第5話 海は宝箱やあ、魚介、魚介

「う、うーん」


 どう判断すればいいのか難しいところだ。

 地図は雑に作られていて、浜辺、木、山ぽいものなどが描かれている。

 これが周辺地図なのか全く別の場所なのか、単なる落書きなのかが分からず、判断に難しいと感じたのだ。


「周辺地図だと仮定して推測してみるか」


 間違っていたとしても今とさして変わらない。

 周辺地図だったとしたら今後の助けになる。どっちでも俺にとってマイナスもないし、改めて地図を見てみよう。

 浜辺が俺のスタート時点だとすると、北西方向に進んだのかな。

 家マークが今いる場所で……周囲は木々に囲まれている。

 気になる場所は二か所だな。家から左下にある箱マーク、左上にある×マークだ。

 ×マークの方は山岳地帯なのかも。こっちは後回しだなあ。

 山にトカゲが火を噴いてる絵があって、山岳地帯の先は描かれていない。右上は崖と海らしいな。浜辺をずっと進むと岩礁からの崖ってことなのかもしれない。

 精度が低すぎて実際見てみないことには何とも言えない。崖や岩礁も何の準備も無しに進むことは困難だろう。

 

 ガタガタ。

 考えにふけっていた頭が物音によって中断させられた。

 まさか、猛獣とかじゃないよな……。

 緊張から手に汗が滲む。

 風であればいいのだが、などと考えながら立ったままじっと耳をそばだてる。


「もきゅ」


 ガタガタと再度扉が揺れたが、鳴き声にホッと胸を撫でおろす。

 何だ、カピバラが扉を突っついていただけだったのか。

 扉を開けると予想通りカピバラが上を向き鼻をすんすんさせていた。


「入る?」

「もきゅ」


 聞くより早くカピバラが屋内に入って来た。

 のそのそ動く茶色い小動物がどこに行くんだろうと見守っていたら、ベッドに登ってそこで顎をつけて寝そべったではないか。

 水桶の中よりはベッドの上の方が余程快適だよな。このカピバラ……思った以上に賢いのかも。

 芋を見つけてくれたことだし、お礼にベッドを提供するくらいは良しとしよう。後で俺もそこ使うけどね。

 

 ◇◇◇

 

 カピバラに案内して採集した芋を鍋で湯でている。

 朝日が出たばかりだというのに肌寒さを覚えることもない。南国ぽい植生だし寒くないのは助かる。

 今着ている服以外の服は持ち合わせていないからね。

 葉を加工して服にしたり、という漫画を見たことがあるけど俺には難しそうだ。

 刃物はお馴染みのナタ以外にもいくつかある。

 そろそろいいかな?

 冷たい水に芋を晒し、頃合いをみて皮をむいて食べてみた。

 ネバっとしていたが里芋ぽい感じではないな。タロイモ? とかなんか熱帯地域で育つような芋ぽい。

 せめて塩があればもう少し食べれたものになるんだが、腹を満たすにこれしかないので我慢して食べるのだ。

 あ、バナナを茹でた方は芋以上に無理だった。バナナは生で食べるしかないかな。

 地図に描かれていた箱マークが気になるところだけど、まずは生活基盤を整えなきゃならん。

 安全な住処は幸い手に入ったからさして知識のない俺でもなんとかなりそうだ……いや、なんとかする!


「生きるためには食べ物だよな」


 芋とバナナだけじゃ心もとない。バナナは一ヶ月どころか半年食べ続けてもまだまだ余るほど自生している。

 芋はどれだけ埋まっているのか不明。

 さて、食べ物を確保するとなれば野山に自生している木の実や野菜、キノコが定番か。

 キノコは避けた方がいいし、ここから浜辺は近い。

 海の幸を集める方がやりやすそうだよな? 

 以前住んでいた人も海の幸には目を付けていると思う。屋内には残っていなかったけど……周囲はどうかな?

 

「あった!」


 折れて使い物にならなくなっていたが、お手製の釣竿と網が藪の中に落ちていた。

 すぐに再構成して使えるようにする。

 よおっし、これで一丁やってみますか。

 

 ◇◇◇

 

 砂浜は海の宝箱やあ。

 ……つ、つい取り乱してしまった。

 砂浜に打ち付ける波がいろんなものを砂浜に運んでくれる。

 無生物、生物関わらず、だ。そんな運ばれてきたものを食べたり、隠れ家にしたりする生き物が砂浜に集まるのだ。

 釣りの餌になる小さなカニとか芋虫みたいなのから始まり、大小様々な貝殻を求めて集まったらしいヤドカリ類。そして、ハゼ、ムツゴロウなどの魚まで。

 それらを狙うカモメなどの海鳥の姿も見える。

 海鳥はさすがに人間である俺が近寄るとばさばさっと逃げてしまうが、魚はそうじゃなかった。

 人間の手が入っていない砂浜だからか、網を使えばすぐに砂浜に住む魚を捕まえることができたんだ。

 これらを釣り餌にしても良さそうだな。

 ソロでサバイバルをするに当たって浜辺の傍というのは大きなアドバンテージなんだなあと緩む口元が抑えきれない。

 似たような収穫は川や湖でも同様なのだろうな。

 しかし、海には川が湖にない利点がある。

 海は様々な大陸に繋がっていて、海流によって海水は動いているのだ。

 つまり……どこからか流れてくる漂着物の中に使えるものがあるかもしれないってことさ。

 まずまともに使うことができない道具であっても再構成がある俺にとっては宝物となる。

 釣りをするまでもなく昼ごはんを確保できたので、浜辺を少し探索してみることにするか。

 

 ボロキレとか紙ぽい何かやガラス片などなど、完全にゴミだろうと思われるものしかなく、芳しい漂着物はなかった。

 最初にナタを発見できたのが奇跡だったのかもしれない。

 雨の後とかなら割に大きな漂着物が発見できるかもしれないよな。浜辺にはこれからもお世話になることだしついでに漂着物を探すことにしよう。

 

 信頼できない地図によると浜辺の北はしばらく岩礁地帯が続いていて、陸地側は急な崖に変わるとなっていたな。

 浜辺から歩いて15分くらいで岩礁地帯になっている。

 こういった場所は釣りに適しているんだよな。

 せっかくだから捕獲したムツゴロウを釣り針にセットして海に投げ入れてみた。


「うお」


 入れた途端に強い引きがあり、ひっくり返りそうになりなんとか堪える。

 なんだこの強い引き!

 片手で釣竿をしかと握りしめつつ、網ですくいあげた。

 なんと、伊勢海老ぽいものが引っかかっていたのだ! それだけじゃなく、伊勢海老に張り付くようにしてイカまで獲れた。


「お、おおお。今夜はごちそうだあ」


 イカに伊勢海老が食べられないよう即イカを締めて、伊勢海老から引っぺがす。

 その時、不意に伊勢海老を持つ手から重みが消えた。

 

 

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