莉子の事
次の日からリハビリ室でのリハビリが始まった。
いぶきは車いすに乗せられて内藤先生に連れてこられた。
その頃には、ろっ骨の痛みもだいぶマシになり、少しずつ体を動かせるようになってきていた。
リハビリ室にはたくさんの人がいた。歩く練習をしているおじいさんや、足の指でビー玉をつかむ練習をしているお姉さん、マシーンで筋力トレーニングをしているお兄さん、ベッドに横になって足や手を動かしたり、マッサージを受けたりしている人が何人もいる。
いぶきよりもずっとひどいケガをしている人も頑張って体を動かそうとしている。
自分だけがなんでこんなひどい目にあわなくちゃいけないんだろうと思っていたいぶきは驚いた。自分だけじゃない。私なんて全然マシな方だと思った。
ここで
彼女は
胸から下は全く動かす事ができず、感覚も無いらしい。
莉子は、ようやく現実を受け入れて頑張ろうと思えるようになってきたと言っていた。生きているっていう事に
「私はもう、いくら頑張っても好きな器械体操をできるようにならないけど、いぶきはまた自転車に乗れるようになるんでしょ?」
そう言われた。
いぶきは自分だけが
だけど莉子は言った。
「応援してるから頑張って! 私はもう出来ないって分かった時に、初めて心から器械体操をやりたいって思ったの。もちろん好きだったけど、やっている事が当たり前になってて、つらくてやめたいって思った事も何度もあった。
あの日が最後って分かっていたら、その前にもっと色々と
出来るなら、出来なくなるまで、いぶきには挑戦し続けてほしいな」
莉子は笑っていた。いぶきの体の深い所に
もしも逆の立場だったらどうだろう?
いぶきは
どういう言葉を返したらいいか分からなかったけれど、何か言わなくちゃと思った。
「莉子は強いね。私は‥‥‥。そうだね。莉子よりずっと軽いケガなのに、
莉子に負けないように頑張るよ。
絶対に
莉子は「もちろん」と言ってくれた。
「約束だよ」と言って2人でユビキリゲンマンをしようとした。
莉子の腕はあまり上がらず、指もあまり動かない事を知って、いぶきは悲しくなった。涙が出そうになったけれどじっとこらえて、莉子の腕と指を支えて動かした。
2人で明るい声を出して歌った。
「ユビキリゲンマン ウソツイタラ ハリセンボン ノーマス ユビキッタ」
自分の事で
莉子の夢は閉ざされてしまったけれど、お友達がオリンピックに出てそれを応援に行けたら、きっと嬉しいだろうと思う。莉子は私の応援に行けるように頑張ってくれるはず。
もしかしたら、私がオリンピックに出るのと莉子がその応援に行くのは同じくらい大変で、同じくらい頑張らなくちゃならないのかもしれない。だから
そう思えばきっと私は頑張れるはずだ。
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