第21話 忘れ去られた遊園地ユナイトミストワールド


「束になったところでお前は力を引き出せてはいないッ!」

「はぁぁぁ!」


 振りかぶって突き出した拳が、濃密な霧を割っていく。鎧に包まれた腕が、ミストの右ほほを貫く。


「!?」

『これが!』

『私達の力』


「まだまだ行くぜ……ッ!」

「クソガぁぁぁアああっ!!」


 霧がうねり、体を強く打ち付けてくる。向こうの力は、もう分かっている。


「ハァァァッ! はぁッ!」

「グフアァァァァッ!?」


 ミストの体が真正面に向かって吹っ飛んだ。先ほどまでとは明らかに違う。やれる。押せている。確信めいた感情が胸に沸き立ち俺は、俺達はミストがぶつかって空いた穴から外に出た。


「くぁ……ッ。ゲホゲホ……ッ」

「……」

「随分と……凛々しい顔をするじゃないか……まぐれパンチが数発当たったくらいで……えぇ?」


『あら? まぐれ数発で済まないからアンタは今そうやって倒れてるんでしょ?』

『負け惜しみ』

「フフフ。アッハハハハハハハハ! まさか、僕がこの程度で終わるとでも……?」


 体を起こし、ミストは両手を掲げた。ポツリ。ポツリと雨が降り始めて、すぐさまバケツをひっくり返したような豪雨に変化した。


「ここからが本番だ。あぁ、五割の力で相手してやるよ」


 パチン。と、ミストが指を鳴らした、個気味のいい音が響いて体が宙に持ち上がるまるで見えない腕につかまれているような感覚。だがしかし、これは、不可視の攻撃などではない。いや、むしろずっと見えていたのだ。


 この雨が、あの霧が、奴の攻撃の正体。


「だが……」

『わかったところで対処は難しい……!』

『とも限らないわ!』


「なるほど。あれだな!」

『わかった。紅葉のタイミングで合図して……!』

「? なにが……!」


 俺は、合図を送ると体をぎゅっと丸めた刹那。黄金の光がさく裂し、降り注ぐ雨を吹き飛ばす。


「シエル!」

『了解!』


 白銀の剣を腕から延ばしミストを切りつける。切っ先がミストの体を引き裂いた。


「ぐはぁっ!?」


「ルナ!」

『わかったわッ!』


 生まれたすきを逃さないために、俺は、ミストに向かって腕を突き付けた。


「ゴールドキャノン!」


 解き放たれた光の柱がミストの体を吹き飛ばす。吹き飛び遠くの観覧車にたたきつけられたミストにとどめをさすべく、俺達は剣を構え


「どいつもこいつも……」

「!」

「なめンなよクソガぁ……ッ!!!」


 ミストの瞳が何よりも濃い赤に染まる。空中に浮かびあがり、ミストは腕を掲げた。


「見せてやる……僕の本当の力……」

『気を付けて! 何か来る……!』


 そして、両手を合わせてミストは叫んだ。






「忘れ去られた遊園地(ユナイトミストワールド)ッ!」





 世界が、大きくきしむような音を上げた。

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