虹色プロジェクト

そうざ

The Rainbow Project

「なぁ、知ってっか?」                             

 水泳教室の最中、シンヤは隣で体育座りをしているシンイチロウに囁かれた。突然の熱い吐息に、シンヤの全身に鳥肌が立った。

 しかし、話に食い付こうとはしない。シンイチロウの『知ってっか?』は『これから嘘を言いますよ』の合図なのだ。

「七色の飲み物を飲むと、虹色のオシッコが出るんだってさ」

 仕方なく、シンヤは口を開いた。

「どこの情報だよ。NASA? CIA?」

「そいつぁ言えねぇな~、俺も長生きしたいんでねぇ」               

 昭和っぽい妙な声色こわいろで答えるシンイチロウ。その台詞、用意してただろ、と疑うシンヤ。

 それ切りシンヤが相手をしなくなると、シンイチロウは後ろに体育座りしているヒデキに同じ事を言い始めた。

「赤色、橙色、黄色、緑色、青色、藍色、紫色」                  

 指を折って行くシンイチロウに、ヒデキはすっかり釘付けになっている。

 事件の発端を作るシンイチロウ。直ぐに間に受けてしまうヒデキ。それを引いた地点で眺めるシンヤ――このトライアングルが彼等の日常を支配する常態である。

 指導員が笛を吹く。

 はっとしたシンヤが慌ててプールに飛び込む。

 クロール五十メートルの自己ベストを更新する事が夏休みの目的だった。だが、中々及ばない。次第に限界を感じ始めていた。他に熱中出来る何かが欲しいとも思う。

 列に戻ると、シンイチロウとヒデキは会話を展開させていた。主導するのは勿論シンイチロウだ。

「赤はトマトジュース」

「わっ、僕、トマト苦手っ。特にジュースはダメ。ケチャップは好きだけど」

「しょうがねぇな。じゃ~……」                          「アセロラは?」

「おっ、それに決まりっ」

 下らない――シンヤの心が呟いた。

「橙はどうする?」

「オレンジ色って事でしょ? オレンジジュースしかないよ」

「ニンジンもあるぞ」

「おげぇおげぇ」

 ケラケラと笑い転げる二人。

「黄色はレモンジュースで良いな」

「だなっ」 

「緑はぁ……」 

「絶対メロンッ」

「キウイもあるぞ」

「嫌い。なんかベロが変な感じになるもん」

「青……青はどうする?」

「えっとえっとえっとぉ……」

「ラムネがあるじゃん」

 その声に、シンイチロウとヒデキが振り返る。シンヤは相変わらず興味のなさそうな顔だが、予期しない参戦に二人のテンションは更に上がった。

「おぉっ、俺、ラムネ一番好きかも知んない!」

「僕もっ!」


 更衣室でもまだ虹色計画会議は続いていた。生徒達が遠巻きにしている中をシンヤが覗き込むと、どういう訳か下半身丸出しで殴り合いに発展し兼ねない勢いである。

「グレープは紫だってっ!」

「藍色にしようってっ!」

「それじゃあ、紫は何だよっ!」

「紫キャベツってあるだろっ?!」

「キャベツのジュースが美味い訳ねぇだろっ!」

「じゃあじゃあ、藍色はどーすんだよっ?!」

「あっ、ブルーベリー!!」

「あれも紫じゃねっ?!」

蝶豆ちょうまめっていうのがあるよ」

 シンヤの呟きに、シンイチロウとヒデキが組み合った身体もそのままに振り返る。

「うちの母親、お茶に凝っててさ。蝶豆茶は藍色だよ」

「お前……末は博士かっ?!」

「大臣かっ?!」

「昭和かよっ!」


 その日の内に三人は早速シンヤの家へ直行し、無理を言って用意して貰った七色の飲み物をブレンドしてがぶがぶと堪能した。

 やがて狭いトイレに一緒に駆け込み、いっせーのせっで膀胱を解放。ほとんど無色のオシッコが弧を描く。

 床に飛び散った滴をゲラゲラ笑いながら拭き取る三人だった。

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虹色プロジェクト そうざ @so-za

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