第38話 いざ旅立ちの時

「再構成する」


 ぱあああっと船だった木材が光り、新品の小船へと変化した。

 木材を追加購入しておいてよかったよ。ちょうど追加分を含めて小船になったのだから。


「がおー」


 フェンリル(仮)が小船を鼻先で押す。

 そうだよな、船があれば海に浮かべたい、至極当然の想いだ。

 そんな立派な船でもないので、外洋航海をすることは難しいと思う。

 小型船と表現していたが、手漕ぎボートと言った方がいいかもという作りだ。

 大きさもフェンリルと俺たち三人が乗ったらぎゅうぎゅうで隙間がなくなるほどで、帆もついてないしオールで漕ぐ。

 船の後ろ側に備え付けのオールがあって、手持ちのオールが二本ある。

 これで船を漕いで進む作りだな。よっし、完全に理解した。

 

「兄ちゃんも押してー」

「お、おう」


 パックが少年の姿になって、フェンリル(仮)の隣で船を押す。

 俺は反対側に周って彼らに加わる。


「わたしもお手伝いします」


 ディスコセアも参加を申し出てくれたが、後ろ側は俺たち三人でもう隙間が無い。

 しかし、彼女は俺とフェンリル(仮)の間に入って来ておしくらまんじゅうになった。

 まあ、こういうのもいいか!


「よおっし、浮かんだー」

「やったー」


 パックとディスコセアには船へ乗ってもらい、さあ押すかと思ったら体が宙に浮く。

 

「うおお」

 

 むぎゅ。

 ディスコセアに抱きとめてもらい、船へ無事着地した。


「がおー」


 俺が宙を浮いたのはもちろん、気の抜ける声で鳴いたフェンリル(仮)が俺を咥えて首を振ったからである。

 残ったフェンリル(仮)は船を押し始めた。


「え、え」

「速い速いー」


 なんだか、船が加速しているぞ!

 後ろを見てみたら、フェンリル(仮)が泳いで船を押していることが分かった。

 陸ほどではないけど、中々の速度が出ていてビックリする。

 パンダって海を泳ぐこともできたのか。いや、フェンリル(仮)だった。

 フェンリルなので泳ぐことができる。

 ……何だかこう釈然としないが、まあいいか。

 

「ほらー、あれが暗礁地帯だよお」


 もう陸が目を凝らしてなんとか見える距離まで進んでしまった。

 パックが指さすところは白波があがっており、水深がそこだけ浅いことが分かる。


「フェンリル、速度を落として慎重に頼む」

「がおー」 

 

 慎重に暗礁地帯を進むが、コツンと船が岩にぶつかった。

 マジで浅いんだな。平均して膝上くらいの水深しかなさそうだ。一部は海水の上まで岩が出ている。


「これならなんとか暗礁地帯の向こう側までいけるかなあ」

「船が損傷する可能性が高いかと」

「損傷してもすぐに修理はできる、けど、海水をかきだすのが難しいか」

「マスターは船で漁を行いたいのでしょうか? それとも遥か遠くの陸まで到達したいのですか?」


 この船で外洋航海して陸地まで到達しようとは思ってなかった。

 外洋航海船が手に入ったとしてもこの人数だと難しいよなあ。

 小船でも転移を使えば何とかなるかもしれないけど……転移じゃ一日経過すると戻ってしまうからさ。

 本当の意味で「外に出た」とは言えないだろ。

 転移を使えば街に行くことができるし、今の状態でも生活していくに支障はないのだけどね。

 考え込んでいると、ディスコセアが言葉を続ける。


「陸まで行きたい、だけでしたらお連れしますが?」

「お連れするってフェンリルが高速で泳げるとしても途中で海があれたり、鮫が出たりしたらフェンリルが危ないよ」

「ベアも一緒に連れていけますが、船までは難しいかと」

「魔法か何かがあるのかな……」


 どうも話が見えない。

 すると、ディスコセアが唐突に服を脱ぎ始めた。

 え、えええ。

 全裸になった彼女の体から煙があがる。

 ガクンと船が大きく揺れ、遮るものがないというのに日陰になった。

 なんだろうと思い、見上げると――浅瀬に巨大なドラゴンが立っていたのだ!

 

「マスター。わたしです。ディスコセアです」

「ド、ドラゴンに変身できるの?」

「はい。一度姿を見て記憶できましたので」

「あ、あの時か!」


 ダンジョンから出て崖の中腹だっただろ。

 あの時、突如ドラゴンが襲い掛かって来て慌てて引き返した。

 逃げることしか頭にない俺とは異なり、彼女はドラゴンの姿をコピーしていたってことか。

 この巨体ならフェンリル(仮)も乗せて飛び立つこともできそうだ。


「行きますか?」

「いや、今日は一旦戻ろう。行くなら朝からにしたい」

「承知しました。では、元に戻ります」

「でも、明日が雨だったら中止に……」

「何か?」

「ふ、服を着て……」


 タヌキに戻ると思ったら、ハイエルフの姿じゃないかよ。

 無表情で首をかたむけられても困る。

 彼女からしたら服があるのでハイエルフの姿になったんだと思うのだけど……。


「姉ちゃん、人の姿をしている時は服を着るんだって兄ちゃんが言ってただろー」

「着方が分かりません。マスター。よろしいでしょうか?」

「パ、パックう。頼むう」


 目を逸らし、パックに丸投げする俺であった。

 あははと笑う彼はディスコセアに二度目の服の着方指導を初めてくれたようだ。

 明日は空の旅かあ。

 楽しみでならない。

 そんなこんなでのんびりとした生活は続いて行く。

 

 おしまい


ここまでお読みいただきありがとうございました!

フェンリル(仮)はフェンリルだったのか気になって夜しか眠れません。

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フェンリル(仮)と異世界散歩~何でも新品チートでソロキャンやってます。いや、スローライフだってば~ うみ @Umi12345

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