第15話 忘れ去られた遊園地


「わかった。お前は何を望むんだ?」


 俺がそう尋ねると、ジョーカーは電話の奥で笑った。


 気がした。


「そう身構えるなよ。単純な話だミスト・ナインあれには俺も苦しめられていてね、アイツを叩き壊してくれればそれでいい」


 俺は思わず顔を上げて、ルナと目を合わせた。


「俺は元からそのつもりだが、本当にそれでいいのか?」

「あぁ、あれを始末してくれるならば何も言わん。どうだ? お前にとっては悪い話でもないはずだ」

「まったくだな。わかった。お前に言われるまでもなく、アイツは俺が倒す。だから早く情報を……」


 その時、スマホがブブッ……と揺れた。


「送っておいた。そこが奴の拠点だ」


 通話アプリを開いたまま送られて来たメッセージを表示する。


「これは……」

「……?」

「数年前に起きたブラックハリケーンによりその経営の断念を余儀なくされた夢の跡地……。言わば、忘れ去られた遊園地」

「スズラングランドパークか」

「スズラングランドパーク?」

「なるほどな。確かにここならば身を隠すのにぴったりか……」

「さぁ、……期待しているよ、紅葉」

「あ。」


 言いたいことだけを言うと、通話はブツリ……と、終了してしまった。なんて勝手な奴だ。だが、必要な情報は手に入った。


「……すぐに出る。スズラングランドパークは山の上にあるから……ここから全力でチャリかっ飛ばしてどれくらいでつける……一時間? いや、もっとか……そもそも……」

「いや、私で飛んでいけばいいでしょう?」

「でも、それだとお前を巻き込むことに……」

「アンタがそこまで心配するならわかったわ。ピンチになったら離脱する。それでいい?」


 ルナの強い瞳に真正面から射抜かれて、俺は思わずうめいた……。


「わかった。それならいい。いいか? 自分の命を大事に、絶対に撤退するんだぞ」

「えぇ、わかったわ。アンタもくれぐれね」


 腕を組みつつそう告げるルナの言葉に、俺はただ無言を貫くしかなかった。




 空を飛び、数分もすれば目的地が見えてくる。山の上にそびえ立つ、廃墟となった遊園地。曇り空の下にあるその光景は、不気味な城のように見えた。


「……」

『ねぇ、一つ聞きたいことがあるんだけど』

「ん、なんだ?」

『さっきちらっと言ってたブラックハリケーン……って何なの?』

「あぁ、別に大したものじゃない……超巨大な台風がこの街を襲ったことがあってな……突如現れたその台風は、甚大な被害をもたらしたんだ……」

『そう。巨大な台風が突然。ね』

「あぁ、そして、その被害を最も受けたのがこの遊園地。山を挟んだ向こう側にある港町とともに開発されたテーマパーク……。それがスズラングランドパークってことだ」


 そんな、何気もない話をしていると、目的地にたどり着いた。大きな門の前に降り立って、俺は巨大な遊園地を見上げた。

 全身を駆け抜ける吐き気を催す気配。

 シエルの姿が、脳裏に浮かぶ。


「行くぞ、ミストを倒して、シオンを連れ戻す。例え、俺の命を犠牲にしても」




 俺は、覚悟を決めて前に進んだ。

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