第35回 頭に「も」のつく映画といえば?

 毎日、勉強や仕事をしていると、あーめんどくせー、現実時間を「早送り」できたらなー、って思う時、ありますよね?


 そんな気分の時に皆さんにオススメしたい、頭に「も」がつく映画をご紹介します。

 

「もしも昨日が選べたら」。


 2006年のアメリカ映画。監督はフランク・コラチ、出演はアダム・サンドラー、ケイト・ベッキンセール、クリストファー・ウォーケンほか。


 原題は「Click」とシンプルなタイトルになっています。

 どういう話かと言いますと……。


 建築デザイナーのマイケルは、二人の子どもがいますが、仕事を優先してばかりで、家庭を顧みないタイプのパパです。


 ある休みの日、家にあるリモコンが、テレビ、エアコン、ガレージシャッターの開閉用、子供のラジコンまで、多すぎて紛らわしいことに腹を立て、一台で済むマルチリモコンを探しにホームセンターへ出かけます。


 そこで怪しげな従業員モーティから「タダでいいよ」と「マルチリモコン」を受け取りました。

 ですが、そのリモコンはなんと、現実の時間を早送りできる「万能リモコン」だったのです。


 面倒なこと、煩わしいことがあれば、自分の人生を「早送り」すればいい。


 時間がない時の朝のシャワー、出勤ルートの車の渋滞、妻との口喧嘩、親たちとの食事会、気が乗らない時の「夫婦の夜の営み」など……。

「早送り」している間は、他人から見れば「ぼんやりと気の抜けたような状態」にはなっているものの、ちゃんとそつなく会話や仕事はこなせているようです。


「早送り」状態は「自動操縦」状態であり、その間の記憶は飛んでしまいますが、自分がどんな風に動いたのか、知りたいことがあれば「巻き戻して」自分の過去の人生を「見て」確認すればいいんだし……と、調子に乗ったマイケルは、「出世するまで!」と「人生のチャプター送り」をしてしまいました。


 ふと気付くと、1年の月日が経過していました。


 いつの間にか、マイケルは社長のビジネスパートナーになっています。

 その社長も引退を考え、奥さんと旅行を楽しもうと計画しているではありませんか。

 この分ならすぐに社長になれそうだ!と思った瞬間、「次の出世までのチャプター送り」が発動。


 そして、気付けば、かなりの年月が過ぎていました。

 頭は白髪になっています。

 それは幸せな未来だったのか、それとも不幸な未来なのか……そこは、実際に作品を見て頂くとして。


 このリモコンは「早送り」で時間を進めることはできますが、「巻き戻し」で過去に戻ることはできません。

 自動操縦状態だった「過去の自分」の動作を、客観的に見ることができるだけです。


 ホームセンターに行き、従業員のモーティーに、マイケルは文句をつけます。

 しかしモーティーは「返品はできないんだ」と告げるのです。


 モーティーがリモコンのメニューを操作すると、「クレジット」として「製作・監督・脚本 マイケル・ニューマン」と名前が表示されました。

「これは君が選択した人生なんだ」モーティーは諭します……。


 全体で見ると、万能リモコンを手にした男の、ファンタジック・コメディです。


 前半は、下ネタを含んだ、ゲラゲラ笑えるコメディ。


 うるさく吠える犬には「ミュート」ボタン、むかつく相手は「一時停止」して、その顔をひっぱたいてストレス解消。巨乳の美女が胸を揺らしながらジョギングしているのを発見したら、「スロー」でじっくり鑑賞したりして。


「言語選択」機能を使えば、取引先の外国人とのビジネストークも余裕。

 時には「色彩調整」で、自分の肌を健康的な小麦色にこんがりと焼いたり。

「こんなリモコン、本当にあったらなあ」と思わせてくれる夢のアイテム。


 ところが、中盤を過ぎ、リモコンの「早送り」機能のデメリットに気付いてからは、どんどんとマイケルの人生が狂っていきます。

「早送り」している間に、どうやら自分は重大な決断、大事な選択をしていたらしい。

 家族から「あの時、あなたがそうしようって言ったんじゃないの!」と責められても、記憶にありません。


 これは恐怖です。


 飲み会の翌日、「お前、あの時、約束したよなー?」と言われて、一切記憶がなく、「え? 言った……っけ?」と焦ることは、私以外にも多くの人たちが経験している悲劇だとは思いますが、それどころではない恐怖。


 数週間、数ヶ月、数年単位で時間が飛ぶのです。

 その間に、無意識に自分が、人生の中でもターニングポイントとなる判断をしていたとしたら……。


 この作品、逆説的に「こういうアイテムがあったら便利だけど、現実には無いよね? だから、毎日、小さな選択、小さな決断を、自分の意思でしていくしか、ないんだよね? それはとっても幸せなことだよ」と問いかけてくれているかのようです。


 笑いと感動がキレイに散りばめられた上質な作品ですが、下品なジョークもあるので、家族の前で見るには勇気が必要な作品でもあります。

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