一年の別れ 一生の約束

パブロは、絵理と待ち合わせしていた駅に、全速力で走った。

絵理が、下を向いて立っているのを見つけた。

「絵理ー!!」

絵理は大きな声に驚いて、パブロの方を見た。

息を切らしながら、絵理の前にきたパブロは笑っていた。

「どうしたの…?」

「俺。もう一年残れることになった!」

「え…」

パブロは絵理を抱きしめた。

「この一年間の試験、全部トップ通過できたらだけど…。できたら、人間界に居られるって!」

「うそ…」

「俺、絶対合格する!」

「うん…」

絵理は涙がでた。


人がジロジロ見ているのに気が付き、2人は離れた。

「これからね、また1人暮らしに戻りたいと思う。勉強、一秒でも長くできるように…」

「うん」

「一年、会わずに頑張ろうと思う」

「うん」

「大学指定のアパートあるから、今日準備して明日の朝には行くね」

「…うん」

「2人暮らしになるけど、気をつけて…」

「うん」


家に帰って、博之と和美に、今後の説明をして、また一人で暮らす事を伝えた。

「そっかぁ…。これから大変になるんだろうけど、頑張って」

「私もちょくちょく、絵理と孝司の様子見に行くから」

「パブロ…、本当にありがとう…。」

博之は泣いていた。

「また泣いてんのぉ?」

パブロは茶化した。


パブロが準備していると、隣に絵理が座って寄りかかって来た。

「なぁに?」

パブロは笑って言った。

絵理の気持ちは痛いほど分かるので、わざと笑って見せた。

「好き?」

絵理が聞いて来た。

「ん、一生ね」

「!?何それ…」

「え…?嫌なの?」

「え?一生?」

「一生じゃないの?」

お互いが疑問系で話が進まなかった。


「だって…」

「結婚しないの?」

パブロがサラッと聞いた。

「する」

絵理ははっきり言った。

パブロが笑った。


「何か、思ってたプロポーズと違う…」

「そ?」

「うん。まいっか」

「来年、ちゃんとする」

「いや、プロポーズ予告する人いないでしょ」

「そう?」

「ま、いいけど」

「高級レストランで花束頼んでするわ。で、その後、2人で指輪買いに行くの」

「やだなぁ」

「え!やなの?!」

「しらけるもん」

パブロはムッとした。

「料理食べてても、いつ花束が出て来るのかとか気になって集中できないじゃん」

「そうなの?」

「でも、レストランは行きたい。」

「うん」

「花もほしいし、指輪も買いに行きたい」

「?」

「全部バラバラがいい」

「えー、めんど」

「ちょっとぉ!」

パブロの肩を強く叩いた。


「孝司に会わないで行くの辛いなぁ」

「仲良かったもんね」

「俺らのこと、めっちゃ見ててくれたから。孝司のおかげって事めちゃくちゃあった」

「そうだね」

「うん」


夜更け。

「絵理、一緒に寝よ…」

「うん、腕枕して…」

「ダメ…」

「…なんで?」

「これから、キスするから…」

パブロは、絵理の肩に手を回して、キスをし始めた。

唇を挟むように、ゆっくり、優しく。

絵理も、パブロの首に手をまわして、それに応える。

今までの分も、これからの分も、お互い、優しく切なく触れ、夜がゆっくりとふけていった。


次の日の朝、絵理は目を覚ました。

隣りでパブロが寝ていたので、絵理もベットでゴロゴロする。

別れの日なのに、すごく晴れやかな気分だった。

「おはよ」

パブロは絵理を優しく抱きしめた。

「…おはよ」

絵理も抱きしめ返す。

「絵理、温かいね…」

「うん…。私、冷えと無縁だから…」

「無縁?」

パブロは笑った。

「うん、冬も全然平気…」

「…湯たんぽ…」

「ん。寒かったら使って…」

「今…」


「ね、絵理…手出して」

「ん?」

絵理はよく分からなかったが手を出した。

パブロは絵理の左手の薬指をそっと触った。

「男よけ2」

絵理の指が、優しく光った。

「また、すんごい光らせとくから」

「いやいや、また、すんごい言われるから、普通がいい」

「ハハハッ」

もう一度指を触る。

ポッと光って

「こんな感じかな…」

小さなダイヤがついた指輪だった。

「ありがとう」

絵理は笑った。


「孝司には、これ、渡しといて。マジでバリア付いてるやつ。ごっつくなっちゃうんだけど…」

ペンダントだった。

「うん、ありがとう」

絵理は仰向けになって、指輪を見つめた。

自然と涙が、出てきた。

「俺を信じなさい」

「うーん…」

「おい、コラ」

「パブロ…」

「ん?」

「ありがとう」

「うん」

「俺、頑張るから」

「うん。待ってるね」

「うん」

パブロは覆いかぶさる形で、キスをした。


「じゃぁ行くね」

「うん。行ってらっしゃい」

「1年後」

「うん」

「頑張るから」

「うん頑張って」

「すんごい頑張るから」

「うん」

「頑張るね」

「…」

「試験頑張るよ。頑張ります」

「うっるさいなぁ。がんばる、がんばる」

パブロは笑って

「じゃあね」

とキスをして、家を出た。

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