第11話 ここが天国ですか?~男子禁制の花園

—————なんだろう…花の香りのような、胸がきゅんとくる、いい匂いがする…


結局、死んじゃったのかな…?


ジェア神様はまだ死ぬときじゃないっておっしゃってたけど………




「あ!男の子くんの目が覚めた!!」


重いまぶたを開けると、目の前には大きな瞳の美少女が。


て、天使…?

やっぱり、天国着いちゃったのかな…???


鮮やかな桜色ピンクの髪の毛に、薄褐色の肌。

極彩色の民族衣装を身にまとった、ハリがあって、弾力性を帯びた引き締まった肌。


さっきの胸きゅんな匂いはこの子のものだったのか。

なんていう花の香りなんだろう…でもただのいい匂いじゃなくて、ちょっと刺激的スパイシーな感じもする…。


僕は覚えずぽろっと言ってしまった。


「「かわいい…」」



「「えっ…」」



なんと彼女も同じことを口走っていた。


もしかして天使様とお互い一目惚れしちゃった…?

生きてて…いや、死んで良かった…かも…??


しかし、次の瞬間、


「なに~!?照れるじゃん!!!」


と、彼女の満面の笑みとともに頭上に平手打ちがヒットした。

僕は再度気絶した。




—————再び薄目を開けると、今度は少し騒がしかった。

いろんな人の声が混ざってる感じ。


「わっ!」


僕は飛び上がった。



「あ、男の子くんがもっかい起きた!」


僕は、今度は計9人の女性に囲まれていた。


「あわわわわわわ!!!」


さっきの美少女を中心に、綺麗なお姉さんたちが一斉に僕を見ている。


僕は慌てて挨拶した。

「な、なんかすみません!あと、なんかありがとうございます!!!!!」


お姉さんの一人が美少女ちゃんを小突く。

「チャラガ~!乱暴に扱うから男の子くんの頭おかしくなってんじゃん!!」


「ごめん…ちょっとポンってやっただけなんだけどな…」


美少女天使ちゃんの名前はチャラガというらしい。


それにしても絶景だ。

お姉さんたちはみんなかなりの美貌を誇っている。

これが百花繚乱というやつか…!

まあ死んじゃったけど、天国も悪いところじゃなさそうだ!


「僕、アストラっていいます。死んで間もないですが、これからよろしくお願いします!!」


チャラガとお姉さんたちは顔を見合わせ、しばらく沈黙して、やがて爆笑した。


「まだ寝ぼけてる!かわいいね!!」


どうやら僕の早とちりだったみたいだ。

僕は生きてこの世に帰ってきたらしい。



話を聞くと、僕が、広野で倒れていたところをこの人たちが拾ってくれたらしい。

しかも、衛兵が追い付いてきたのを追っ払ってくれたらしい。


「そうだったんですか…それはありがとうございました!」


いかにも姉御肌っぽい、お姉さんの一人が口を開いた。

「まぁ~アタシらも体制側の奴らなんて威張り腐ってて嫌いだからさ!」


そういえば、という顔でお姉さんはつづけた。

「あっ、アタシはチョスリ。こいつはチャラガ!」


「よろしくね、アストラ」

チャラガも続けた。そして少し顔をかしげて、微笑んだ。

左右を細く束ねた髪留めが揺れた。



な…なんて可愛いんだ………。



この人たちは舞踏旅団で、旅団名はウーダオ・クランというらしい。


ここで僕は、何か妙な違和感に気づいた。

感覚が…自分の中にふたつ存在する。

あれだ………さっき前世の記憶が完全に戻って、俺…じゃなかった、僕の中に前世、あんちゃんというかオッサンというか—————だった時の感覚が戻ってきてしまった感じだ。


ギガント・ゴーレムを倒した時、勝手に口が動き始めて、言霊を詠唱したのも、俺自身だったんだ…。いや、僕が…俺で…俺の名は………入れ替わっ…てるわけでもなく…うう…なんだか気持ち悪くなってきた。


ひとり静かに混乱する僕だったが、そこへチョスリが僕に顔を近づけてきた。


「んねぇ!…ちょっといい?」


顔近い…!

僕は唇を奪われる覚悟をした。

…いつでもどうぞ!


「あんた、もしかして“国家転覆狙ってる魔術師の少年”じゃないわよね?」

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