節分も大変なのです!

 豆が飛び散るデヴィル城の朝。


「神は~外~闇は~内~!!」


「神は~外~闇は~内~!!」


 バサッ! バッ! バッ! と、豆が撒かれる。


「もっとたくさん投げるのじゃ!!! 神が暗黒界に来てしまうぞ!!! まっ、来てもワシが倒してしまうがのぉ! ワハッハハハッハ!!!!」


「は、はい!!! モウスーグ様!!!」


「神は~外~闇は~内~!!」


「神は~外~闇は~内~!!」


 暗黒界悪魔国家の元国王のモウスーグとデヴィル家の手下達が豆まきをしている。

 今回おじいちゃんと一緒にいる手下は兎頭と鹿頭の二人だ。

 おじいちゃんは過去にどこかの神を殺したことがある。なので言ってることが冗談ではないと手下達もわかっているだろう。

 必死に豆を撒いている。



 そう。

 今日は節分だ。暗黒界にも節分という文化はある。もともとは地球の文化を真似て始めたものだ。

 悪魔族はこういう行事が好きだ。だからおじいちゃん達は朝から張り切って豆まきをしているのだ。

 ただこの節分も私にとっては大変な行事だ。

 おじいちゃん達に見つからないように外に出よう。

 そーっと……そーっと……



 1歩、2歩、3歩、足音を立てないようにゆっくりと……

 少しでも音を立てないように歩くたびに翼を使い少し浮かせて歩く。

 1歩、2歩、3歩、バレずにゆっくりと……



「あっ!!! エイエーン姫!!! おはようございます!! お散歩でしょうか???」


 言ってる側からすぐに見つかってしまった。



「孫よ!!! こっちにくるのじゃ!!! 一緒に豆まきをするぞ!!!!」


 おじいちゃんが手招きをして私を呼んでいる。

 私がこのまま行かなかったら悲しんでめんどくさい事になる。なので行くしかない。



「ま、豆まきかぁ……あはは、もう節分なんだね……わ、私も豆まいちゃおーかなー!!! あはは~あはは~」


 愛想笑いをしながら可愛い可愛い小さな手で豆をいっぱい掴んだ。

 そしてそのまま豆まきの掛け声と共に豆を投げる。


「神は~外~闇は~内~!!!」



「うぉおおおお!!! これは良い闇が来ますよぉおおお! モウスーグ様!! 今年も暗黒界は平和が確約されましたね!!!」



「孫よぉおおおおおおお!!!!! 素晴らしい豆まきじゃぁあああ!!! もっと! もっと投げるのじゃ!!!」



 私が豆を投げるたびに騒ぎ出す手下達とおじいちゃん。どんなに適当に投げても温度差は変わらない。むしろテンションがどんどん上がっている気がする。

 誕生日の時に学んだが家族だけではなく悪魔族全員が私のことを好きなようだ。


 そして、私が嫌がっている行事は今やっている豆まきではない。

 この後にが待っているのだ……



「おはよう。早いなエイエーン」


 お兄ちゃんが豆の音に誘われてやって来た。



「ほぉ~豆まきをやっているのか。お兄ちゃんにも豆まきを見せてくれ」


 誕生日の時は私のことが好きすぎてロウソクの火を吹き消しただけで気を失っていたが……今回はただの豆まきだ。

 気を失うことはないだろう。と、そんなことを思いながら豆を思いっきり撒いた。



「え~い!! 神は外~!!! 闇は内~!!!」


 しかし私は思ってしまった。豆をまく姿も私は可愛いなと。何しても可愛い可愛い悪魔ちゃんなのだと。

 そして騒ぐこともなく反応が無いお兄ちゃんの姿を恐る恐る見てみる。



 お兄ちゃんは石のように固まっていた。

 誕生日の時のように立ったまま気絶していたのだ。



「またかよ~」


 呆れてお兄ちゃんの方に豆を投げた。

 気絶していなかったら嬉しすぎて多分消滅するだろう。

 何度も豆を投げてあげた。

 石のように固まったお兄ちゃんからは反応がない。

 だから無意味にずっと豆を投げ続けた。

 理由はない。ただ投げたくなったのだ。



 そんなことをしていたら奥から声がかかった。



「エイエーンちゃ~ん! どこなの~? 私の可愛い可愛い娘ちゃ~ん!!」


 ママだ。

 ママが私を探している。ママが私を探しているという事はが始まってしまう……

 逃げるか、いや、この状況で逃げることはできない。

 ママや手下を振り切ったとしてもおじいちゃんがいる。

 ここは素直に顔を見せるしかない。



「あらぁ~こんなところにいたのね!! 探したのよぉ~ほらこちらにいらっしゃい!! 準備できたわよぉ~!!!」

 自分から姿を晒す前に見つかってしまった。


 そして例のの準備ができたらしい。



 ママはそのまま私の腕を引っ張りながら食堂まで連れて行った。



「エイエーン姫。ご準備ができました。こちらへどうぞ」


 白い雌兎の使用人が席へ案内する。

 そのまま使用人は黒くて可愛いエプロンを私につけてくれた。

 座った席の向かいには暗黒界悪魔国家の現国王のパパが座っている。

 だが距離はかなりある。

 長~~いテーブルでデヴィル城の全員が座れるほどのテーブルだ。

 ちなみにデヴィル城にいる悪魔族の家来たちは総勢50人いる。門番や料理魔など役割がある悪魔がほとんどなので全員が食堂に揃うことはない。

 だがパパやおじいちゃんは全員分の椅子を用意している。そのことを考えると素晴らしい国王だと尊敬する。



 そしてぞろぞろと悪魔達が食堂に集まって来た。


か? が始まるのか?」

だろうね」

だな!」


 集まって来た悪魔達がざわざわしている。



 ある程度集まってからパパが口を開く。


「毎年!!! 恒例のぉおおおお!!!!! 我が娘エイエーンの豆食いを始める!!!!!!! ここにいる悪魔族よ!!! エイエーンが豆を食べる姿を特別に見届けることを許可する!!!!!」



 そう。

 とは豆食いのことだ!


 私にとって豆食いは地獄のような行事だ。



「うぉぉおおおお!!!! 今年も始まったぞぉおおお!!! エイエーン姫!!!! がんばってくださーい!!!!」


 集まっている悪魔達が一斉に盛り上がった。



 豆食いは年齢の数分、豆を食べる行いのことだ。


『来年も健康で幸せに過ごせますように』という願いが込められているらしい。素晴らしいことだ。

 私を愛する悪魔達は必ずこの行事を行いたくなることはわかる。わかるんだけど年齢の数分の豆を食べるってかなり辛いぞ。

 悪魔には寿命がない。消滅しない限り永遠と生きることができる。

 そして私は見た目は地球人で例えるとピチピチのJCやJKくらいだが実際の年齢は4万7714歳だ。


 つまり4万7714個も豆を食べなくてはいけないのだ。

 悪魔だからとは言えこんなにも豆を食えるわけがない。

 それでもパパやママ、おじいちゃん、手下達が目をキラキラと輝かせながら私を見ている。

 私が食べ切れるのを期待していいるのだ。もうやるしかない。


 去年は半分くらい食べた時に全てリバースしてしまいギブアップしてしまった。

 今年は誕生日のロウソクの火消しを成功させることができた。

 だから豆食いも成功させて見せよう。

 私はメラメラ燃え上がり尻尾をビュンビュンと振り回した。小さな翼もバッサバッサと動いている。



 ちなみにこの場にいないお兄ちゃんは外でまだ気絶しているのだった。



「あの~暖かいお茶を用意して!!!」


 使用人に暖かいお茶を頼んだ。今回はガチで攻略する。豆を食べてる途中でお茶を飲めば続くだろ。

 ただ飲みすぎてしまうと早く腹が膨れてしまう。考えながら豆食いをしていくぞ。

 私だってやるときはやるんだっ!!!



「お待たせしました。暖かいお茶です」


 使用人が暖かいお茶を運んできた。すぐに飲めるくらいの温度に調整してある。さすが私のことをよく知る使用人だ。

 これで準備万全。では豆を一粒だけ食べてみんなの反応を見てみようじゃないか。



「あ~ん」


 パクッと豆を一粒食べた。


 すると……


「孫よぉおおおおおおおおお!!!! ついに始まりの一粒をぉおおおお!!! 感動じゃ! ワシは感動で涙が止まらん!!!!!」


 おじいちゃんは泣きながら叫んでいる。

 先ほど一緒にいた兎頭の手下と鹿頭の手下と肩を組みながら騒いでいるのだ。



「さすがよぉお!! 私の娘は素晴らしい!!! 可愛すぎる!!!! エイエーンちゃん頑張ってぇええ!!!」


 ママもおじいちゃんに負けないくらい声を上げて盛り上がっている。


 そんなママとは違いパパは座りながら静かに泣いていた。

 おそらくこの距離がパパにとって限界なのだろう。これ以上近づきすぎたらおじいちゃんのように発狂してしまうに違いない。



「エイエーン姫!!! 頑張ってくださいー!」


「ぬぅぐぅうう……ぐすっ」


「今年も見られて幸せだぁあ!」


 デヴィル城にいる手下たちは応援する者もいれば、泣きまくっている者もいた。



 ゆっくりと1粒ずつ食べるとすぐにお腹がいっぱいになる。だからと言って急いで食べるのもアウトだ。急ぎながらでもゆっくりと豆を食べて行こう。


 自分のペースを早速見つけ食べ続けるエイエーン。



 5粒くらいを掴みそのまま口に運ぶ。豆を噛み砕き飲み込んですぐに次の豆を口の中に投入。

 それを繰り返し苦しくなってきたらお茶を飲む。これなら長く食べ続けられるはずだ。



 私が食べてる時は相変わらず全員うるさい。

 まるで祭りだ。祭りでも迷惑になるくらい騒いでいるぞ。



「ウォオオオオオオ!!!! すごい食べっぷりです!!! 感動です!!! 涙が止まりません!!!!!」


 手下達は泣いているもの同士で背中をさすっている。

 嬉しさのあまり肩も組んで踊るものも出てきた。



「神どもにもワシの孫の姿を見せたいくらいじゃ!!」


 おじいちゃんは拳を握り締めて泣きながら叫んでいた。



「食べてる姿も可愛いわぁああああ!!! あ~~~んエイエーンちゃ~~~ん最高よぉおおお! このまま頑張ってぇええええ!!!!!」


 ママはくるくると回りながら応援している。



 そして2時間が経った時に異変は起きた。



「も、もう無理……」


 2時間も経っているのにまだ豆は半分も減っていない。

 それなのに限界がきてしまった。


 苦しい。苦しい。


 こんなに小さな豆なのに2時間も食べ続けるとこんなにも苦しいものなのか。

 うげ……リ、リバースしちゃいそう。

 少し休憩してもいいのかな?

 ちょっと横になって腹の調子を戻せれば、また再開できるはず……



「マ、ママ?? ちょっとだけ休憩していいかな??」


 とりあえずダメ元でママに聞いてみた。

 可愛くおねだりすればママなら許してくれそうだ。



「ええぇ! いいわよ!! 可愛い可愛いエイエーンちゃんの頼みですもの!!」


 よかった。これで休憩できる。とりあえず横になろう。


 うっぷっ……うゔぇ……

 少しだけ、少しだけ寝よう。


 一番お腹に負担のかからない寝方をして瞳を閉じた。


 寝過ぎて起きれなかったらこのイベントは終わる。それはそれで嬉しいが私自身がそれを許さない。

 今年こそは必ず成功させるんだ。絶対、成功させて見せる!



「そこの……ゲッ、使用人ちゃん……ヴォゲ……4時間、4時間経ったら起こしてくれ、ウグ……」


「かしこまりましたエイエーン姫」


 お茶を持ってきてくれた白い雌兎の使用人に4時間経ったら起こすように指示した。

 4時間たっぷり熟睡すれば腹の調子も戻るだろう。

 そして残りの豆も完食し今年の豆食いを成功させられる。

 最後に笑うのはこの私だ!!



 再び目を閉じ眠りにつく。



 ちょうど4時間が経過し使用人は時間通りに起こした。


「エイエーン姫。4時間が経ちました。起きてくださいませ」


 なんとも正確でしっかりしている使用人だ。


「ぬぅうう、もう起きる時間か……」

 意外としっかり眠ることができた。

 自分のお腹の調子を確認するが、だいぶ楽になっている。

 いけそうだ。いや、いかなければならない。



 辺りを見渡すと4時間前と同じ位置に全員いた。

 もしかして私が寝てる間全員1歩も動かなかったのだろうか?

 多分そうだろう。確かに寝ているときは静かだった。だから熟睡できた。

 実際はどうだったのか聞きたかったが聞くのは怖いので聞かない。


 全員が私の寝顔を見ていたに違いないがこれ以上は想像するのをやめよう。



 そのまま豆がたくさん置かれたテーブルに座った。

 すでに暖かいお茶が準備されていた。なんとも優秀な使用人だ。

 まず用意されたお茶を一口飲んで気合いをいれ直す。



 豆食い再開!!!!!!!



「いけぇえええ!!!! 頑張れ!!! エイエーン姫!!!!!!」


「待っておったぞ!!! 孫よぉおおお!!! やり遂げるのじゃあ!!!!」


「エイエーンちゃーーーーんファイトぉおお!!!! 可愛いわ! 可愛いわ!!!」


 みんなが応援してくれている。

 パパはまだ泣いていて声が出ないようだ。


 そしてこの場にいないお兄ちゃんはまだ外で気絶しているのだろう。

 誰かお兄ちゃんを助けてあげてくれ。

 でも今はお兄ちゃんの心配よりも自分の心配だ。



 さっきみたいなペースだとまたすぐに苦しくなる。

 それなら今やるべきことは一つ、それは……や・け・食・い・だ!!!!!



 オラオラオラオラオラオラオラオラオラ

 オラオラオラオラオラオラオラオラオラ



 豆を掴んでは口に入れる。それを素早く行う。

 もうやけくそだ!!!!

 一気に全て平らげてやる。気合でなんとかしてみせる。

 絶対に成功させるんだ。



 オラオラオラオラオラオラオラオラオラ

 オラオラオラオラオラオラオラオラオラ



 あれ? 意外とこっちの方が楽だぞ。

 このまま一気にいけるんじゃないか!!!

 しかも豆が無くなっていくペースがさっきよりも段違いだ!!!

 いける! いける!! このまま行けるぞぉおおお!!!!



 オラオラオラオラオラオラオラオラオラ

 オラオラオラオラオラオラオラオラオラ



「まるで悪魔!!!!! いや悪魔だ!!!! こんなに豆を食べている姿が悪魔なのはエイエーン姫しかいない!!!!!」


 豆をやけくそに食う私の姿が悪魔のように見えたのだろう。

 私は悪魔なのだが可愛い可愛い悪魔ちゃんだから悪魔と言われるのは普通だ。

 しかしなぜだろう。なんだか嬉しくて尻尾をブンブンと振ってしまっている。

 この勢いならいける! このペースのまま食べ続けるぞ!!!!



 と、思っていたが


 突然動きが止まってしまった。



「エ、エイエーン姫???」


「孫よ?」


「エイエーンちゃん?」


 全員が心配している。



「どうしたんだ?」


「何があったんだ?」


 家来たちもざわざわしている。



 先ほどまで悪魔のような表情で勢いよく豆を食べていたのに、いきなり動きが止まってしまったのだ。

 それは誰でも心配するだろう。



 そして私は動き出した。



 キラキラと宝石のように輝いている瞳をうるわせながら……



 豆を掴んでいた手を震わせながら……



 ヴゲェエエエエエエエエエエエエ!!!!!!



 今まで食べた豆を全てリバースした。

 去年よりも食べた量は少ない。

 私には豆を4万7714粒、完食することは無理だった。



「エイエーン姫!!!!!!!」


「孫よぉおおおおお!!!!!」


「エイエーンちゃぁあああん!!!」



 ハァハァ……


 も、もう1回でる……



 ヴォゲェエエエエエエエエエエ!!!!!



 来年は絶対にやりたくない。

 私が悪魔族の王になって"豆食い"を暗黒界から無くしてやる。

 絶対、絶対だ……もうこんな思いしたくない……



 ヴヴォゲェエエエエエェ!!!!!!!!



 この後、エイエーンが吐いてしまったところは綺麗に掃除された。

 そして、用意されていた残りの豆はデヴィル城の悪魔たちみんなで美味しくいただきました。

 エイエーンは先ほど4時間寝ていたソファーで再び横になった。



 そしてお兄ちゃんはまだ気絶したまま立っていたのだった。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る