機獣戦争

ポンコツ醤油

機獣島制圧編

第1話 平和の崩壊

 我々のいる時代から何年程たってからの出来事だろうか。そこまで広いとは言えないような島で、数千人程の人々は暮らしていた。

 

 人々は島の中心にある巨大な洞窟に家を築き、文明を造り上げた。


 近未来と言えど、そこまで発展した文明はない。一家の父親は働き、母親は家事を、子供は学習を。我々と大して変わりようのない暮らしをしていた。


 ただし、この島では、子供たちは二十歳になるまで、洞窟から出てはいけないという決まりがあった。








 「カイ。南部先生、理科のワークっていつまでって言ってたっけ先生が?」


 青梅カイ、14歳。建築家の家に生まれた。どこまでも合理主義で掴み所のない性格の少年。右目の辺りにある火傷の跡はうまれつきだ。


 「東、それ、今日までだぜ。」


 東生太、カイと同じく14歳。研究家の家に生まれる。好奇心旺盛な性格だが、その反面人と関わるのが苦手であり、カイ以外の人間には心を開いていない。


 「ど、どうしよう……。先生にまた、怒られちゃう……。」


 「しゃあねえな。俺もやってねえ。」


 東は少し困惑した表情を見せる。


 「よし。ヴィオラのやつに見せてもらうか。」


 「あぁ、うん。」


 二人はヴィオラの元へ行った。


 「あんた。また課題写させてって言いに来たんじゃないでしょうね。」


 金髪に三編みの少女ヴィオラ。クラスでもトップレベルの秀才だが、半面面倒臭がり屋なところもあり、自分に得のないことにはあまり京見を示さない。


 ちなみに東の片想いの相手でもある。人を信用しない東が彼女に惚れたのには深い訳がある。そのことはカイも知っている。


 「頼むよぉ。今回は俺だけじゃないんだよ。東のやつもなんだよ。」


 「何人で来ようったって駄目なものは駄目。」


 「ケチだなぁ。」


 「ちょっと……。あの、」


 後ろで黙っていた東が小声で話し出す。


 「何よ?」


 「少し、課題……。見せてくれない?」


 「まあ、そこまで言うなら。」


 







 「ナイスだ。東。」


 「無理だってぇ。どうしても体硬直しちゃうって!!」


 「はじめは誰だってそんなものだよ。気にするなって。」


 「う、うん。」


 「それでさ。あの話し。続き聞かせてくれよ。いいだろ ?」


 「カイ、お前そのために俺に恩売ろうとしただろう?」


 東がカイを少し睨み付ける。


 「さあ? どうだろうね?」


 カイは東から目をそらす。


 「まあいいや。ありがとな。カイ。」


 東は少し照れたように言う。


 「この洞窟の向こう側に広がる世界。丘全体に覆い繁る草花。近くに流れる川には様々な魚が生息している。鯉っていう魚は何でも食うらしい。たまに赤色とか綺麗なのもいるらしい。」


 「木々が覆い繁った森の中を歩けば、狸って言う毛深い犬がいっぱいいるらしい。道の端の溝にはでっかい蛇やネズミがいるらしい。それらを狙って猫っていう小さな犬みたいなやつが集まるらしい。」


 「はっ。夢みたいな世界だな。」


 「俺たちもいつかこの薄暗い洞窟から出て、動植物に囲まれた楽園を目にするんだ。」


 「ハッ。何だ何だ。面白そうな話ししてんじゃねえか。東。」


 神品徹。度々東に絡んでくる嫌なやつだ。


 「え? 楽園だって? あったらいいなぁそんなもの。」


 神品が東に近づいた瞬間、カイはを殴り倒した。


 「行くぞ。東。」


 「え? なんで? あいつまだなにもしてないのに。」


 「どうせまたなんかしてくんだろ。じゃあ先に手を打っておかねえとな。俺、面倒事嫌いだから。」


 








 俺と東が歩いていた時だった。


 「カサカサ。」


 今までに聞いたことのないような音が聞こえてきた。


 「何の音だ?」


 「東!! カイ!! 逃げろ!!」


 南部先生が血相を変えてこっちへ走ってくる。頭部からは流血をしていた。


 「死ぬ……、ぞ。」


 南部先生は何者かに引き摺られていった。


 「先生!?」


 「カサカサ」


 カイと東が後ろを振り返った瞬間。そこにいたのは人の形をした灰色の鉄屑であった。


 「何だ? こいつは?」


 「き、来たのか?」


 事務員の佐藤さんが言う。


 「機獣が……。」


 鉄屑たちは鋭利な刃物で近くにいた人々を斬りつけはじめる。


 「逃げるぞ。東。」


 顔面蒼白で動かない状態の東の手を引っ張り、カイは走り出した。数体の鉄屑たちは二人の元へと向かってきた。


 「逃げるって、どこ行くの?」


 「……。とりあえずだ。奴らを撒きながら家に向かおう。学校からなら東の家のが近え。いいよな?」


 「うん。わかった。」


 カイと東は近くの教室に駆け入った。だが、意図も容易く壁を突き破る機獣を前に追い詰められる。

 

 「やっばいな。こりゃもう飛び降りるしかねえな。」 


 カイの言葉に東は動揺した様子で言う。


 「そ、そんなん無理だよ。」


 「じゃあここで死ね!」


 「……。」


 「死にたくないなら行くぞ。」


 カイと東は窓義に立った。そしてそこで衝撃的なものを見た。


 「こ、これは……。」


 辺りは火の海だ。洞窟内は煙で覆われ、多くの人々が鉄屑により殺されていた。


 「な、何なんだよ。何なんだよ!! こいつらは……。」


 東の家の周りも、もう既に鉄屑の手に落ちていた。


 「この洞窟内はもう駄目だぜ。逃げるしかねえよ。」


 「……。ど、どこへ?」


 過呼吸になりながら東は聞き返す。


 「この洞窟はもう駄目だ。外へ、外へ行くしかねえよ。」


 「外……。」


 「こうなってしまったら、もう掟なんて関係ねえ。生き延びることだけを考えるんだ。」


 「わかった。」


 カイと東は走り続けた。日が暮れて、夜になっても、辺りの火を頼りに走り続けた。


 多くの人々が鉄屑の手により惨殺されてる中、走り続けた。鉄屑たちが何なのか、どこから来たのかなんて考えもしなかった。


 そして洞窟を抜けた。ついに抜けた。身も心も疲れ果てた二人の目の前に広がる光景は、


 「何だよ、この世界は。お前の言ってたところと全然違うじゃねえか。」


 錆びた鉄パイプのようなものが乱立しており、至るところから汚ならしい煙が出てきている。


 「これが……。外の世界なのか。」

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