戀文

西しまこ

嵐のような避けられぬ夢

風に乗りが声届く いにしえの既に見し人もう会えぬ人


あの人と聞きし音色ねいろかすかなる あの時すらも茫漠たりて


恋う心われに教えし君はいま空のあなたのずっと向こうに



心臓が止まるかのな驚きよ が呼びし名を見た瞬間に


微睡まどろんで昔に還る今だけはそう今だけはここにさせて




何もかもわれの全てで恋をした 嵐のような避けられぬ夢


片時も離れたくないと初めての感情にわれ驚かれぬる


ずっと奥こんなに深く潜るのか ぬるんだ泥のやわらかき毒



体温にほっと息つきまどろみて この一瞬が永遠なりけり


どこまでもどこまでもいくよ 寝顔見て輪郭なぞり唇寄せて


1Kのシングルベッドに全てり抱きしめる腕も叶わぬ未来も





服の下笑顔の写真見つかりて 破り切れないせつなき想い


これ以上真綿の棘に耐えられぬ 春のあの日に心に決めた





久方のかれの声聞き甦る遠くにりし恋するわれ


待ち合わせきれいでいたいとまだ思う何年ぶりかに約束をして


触れられぬ君は雨夜の月のよう未来永劫変わることなく




細き糸年に一度の言の葉よ ただそれだけでただそれだけで


巡りたる季節の分だけ想いあり 忘れなくていいただしていれば


何ひとつ悔いることなし明るさも暗さも全て血や肉となり





目を閉じて届かぬ文を書きつける いつまでもいつまでもいつまでも

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戀文 西しまこ @nishi-shima

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