第10話 対峙

「……」


「……」


 お互い無言。


 誰ですか、振り向いたら逃げるかもしれないって考えた人。


 私ですね。


 はい、浅はかでした。


 馬鹿でした。


「……」


 距離を詰めてくるでもなく、逃げるでもなく、ただただ無言。


 え、怖いんですけど。


 その無言が怖い。


 なにもしてこないのが怖い。


 逆に動いてくれた方が、こっちとしても対処のしようが……ないですね。


 私に残されている選択肢は2つ。


 もう一度全力ダッシュで逃げるか、話しかけるか。


 うーん。


 体力が残ってないのに加えて、足が震えちゃって走れそうにない。


 じゃあ、

「あの、誰ですか」

 両の拳に力を込め、勇気を振り絞って話しかけた。


 ストーカーに話かけるなんて馬鹿だと思います。


 でも、これしか方法はないんだから。


 仕方ないじゃん。


「……」


 無言かーい。


 嘘でしょ。無反応なの。


 マジで怖い。


 恐怖で一歩後ずさった私に、

「げっ」

 ストーカーは一歩距離を距離を詰めてきた。


 更に数歩下がると、同じように詰めてくる。


 なにこれ。


 いたちごっこですか?


 てか、どうして私がこんな目にあわなきゃいけないの。


 逃げ回らないといけないの。


 悪いことしてないのに。


 ただ生きているだけなのに。


 コンビニに行っただけなのに。


 段々腹が立ってきた。


 もう逃げ回るのは嫌だ。


 家に侵入されるもの、隠し撮りされるのも嫌だ。


 決着つける、そう決めたじゃん。


 怒りが湧き上がると同時に震えが治まってきた足。


 一歩下がると見せかけて……相手が同じように距離を詰めようとしてきた瞬間、私は力強く地面を蹴った。


「えいっ」


 私が近づいてくるなんて想像していなかった相手がうろたえている間に、一気に距離を詰め。


 黒いキャップを払いのけてやった。


「えっ、嘘」


 目元が露わになった相手。


 マスクをしていてもわかる。


「どうして」


 私をしつこくストーカーしていたのは、誰よりも大好きな梨奈ちゃんだった。

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