に住んでいるのですが、牧場主のお友達で、柴犬さんを飼えなくなったので、引き取ってもらったのです。

 

『ごめんな、かんにんえ』

 ほろほろと透明な涙を目からあふれさせて謝ってくれたから、芝犬さんは前のご主人を恨んだりしていません。

 けれど、「また会いにきてくれたらええのにな〜」とは思っているのです。


 風が心地よく吹き抜け、柴犬さんの暖かな茶色をやさし〜く撫でていくのが、気持ちいい!


「わんっ! わんっ!」

 お散歩! お散歩! たのしーなー!

 

 ご主人も「今日はお天気がいいね」とお日様を見上げて、目を細めています。


 と、そんな一人と一匹がほてほて歩いていると、広々とした道の端から、鳴き声がしたのです。

 背の高い緑の草の合間になにかが見えて、柴犬さんはフンフンと鼻をひくつかせて近づきました。

 

「おお、なんかちっちゃいのがおるぅ」

 そこには、可愛らしい子猫さんがいました。


 お母さん猫と一緒にまぁるくなっていて、お腹を空かせてミャアミャア鳴いていたのです。お母さんは永遠の眠りについているようで、ご主人は悲しそうに息を吐きました。


「よし、よし。いい子だね」

「みゃあ、みゃあ」

「お母さんも一緒にね、おうちいこうね」


 ちょっと鼻の詰まった声で、ご主人は猫さんたちを抱っこしておうちに連れていきました。



 お母さんには、お墓をつくり。

 子猫さんには、ミルクをあげました。



「くぅん、くぅん」

 柴犬さんはお花をくわえて、お墓にお供えしてあげました。前のご主人がお墓にプレゼントをしていたのを思い出したのです。


 人間は、亡くなった仲間にも何年も何年もごはんをあげたりして、寂しがり屋で、情が深いのです。

 柴犬さんは、そんな優しい人間が大好きです。


 さて、助けられた子猫さんは、最初は柴犬さんに怯えていて、小さな身体をプルプル震わせたり、「ふーっ!」と威嚇してきたりしていました。


「わふ、わふっ」

(弱々しい生き物やなぁ。ボク、怖くないで)

 

 柴犬さんはズイズイと鼻を寄せて接近を試みて、「ふしゃー!!」と猫パンチの洗礼を受けたりしました。子猫さんの爪は、ちょっぴり痛ぁい。


「きゃんっ! ……くぅん……」

 あいたたた。

 でも、ボクは怒ったりせえへん。

 柴犬さんは伏せをして、「ボクは無害!」とアピールしました。

 前のご主人が言っていたのです。


『ええか、坊。でっかい体で力の大きなお前さんは、ちっちゃい子ぉにはやさし〜く、せなあかん』


『強いオスは、乱暴じゃあかんえ。たくましくて優しいオスが、格好ええんや』


 ご主人。ボク、優しくするで。

 格好よいオスになるで!


 じーっと大人しくしていると、子猫さんはチラチラと柴犬さんのお鼻を見ました。


 ボクは動かへん。

 ボクは置き物や。

 それにしても、子猫さん可愛いなぁ。

 お母さんいなくなってしもて、寂しいやろな。

 ボクも、寂しいのわかるで。


 ――そう思ったら、前のご主人に言われたからという理由だけでなく、自分の望みとして、子猫さんに優しくしたい気持ちがどんどん湧いてきます。

 

「……みゃあ」

 やがて、子猫さんは小さく鳴いて、そーっとそーっと近づいて。ぺろっと、可愛らしい舌で、柴犬さんの鼻を舐めました。


 自分の爪で傷つけたところを気にして舐めてくれたのだ、と気づいて、柴犬さんは心がぽかぽかしました。


「くぅん、わふん……っ」

「しゃーっ!!」


 ありがとう、と鳴き声をこぼすと、子猫さんはピャッと後ろに跳んで、とっても怯えた様子で威嚇してきます。

 なんでよ、今の怖かったんか。


「仲良くなれたらいいね」

 新しいご主人はほんわかと言いました。



 * * *



  数日間をのーんびりと暮らして、子猫さんからの「しゃー!!」が減ってきたころ。


 新しいご主人が柴犬さんに言いました。

「あのなぁ〜、子猫さん、お外に出てしまって帰ってこなくてなぁ。においとかで、探せるかぁ?」

 なんと子猫さん、ご主人が窓を開けていたら、隙間からピャッと逃げてしまったのだそうです。


「わふ!」

 わかったぁ!

 フンフンと臭いをかぐと、いろんな匂いがします。


 泥のにおい、飼い葉の匂い、人間が落としたタバコの吸い殻のにおい、お花のにおい、……子猫さんのにおい!


「わんっ!!」

 見つけたで〜〜!


 ドヤ顔で道案内して、たどり着いたのは放牧中の牛さんたちの群れの中。


 もーう、もーう、と鳴く大きな牛さんたちの鼻先でつつかれて、プルプル震える子猫さんを見て、芝犬さんはわふわふ鳴きました。

 お迎えにきたよ、と。


 すると、子猫さんはピャーッと走って、芝犬さんの体に身を隠すようにしたのです。


「わふ、わふ!」

 子猫さん、怖くないで。


「みゃーぅ……」

 子猫さんの幼い瞳が、明るい陽射しの中でキラキラして、とても綺麗です。


「よしゃ、つかまえた。帰ろうな」

 新しいご主人が優しく子猫さんを抱っこして、芝犬さんを褒めてくれます。

「いい子、いい子」

 ご主人は子猫さんを抱えつつ、器用にわっしゃわっしゃと柴犬さんを撫でてくれるので、芝犬さんは嬉しくなって尻尾をピコピコさせました。


「――わんっ!」

 撫でてもらうの、大好き!

 もっと褒めて! もっと撫でて〜っ!

「ははっ、よーしよし!」


 ひとりと二匹は、ゆっくりゆっくりおうちに向かいます。

 太陽が優しく輝いて、空は青々として澄み渡り。

 たくさんの生き物が過ごす世界の片隅で、家族のおうちがあるのです。


「わぅ、わぅ〜」

 子猫さん、一緒に新しいおうち、帰ろうな。


 芝犬さんはハフハフしながら子猫さんを見ました。

「……ぅ〜にゃ」

 子猫さんのお返事の声は、とても可愛い!

 芝犬さんは、ほっこりしました。


 ボクたち、家族になるんやで。

 新しいおうち、あったかで、のんびりで、ええとこやで。

 怖いこと、なーんもあらへん。

 ボクが守ってあげる。

 

 その日から、芝犬さんと子猫さんは一緒にお散歩したり、ひっついてスヤスヤと眠るようになりました。

 

 二匹は、優しいご主人のおうちで仲良し家族になったのです。

 


 ――めでたし、めでたし!

 


====

作品を読んでくださってありがとうございました。


『亡国の公主が幸せになる方法 ~序列一位の術師さん、正体隠して後宮へ』

https://kakuyomu.jp/works/16818093073133522278


新連載です。

中華後宮ファンタジーです。もし作風が合うかも、と思った方は、よければ読んでください! 

ぜひぜひよろしくお願いします( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ )❤︎

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