第20話 金と銀。龍と虎。月と空。


「っ。あ」


 突き出した拳が、ミストをぶち抜く……ことは結果的にはなかった。拳はすんでのところで空をつく。しかし、ミストを後ろに倒すことには成功した。大方かわそうとして失敗したというところか。


「ルナッ! シエルッ!」


 二人の名前を叫んで、空中で見えないものに縛られる二人に駆け寄る。ミストを踏み越えたその時、二人の体が宙に投げ出された。


 その二人を何とか抱き留めることができた。


「大丈夫だったか!? なにもされてないか!? どこも変じゃないか!?」

「紅葉……ッ苦しい……」

「ちょ、いきなりいろんな事聞きすぎよ! 一番やばいのはアンタでしょ!? 大丈夫なの!?」

「あぁ、もう治った」

「噓つきなさいよ!」

「本当だって」


「無理してそう」

「無理はしてるけど……俺はもう動けるぞ」

「アンタ、まだ自分の事軽視してるんじゃ……」


「してない。してない、俺はもうマジで大丈夫だから」

「なんで若干ダルそうなのよ! こっちは心配してやってんのに!」

「ルナは口うるさいお母さんみたいだから」


「シエルまで何よ!」

「おい、おいおい、おいおいおいおいおいおい……。随分と、まぁ、僕のことをコケにしてくれてるじゃあないか……。えぇ?」


 先ほどまで倒れていたはずのミストが、のっそりと体を起こした。俺はルナとシエルを後ろにかばってミストを真っ向から睨んだ。


 先ほどまで恐怖の象徴にみえたミストが今は少し小さく見えた。


「さっきも言ったと思うけど、怒りでパワーアップなんてことがあると思うなよ……」


「そういうお前は……さっき俺にビビったんだろうが」


「なんだと?」


 明らかな怒気をはらんだドスの利いた声。ミストが、一歩こちらに進んでくる。一方こちらは、もう後には引けない……。


「……」

「このままじゃ。残念だけどあいつには勝てないわ」

「簡単にパワーアップとはいかないのは、事実」


「……」

「でも、可能性なら一つある」

「可能性?」


「……多分、リスクはあるけど、それでもやらないよりはいい……と思う」

「……わかった、何をするかはわからないけど、それでいこう」

「何でくるって? どっちにしろ君らだけじゃ僕に勝てないけど?」


 余裕を取り戻したであろうミストが笑う。ミストの背中からあふれ出た白い霧が、あたりに充満していく。その刹那、シエルとルナは同時に俺の前に出て、叫んだ。


「さぁ!」


「私の胸をもみなさい!」

「私の胸に触れて!」


「ッ! わかった!」


「く! そういうことか! させない!」


 霧が立ち込め、うねりを上げる。それが、攻撃に向かってくるよりも先に、俺の掌がシエルとルナの胸に触れた。


「んっ」

「ぁ……」


 二人の声が響くと同時に、俺の手のひらに重たい感触とふっくらとした胸がのしかかる。


 サイズの違う胸を、両手でそれぞれ揉みしだいた。命がかかったこの状況も忘れて、男の夢を体現したようなこの状況にしばらく身を置く。永遠のような一瞬の合間。二人の胸を堪能し、俺の体は二種類の体に包まれる。


 体の底から、心の底から熱いものが湧き出てくる。見えない攻撃が、真上からやってくるのが分かったソレを腕を掲げて、防いだ。


「!?」


 腕を振り払い、ミストをにらむ。


「……」


「月と空……クッソ。まさか、今のお前ごときが……ッ!」


 ミストに目をやり、真っ暗のモニターに視線をやる。

 金と銀の鎧姿。虎を模したであろう銀色の兜に龍を模した金色の翼。ルナとシエルの鎧を混ぜ合わせたような姿がそこにはあった。


「これが……」

『私達』

『三人の力……!』


 二人の声が順番に聞こえた。


「もう一度ひねりつぶしてやる……!」










『『「やってみろッ!」』』





 俺達は声を合わせて前に出た。俺たち三人の、リベンジマッチが始まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る