第十六話 求道者の目
大学正門前の喫茶店。
「過激派ねえ」
売春宿が過激派に襲撃されたニュースがテレビで流れていた。
「勝てば官軍よ」
政治的に無風だったオジーに比べて大学の生活は政治色が比較的にある方だった。
「襲撃って?」
「ああ一寸待て」
リアンがタブレット端末でニュースを検索しだす。
同検索中だった黒音が答える。
「同盟派過激派組織「ユニット」による示威行動でマグネシュウム閃光弾による威嚇襲撃、だそうよ。最近多いらしいわ、閃光弾による示威行動」
闇い罠の攻撃も閃光弾だった。
「動機は何?」
「娼婦、性産業奴隷の解放、を主張、だってさ」
リアンが答える。
大学でも、学生同士の論議の対象になる、政治経済体制と身分制度問題だった。
「売春かぁ」
「泣いてる女は数知らず」
深理が顔を上げる。今時には珍しくペーパーべーズのニュースを読んでいた。
「其れはそうですが」
何故そんなことを、と黒音。
「人間の悩みは大体、経済、健康、人間関係の三つに収まる」
「ああ、まぁ、そんな感じですね」
「珈琲も飲み過ぎると健康に悪い」
「気を付けます」
黒音に小突かれて、リアンが答えた。
「性産業奴隷の解放って、何でそんなことを主張してんだろう?」
情報網に呈示されたユニットのメンバーの肖像を見る限り人道主義者には見えなかった。
「人の行いは大体煩悩業苦に纏めれれる」
深理はまた新聞に目を落とした。
「煩悩ですか」
「欲望や迷いの事だ。この欲望に引きずられて行う身口意の所作を業と言う。そしてその結果受けるのが苦だ」
「随分仏教的ですね。」
黒音はタブレットを読みながら珈琲に口を付けた。
「仏弟子なのでね」
あまり見えないな、とリアンはつぶやいた。
「じゃぁ、過激派の煩悩って何なんでしょう?」
「社会改革とは言っているものの、実際はお金だろうな」
深理も復顔を上げ珈琲を啜る。
「健康ではなさそう。人間関係と言うと、対立組織はありそうだが、組織抗争で性産業奴隷解放と言うのは、スローガンに過ぎない気がするしな」
「で、お金と」
「性産業奴隷にしろ過激派の襲撃にしろ、簡単に解決つかないな」
「解決するには何が正しいか見極めなければならない」
リアンは、あー疲れたとタブレットをテーブルに置いた。
深理が続ける。
「正邪や善悪を弁識する必要がある」
「気が重たいですね」
相変わらず黒音はタブレットから目を離さない。
「闇が深いからだろう」
実際何だか暗くなってきた気がする。
「正義とか、善とかって一概に言い難いですが」
リアンはそろそろ退屈したようだった。
小説、漫画、アニメ、ドラマ、映画。フィクションや物語で散々語られていて尚統一見解のなさそうに見える話題のように見える。
「其れは定義を知らないからだ」
「定義ですか?」
正義の定義や善の定義等統一見解は未だ聞いた事が無かった。
「調べてみるといい、学生だろ?」
外へ出ると昼過ぎの大学前は残暑で未だかなり暑かった。
「ふう、眩しい」
黒音は空を仰ぎ右手をかざして直射日光を防ぐ。
「人の目は明りを探す。暗がりに居ないで日溜まりに居た方が良い。」
深理は手を振って大学へと去って行った。
渋滞した車道はクラクションが鳴りそうだった。
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