誕生日も大変なのです!

『ハッピ~バ~スデ~エイエ~ンひめ~♪ ハッピ~バ~スデ~エイエ~ンひめ~♪ ハッピ~バ~スデ~エイエ~ンひ~め~~♪ ハッピ~バ~スデ~エイエ~ンひめ~♪』



 パパ、ママ、お兄ちゃん、おじいちゃん

 そしてデヴィル家に仕える家来達も歌っている。

 デヴィル城にいる全悪魔が勢揃いだ。



「「「エイエーン姫!!!!! 4万7714歳のお誕生日おめでと~うございま~す!!!!」」」



 パァアアアアン!! パァアアアアン!!! パパァアアアンッツ!!

 クラッカーが一斉に鳴らされた。



 ご覧の通り、今、私は4万7714歳の誕生日を祝われている。



「うぉおっおおおっ……ぬぐぅうううぅ~」


 なぜだろうか?

 ただの誕生日なのにパパとお兄ちゃん、そしておじいちゃんが大泣きしている。

 それに誕生日なんて4万7714回もしている。

 毎回なぜこんなにも大泣きして喜んでいるのだろうか。相当、私のことが好きなんだろうな。

 嬉しいが私は、引いてしまっている。いや、これは引くほど嬉しいということなのかもしれない



「さぁエイエーンちゃん!!! ロウソクの火を吹き消してちょーだい~!!!」


 ママが満面の笑みを浮かべながら大声で叫んだ。



 誕生日といえばケーキの上に刺さっているロウソクの火を吹き消すのも一つの楽しみだ。

 ただ、そのロウソクは“数字が書かれた可愛いロウソク”では無く、

 きちんと、正確に年齢の数分のロウソクが刺さっているのだ。

 そう。

 もうお分かりのとおり4万7714本ロウソクが刺さっている。



 私は悪魔。

 可愛い可愛い"悪魔ちゃん"だ。



 悪魔だからと言って肺活量がすごく一瞬で4万7714本のロウソクを吹き消すなんてことはできない。

 パパもママもお兄ちゃんもおじいちゃんも暗黒界では最強レベルだけど私は普通の、か弱いか弱い“悪魔ちゃん”だ。

 私がどれだけ、か弱いかをみんなにわかるように地球人に例えて説明すると14歳中学生くらいのか弱さなのだ。



 だからこの4万7714本のロウソクを吹き消すのは本当に大変だ。

 去年はロウソクを吹き消し終わった後、クタクタで倒れてしまった。

 その時は、もちろんのこと家族全員が死ぬほど心配していた。

 悪魔族はそんなことじゃ絶対に死ぬことはないが、本当に死ぬんじゃないかと思うくらい心配していた。

 それなのに今年もロウソクの火を吹き消さなきゃいけないなんて背筋がゾッとする。

 しかも、去年よりも1本増えている。酸素不足でまた倒れてしまう。もう無理だ。耐えられない。こうなったら正直に話すしかない。



「マ、ママ~……あのね……去年はロウソクの火を吹き終わった後、私倒れちゃったでしょ~……だ、だからさ~……今年も倒れちゃうかもだから、その~……ロウソクの火、吹き消さなくてもいいかな~? また倒れちゃうの嫌だからさ~……ダ、ダメかな?」



 宝石のようにキラキラしている瞳に涙を浮かべ、さらに輝きを増しながら訴えかけた。

 これなら私のことを大好きなママなら許してくれるだろう。



「ぬぉおおおおお!!!! 孫よぉおおお!!! エイエーンよぉおおお!! そんな辛い思いをしていたのかぁあああ!!!」


 なぜかママよりも先におじいちゃんが反応し大号泣している。

 私の演技が凄すぎたのか、おじいちゃんもかなり心に刺さっている様子だ。胸を抑えて膝を付き苦しそうな表情で涙を流しているではないか。

 この反応を見るに今年はロウソクを吹き消さなくてすみそうだ。今年こそは楽しく誕生日を送れるかもしれない!!


 そんな期待を一瞬でも抱いた私はバカだ。

 いや、私は可愛い可愛い悪魔ちゃんだ。決してバカではない。

 私以外の悪魔が私に対してバカに、親バカのようになっているのだ。



「おじいちゃん達がついておるぞぉおおお! 今年は絶対、ぜーーったいに大丈夫じゃ!!!! 必ず最後まで吹き消せるぞぉおおお!!!! おい、お前らもしっかりと応援するのじゃ!!!! せっかくのわしの孫の誕生日だぞぉおおお!!! 応援に手を抜いてでもしたら、即消滅じゃぞ!!」



 お、おじいちゃん……なんで、なんでそうなった!

 完全に逆効果だった! 火に油だ!



「「「エイエーン姫!!! エイエーン姫!!! 頑張ってください! がんばれー!!! ファイトです!! 絶対できます!! 諦めないでください! 今年こそは!!!」」」



 手下や使用人達が全力で応援を始めてしまった。

 いや、元々結構な熱量で応援していたけどおじいちゃんの言葉に活かされて応援が更に熱を上げたのだ。

 応援の熱量だけでケーキが溶けてロウソクの火の火力が増しそうな勢いだ。



「パパ達もついているぞ! お前なら大丈夫だ!」


「そうよエイエーンちゃん! ママもいるわ! 今年こそはできる! 頑張って!」


「お兄ちゃんがそばにいてあげるかな! しっかりと楽しめよ」



 あ、ヤベーなこれ、どうしよう。

 もうやるしかない雰囲気だ。



 悪魔ちゃんは不安で尻尾が垂れてしまっている。そして小さな翼もショボーンとしている。

 気分が落ちている証拠だ。



 悪魔ちゃんの気持ちも知らずに、その場にいる悪魔達全員の瞳がキラキラと輝いている。



「う……うぅ、わ、私……が、がんばるね。あははは……お、応援よ、よろしく……」


 もう仕方がない。やるしかない。

 4万7714本のロウソクが刺さっている大きく長~~いケーキの前に立った。



 ケーキは黒と赤の2色だけ使われている。黒と赤は悪魔族の象徴の色だ。

 私は料理をしたこともなければ材料の名前もわからない。

 なのでこのケーキがどのような手順どのような材料で作られているのか全くの無知。

 ただわかることはこのケーキは私の小さな翼がパタパタと止まらなくなるくらい超絶に美味しいってことだ。

 こうなってしまったのなら頑張ってロウソクの火を消してケーキを食べてやる。

 絶対に食べてやる!!!!!!

 やってやるぅ!!!!



「フゥ~~~~」


 ぷるんと膨らんだ柔らかそうな唇は肺から出る息によって軽く振動する。 

 悪魔ちゃんの息吹によってロウソクの火が5本消えた。



「「「ウォオオオオオオオォオ!!!」」」


 手下達が歓喜で騒ぐ。



「いいぞいいぞぉおお!! さすがわしの孫じゃ!!!!! そのままいくのじゃ!! 頑張るのじゃ!!!!」


 おじいちゃんも喜び、はしゃいでる。



「毎年毎年成長……ううう……すまん……涙が……」


 パパは涙を溢しながら膝を落とした。

 どんだけ感動しているのだ。



「キャァアアアアアア!!! エイエーンちゃん!!! いいわ!! 可愛いわ!!! すごくいい!!!」


 ママも喜びすぎだ。



 お兄ちゃんは立ったまま気絶している。

 目からは涙が溢れ流れていた。

 そんなに妹の頑張る姿が心に響いたのか。

 と、言うよりも気絶までするなんて重度のロリコンだ。



 たったの5本ロウソクの火を吹き消しただけなのにこの盛り上がり。

 最初に消したからこんなに盛り上がってると思うだろうけど、これが毎回同じくらいの盛り上がりをするから本当に恐ろしい。

 試しに1本だけ吹き消してみよう。

 軽く1本だけを狙って「フゥ~」と、狙い通り1本だけロウソクの火を消すことに成功。



 すると



「「「ウォオオオオオオオオ!!!!! 消えましたよぉおおお!!!!」」」


 地球人にわかるように説明するとサッカーや野球で点数を取ったくらいの盛り上がりだ。



「見ろ!!!! わしの孫を!!! 今、消したぞ!!!! どうじゃ?どうじゃ?」


 ウサギの頭の手下と嬉しそうに会話をしているおじいちゃん。



「み、見ましたよ!!! エイエーン姫は素晴らしいです!! 私共も涙が止まりません。うぐぅううう……あうっ」


 おじいちゃんと会話をしていたウサギの頭の手下も泣いてしまっている。



「あなた……私たちの娘がこんなにこんなに……」


「ううぅうううぅうう…………うう……ぐすっ……うう」


「エイエーンちゃんを産んでよかったわ……」


「うぉおお!! エイエーーーン……このままいくんだー! 火を吹き消せー!!」


 パパもママも感動し涙を流しながら抱き合っている。



 そしてお兄ちゃんはまだ立ったまま気絶している。

 本当に最強の戦士かと疑ってしまいたくなる姿だ。



 あと何時間でこのロウソクの火を消し切れるのだろうか。

 途中で火が消えないようにこの火には細工がされている。パパの魔力で私以外がロウソクの火を消せないようになっているのだ。

 これじゃまるで修行だ。辛い。辛すぎる。

 まだ6本しかロウソクの火を消してないけど辛すぎる。

 とりあえずまだ始まったばかりだ。私にはまだまだ体力はある。

 集中してロウソクの火を消しまくろう。そうすれば必ず全て消すことができる。

 ちりも積もればなんとか? ローマは1日がどうたら? って言葉が地球という星にあったそうだ。

 それをやればいいだけだ!



 フゥ~


 フゥウウウウ~


 フッ!!!


 フゥウッッツフゥ~


 アッフゥウゥ~



 そして1時間が経過した。



 私は頑張った。1時間集中してロウソクの火を消しまくった。

 4000本くらいは消えただろうか。

 4万7714本消すのなら単純計算で残り12時間くらいはかかる。

 これでも頑張ったほうだ。

 呼吸がちゃんとできてるのかどうかよくわからない状態だけど、やればできる。

 私の肺活量を舐めるなよ~!!


 ちなみにあれから1時間経ったみんなの状態を見てみましょう。


「フゥ~」


 1本だけロウソクの火を消してみた。



「ヌゥオオオオ!!! また消したぞぉおおお!!! さすがじゃ!!! わしの孫は暗黒界を救うぞぉおお!!!」


 1時間経っても変わらないテンションのおじいちゃん。むしろテンションが1時間前より上がってる気がする。



「モウスーグ様!!!! 素晴らしすぎます!!! 私共も今の吹き消しで心が救われました!! うぅうう……あうっ」


 先ほどからおじいちゃんとずっと喋っている兎頭の手下もなかなかだ。

 小さい頃から私を見てきたから当然と言えば当然かもしれない。



 パパもママも大泣きしながらずっと見ている。なぜここまで親バカなのか。どうしてそんなに泣けるのか。娘を愛しすぎている。

 私は嬉しいけど……正直引いてしまうレベルだ。


 そしてお兄ちゃんはまだ気絶しながら立っていた。

 いつまで気絶しているのだろうか。



 1時間ロウソクの火を吹き消して気付いたことが一つある。

 飽きた。というか、もう辞めたい。もう無理だ。まだまだあるロウソクを見ると地獄だ。

 暗黒界は地獄のようなところだけどその中でもここが一番の地獄だ。


 そして悪魔ちゃんの地獄はまだまだ続く……



 フゥ~


 フゥウウ~



 どうせ時間がかかるなら体力を残しながら上手く消してやろうじゃないか。

 どんなに時間がかかっても倒れてしまわないようにしないと。

 4万7714本消し終わった後に、この美味しいケーキを食べてやろう。

 最後に笑うのはこの私、可愛い可愛い悪魔ちゃんだ!!



 フゥ~


 フッ~



 予想した時間よりも大幅に遅れたが、16時間ロウソクの火を吹き消し続けたおかげで、


 ついに


 ついに


 ついに


 4万7714本あったロウソクのは最後の1本となった。



「見よ!!!! 最後の1本じゃ!!!!! うううぅううううぬぉおおおおお!!! よくぞ! よくぞぉおお!!! ここまで!!!! わしの孫は、うぅうううぉおおお……」



「モウスーグ様!!! 最後の1本です!!! 私共もこの1本が消えたらどうなるかわかりません!!!!! 感動で消滅してしまうかもしれません!!!!!」


 手下が消滅して減ってもらっては困る。

 寿命がない悪魔だが消滅するということは死を意味する。



 本当に消滅しそうで怖いのだが私はケーキを食べるために火を吹き消すんだ。



「最後よ! エイエーンちゃん! 頑張って!!!! 最後までママ達は見てるわよぉおおお!!!」



「ううぅ……うぇえ……ぬ……ぐぅう……」


 パパは泣きすぎて声が漏れている。鼻水も涙もいっぱいで顔がぐちゃぐちゃだ。

 これでも暗黒界悪魔国家の国王だぞ。



 お兄ちゃんは最後の1本という大事な時でも気絶したまま立っていた。

 もうこれはお兄ちゃんだったものであってお兄ちゃんではないのかもしれない。



 私もよくここまで頑張った。本当によく頑張った。

 もうお腹が空きすぎてヤバイ。と言うか眠い。

 この最後の1本を吹き消してケーキを思う存分食べて寝るぞ。

 もうロウソクの火を消している間に日付は変わってしまっているが、この際そんなことは関係ない。

 今日は記念すべき私の4万7714歳の誕生日。

 来年の誕生日もまたこんな辛いことがあると思うと心が痛むが、この心の痛みまた来年の誕生日に取っておこう。

 今は目の前のロウソクの火を吹き消し、ここにいる全ての悪魔族に感動の嵐を与えてやろうじゃないか!!

 どれだけ盛り上がるか楽しみだ。くっくっく……



「みんな……最後まで見ててくれてありがとう!!!! わ、私は今日の誕生日を絶対に忘れないわ!!! じゃあ最後の1本を消すね!!!! カウント~!」



 10



 9



 8



 7



 6



 5



 4



 3!



 2!!



 1!!!



 0!!!!



 フゥ~~~~!!!!!!



 最後の1本のロウソクの火を吹き消した。



 さぁ最後の1本だ。どれだけ盛り上がるんだ?

 うふっふ……楽しみだ。




「………………………………」




 あれ? おかしい。

 さっきまで騒がしかった悪魔族が誰も騒いでない。

 むしろ今までで一番静かだ。なんの沈黙なんだこれは。


 恐る恐るみんながいる方へ振り向いてみた。



 パパもママもおじいちゃんもデヴィル家の家来たちも

 ここに集まった全ての悪魔族が感動のあまり気を失って倒れていた。

 もちろんお兄ちゃんは初めと変わらず立ったまま気を失っている。

 立って気絶しているのはお兄ちゃんだけ……



 その光景を見て私も一気に疲れが来た。


「な、なんだこれはァアア!!」


 と、最後に腹の底から声を出し私も気を失ってしまった。



 悪魔族以外の皆さん。

 今なら暗黒界最強の悪魔族を倒すことができますよ。

 暗黒界悪魔国家を滅ぼすことができますよ。

 攻めるなら今です。



 悪魔ちゃんの誕生日は大変だった。

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