第34話 門

 ジークフリードから俺たちでも辿り着けそうな村への道順を聞けたので、急ぐ必要がなくなった。

 となると、腹も膨れたのでおねむタイムに突入だろ。

 警戒心が無いと言われるかもしれないが、その日はジークフリードも混じえて夜営した。

 出会ったばかりの人と夜営するのは盗難の危険があったりするけど、信じてみることにしたんだ。何か問題が起きればそれまでだったってことで。最悪、命までは取られんだろと楽観視していた。

 モンスターを警戒して交互に眠ることもなく、ジークフリードが先日キャンプした場所で休むという無警戒っぷりである。

 野営の準備をしている時に赤い石のことについて聞いてみた。状況からして赤い石を捨てて行ったのは彼だろうからね。

 予想通り彼は赤い石のことを知っていた。赤い石は魔石と言って色んな魔道具に装着して使うことができる電池のようなモノだと分かったんだ。

 といっても、肝心の魔道具を持っていないので、使い道がないのだが……持ってて損は無いだろ。

 そのままの流れで魔石をどんな魔道具に使っていたのか問うと、彼は魔道具を出して説明してくれた。

 それらは懐中電灯ぽいものと火を起こすもので、魔石をはめ込む箇所があったのだ。

 食い入るように見ていたら「ちょっとした魔道具であれば村でも手に入るでござる」と若干引き気味で教えてくれたのである。。

 いやあ、彼から得る情報は有益なものばかりだ。魔石のことだけじゃなく、お金を稼ぐ手段まで教えてくれたんだぞ。それは動物や魔物の牙や爪を売ることなんだってさ。

 皮も良いが嵩張るからオススメしないとのこと。俺の場合はフェンリルがいるからそれなりに荷物が持てる。皮でもどんとこいだぜ。

 もっともイノシシなどを狩る予定はない。ナタや剣は持ってるけど、怖すぎるだろ!

 それに倒した後に解体できる自信がない。

 食材としてもフェンリルとタヌキは肉を食べないし、海や川があるから魚で間に合ってる。

 狩猟はどうしてもお金が欲しくなったら検討しよう。

 

 何事もなく翌朝になり、ジークフリードと別れ海岸線沿いをのんびり走る。もちろんフェンリルとタヌキが。

 ジークフリードは俺たちと反対側に向かった。旅をしていればいずれまた彼と出会うこともあるだろう。彼との出会いに感謝。

 彼が旅人だったこともあるけど、やはり人との出会いは多大な情報をもたらしてくれる。

 話を聞くだけでワクワクするし、今後も出会いがあれば色んな人から話を聞きたいな。

 だけど、安易に誰にでも声をかけるのは危険である。ジークフリードは何も言わずに丁寧に接してくれたけど、この世界の人からしたら俺の常識の無さは異常だろうから変に警戒されたり侮られたりする可能性が高い。

 たとえば魔石や魔道具を知らなかったり、とさ。

 なので、最初は慎重に人選せねば。


『ずーっと海が続いてるねー』

「だなー。順調だ。潮風が気持ちいい」

「がおー」


 「ははは」とバックと笑い合う。こう旅をしている感じが良い良い。


『兄ちゃーん、飽きてきた! もっとスピードをあげてもらおうよー』

「フェンリルだってずっと走り通しだし、疲れてるって」


 単にのんびり進みたいだけなのだけど、パックの手前、フェンリルを労わるようにかえした。

 しかし、これがいけなかったらしい。


「がおー」


 「俺は疲れてないぞ」とでも言いたいのか、気の抜ける声で吠えたフェンリルは、一気にスピードをあげる。


「う、うお!」

「おおー速いぞお、フェンリルー」


 嬉しそうなカモメのパックとは対称的に振り落とされんと必死の俺。


 昼を過ぎる頃にはかなり進んだ……と思う。

 一旦止まってもらい、スマートフォンで景色を撮影する。こうして写真を撮っておけば、忘れることがない。転移の際に大活躍ってわけだよ。

 もちろん、ハナミズキが目立つキャンプ跡も撮影済みだぜ。

 休んだはいいものの、海へ出るには地形が厳しすぎたので断念した。お昼はもう少しお預けだな。

 フェンリルとタヌキには補給してもらって、俺とパックは水のみにした。

 

 そんな感じでお昼もとらずに進んでいたら、ついに村らしきものが見えてきたのだ。見えたのは民家や畑じゃなくて、城壁である。

 城壁があるってことはあの中には住んでる人が多数いるはず。

 はやる気持ちを抑え、城壁の写真を撮影するにとどめる。

 今は何も取引できるものを持ってないし、思ったより大きな街とかだと身分証のない俺がさらりと入場できるのか分からないしさ。最悪俺を捕らえてこようとするかもしれない。

 その時はフェンリルのスピードで脱兎の如く逃走である。

 もう進まないとなれば――。


「いい加減、お腹もペコペコだし」

『ご飯だねー』

「がおー」


 岩礁地帯であるものの、海はすぐ傍だ。

 海岸線沿いをずっと進んできたので食べ物には困らないのだよ。丸一日で戻る仕様なので最悪何も食べずとも平気なのだけど、できるならちゃんと食事をしたい。

 海岸線沿いを進むことは道が分かり易いだけじゃなく、海の恵みまであると言うことなしだ。いずれ海沿い以外も散歩するだろうけど、最初だからこそ甘いルートを通りたいものだろ。 ジークフリード様様だよ、ほんと。

 いつものごとく、フェンリルアタックですぐに魚は集まった。

 タヌキは岩肌をペロペロと舐めている。海にキノコってあったっけ?

 いや、彼女はキノコじゃなくて菌類とかコケ類みたいな植物を取り込むのかな?元々スライム状だし、体表から吸収する感じなのかも。タヌキの姿の時は口を使っているので取り込む効率が悪そうだけど、俺への気遣いでタヌキのままなのかも?


「ディスコセア。食べる時は元の姿でもいいんだよ」

「形態変化はそれなりのエネルギーを使いますのでこのままの方が適です」

「そうだったのか。この前いきなり姿を変えてもらってありがとう」

「休息中でいつでもエネルギーを取り込める状態でしたのでお気になさらず。住処に戻った折にはまた形態変化いたします。マスターが服をご準備下さったので」

「そうだった」


 彼女の負担になっていないようでよかった。

 しかし、聞いてみるもんだな。俺の予想と実態は異なってたのだから。

 一旦そこで彼女との会話を終え、火を起こそうと適当な場所を探す。

 そんな折、ふと海へと目をやる。


「船だ」

『見てくる?』

「矢を射かけられたりするかもしれないから、行かない方がいいと思う」

『分かったー』


 思ったより大型船だな。遠くて見え辛いけど、帆船ぽい。ガレー船のような漕ぎはなし。帆は四枚ってところ。

 あのサイズと喫水やらの形からして外洋航海でも平気そうだ。

 どう考えても俺とパックだけじゃ操船できそうにないので、手に入れようとは思わないな。しかし、あれほどの帆船があるなら他の船種も期待できる。


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