孝司 VS クラスの男子

孝司(小6)の小学校の教室にて。


「では、お家の人のお仕事についてインタビューをして来て下さい。ノートにまとめてきたものを、後日発表し合います」

先生が言った。


(…俺、どうしよ…。わざわざ博之兄ちゃんに電話ってわけにもな…)

「先生、兄弟でもいいんですかー?」

誰かが聞いた。

「いいよ。家族以外でも聞ける人いたら、それでもいいかもねー」



(パブロ兄ちゃんでいいか…。医者かっこいいし…)


「パブロ兄ちゃん」

「んー?」

夕飯の席で、孝司は宿題の事を切り出した。「学校の宿題で、働いてる人の話を聞いてくるってやつがあるんだけど、パブロ兄ちゃんの仕事の事聞いていい?」

「ん、いいよ」

「この仕事を選んだ理由とか、大変な所とか、良い所とか」

「ふ~ん。選んだ理由…。難しいな…」

「理由ないの?」

「いやぁ、最後の決め手が孝司の手術の事があったらだったからさ…」

「言えないね…」

「何にしたらいいかな?」

「え、俺が考えるの…?」

「医療関係だと、人間界で働くのに都合が良かった…、とか言えないでしょ?」

「うーん。じゃ、小さい頃からの夢でそれを叶えた的な…?」

「事実と違いすぎるのもなぁ…」

「むず。えっと、高校の授業で医学に興味を持ったとか?」

「ま、そんな感じかね」

「大変な所は?」

「命と直結するところ」

「あとは?」

「忙しい」

「あとは…?」

「え…、ない」

「じゃ、この仕事をしてて良かった所は?」「患者さんを無事退院させてあげられた時は、すごく嬉しい」

「なるほど。そういうのいいね。他は?」「給料?」

「え、他は?」

「一緒に働いてる人が面白い」

「え、あとは?」

「…ない」

「役に立たねーな…」

「孝司っ」

えりが怒った。

「だって、そうじゃん」

「そうだけど」

絵理は認めざるをえなかった。

「え、そんな劇的なのがいいの?」

パブロはお味噌汁をすすりながら言った。

「インタビューだから、多少そうだね…」

「じゃ、何がいい?」

「俺が考えるの?」

「…うん」

「…気の毒だから、私も一緒に、考えるよ…」

「あぁ、…博之兄ちゃんがいたらなぁ」

「孝司…。残念ながら、お兄ちゃんもそんな感じだと思うよ?」

絵理はため息をついて言った。

「そうなの?」

「うん。どっちにしろダメなんだよ」

パブロは絵理にティッシュのゴミを投げた。「きったなっ」

「うるさい。ダメで悪かったな」

「「ダメじゃん…」」

絵理と孝司の2人に言われて、パブロは黙った。

絵理は、投げつけられたティッシュのゴミを無言でゴミ箱に捨てた。




家族の仕事の発表当日。

孝司の発表が始まった。  

「知り合いの医者から話を聞きました」

孝司は先日、パブロに聞いた内容を脚色して発表をした。




「孝司、医者の知り合いいるの?」

クラスの友達が、放課後、話しかけてきた。

「そうだよ」

「へー、親戚とか?」

「いや、姉ちゃんの彼氏」

孝司は波風が立つとは思っていたが、嘘をつくほど、後ろめたくもないと思っていたので、正直に言った。

「えー!そんな人に聞いたの?」 

他の子も、ざわざわと集まってきた。

「そんな人に聞きましたけど?」

孝司は笑った。

「普通、家族に聞かない?」

「ちょっと!」

近くで聞いてた春乃が、怒った。

「春乃、大丈夫だよ」

「……」

春乃は黙ったが、怒った顔をしていた。

「俺の両親死んでるし、兄ちゃんがいるけどアメリカで、近くにいる社会人が姉の彼氏だったから」

「そっか…ごめん」

「いいよ」

「じゃ、お姉さんと2人暮らし?」

「いや、姉ちゃんとその医者の彼氏と」

「…3人で?」

「うん」

「えー!!嫌じゃない?!」

「嫌じゃないよ」

「だって…ね」

「家でイチャイチャしてるんでしょ?」

「…別に普通じゃない?」

「エロいよな」

「ちょっと!やめなよ!」

春乃の怒号が聞こえた。

「何だよ!お前、孝司の事かばいすぎだろ。好きなんだろ!」

「ち、違うもん!」

「春乃、別にいいって。あいつが子供っぽいだけだよ」

そう言うと孝司は、カバンを持ってさっさと帰って言った。



「おい」

孝司は、後ろから呼ばれた。

「…ヒロ。何?」

ヒロはさっき、孝司に子供っぽいと言われた男子だ。

他にもヒロと仲のいい友達もつれていた。

この3人はクラスでも、嫌われている。


「お前。姉ちゃんと彼氏の邪魔なんじゃねーの?」

「邪魔どころか、俺いないと成り立たないから」

孝司は、また歩き出した。

「でもさ、自分の姉ちゃんが家でイチャイチャしてるの気持ち悪くない?」

「…別に。慣れてるから」

孝司は軽蔑した目でヒロ達を見た。

「じゃ、孝司もエッチじゃん」

「…ホント子供…」

「うるせーよ」

「頭いいからってバカにすんなよ」

「…バカだろ」

「えらそーに」

「……」

孝司は無視した。

ヒロはカッとして、孝司のカバンを掴んで強く引っ張った。

孝司が尻もちをついて転んだ。

「いてっ」

「あははっ。いて、だって」

(殴りたい…)


「孝司!」

そう言いながら、駆け寄って来たのはパブロだった。

「大丈夫?」

「うん」

「友達?」

パブロはヒロたちを見て言った。

「いや。同じクラスの奴ら」

「ふ~ん」

「な、何だよ。あんた、孝司の姉ちゃんの彼氏かよ」

「そうだよ。よく知ってるね」

「みんな知ってるよ」

「へぇ。で?」

「え?」

「今、うちの孝司に何やった?」

パブロは怖い顔で言った。

「別に」

ヒロはビビりながら言った。

「何で転ばされなきゃいけないの?」

「孝司が…」

「あ?」

「孝司とあんたが一緒に暮らしてんの変だろ」

「何で?別に赤の他人ってわけじゃないし。孝司の姉ちゃんと付き合ってるから問題ないんじゃない?」

「それが変だって言ってんの。孝司が家にいるのにイチャイチャしてんだろ」

「だから?」

「気持ち悪いだろ」

「お前んとこの親だってイチャイチャしてんじゃないの?」

「俺の親はしてないもんね」

ヒロは勝ち誇ったように言った。

「…ふっ」

「何笑ってんだよ」

「イチャイチャしてないのをそんな偉そうに言われても」

「は?」

「親のそんな恥ずかしい事言ってやんなよ」

「は?」

「仲いい夫婦の方がいいじゃん」

「やだよ」

「…お前が大人になったらわかるよ」

「は?」

「は?ってやめなさい」

「ぐ…」

「それとね」

「何だよ」

「どんな理由であれ、孝司を傷つけんの俺が許さないから」

パブロはヒロ達に睨みをきかせた。

「小学生相手に大人げないぞ…」

「…俺、大人げなんてあった事ないから」

「……」

「わかった?またやったらお前の父ちゃん母ちゃんに話しに行くからな」

「大人げない」

「ははっ。話聞いてた?」

「……」

「大人げなんてあったことないんだよっ」

「うっ…」

ヒロ達は目に涙をためながら走って逃げて行った。



「パブロ兄ちゃん、やり過ぎ」

孝司は笑いそうになるのを我慢していた。

「こりゃ、明日、先生に呼び出されるな」

「いいよ。俺が言いくるめとくから」

「相変わらず頼もしいな」

パブロはニヤリとした。

「だろ」

孝司は楽しそうに笑った。


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