幼女魔王の側近は元勇者!? 平和を取り戻した世界で今度は魔王側で頑張ります

名無し@無名

第1話 夜の来訪者



 ーーーー勇者宅。


「……面接をして欲しい?」

「ああ」


 突如、家に押し掛けてきたかと思えば開口一番に彼らはそう告げた。

 四人連れの大所帯で、しかも深夜にだ。

“元”勇者ハルトが怪訝な表情を浮かべるのも無理はない。長い戦いの末に魔王を倒して、王都から遠く離れた場所で静かな隠居生活を手に入れたのに、聖地巡礼だのとこの地を訪れる連中は後を絶たない。

 以前に比べると少しはマシにはなったが、それでも勇者というレッテルはいつまでも彼を縛り続けていたのだ。


「もう魔王はいない。面接も何も、パーティを組む気は無いんだよ」

「ッ!? そこをなんとか! 我々にも事情があるのだ!」

(やけに食い下がるな……)


 恐らく四人の中でリーダー格であろう男が懇願する。恵まれた隆々とした体躯、鍛えているものの華奢なハルトにとっては羨ましく見えた。


 きっと彼も魔王が生存している時ならば、かつてパーティだった戦士と並ぶだけの存在になれただろう。

 いいや彼だけじゃない。後ろの三人だが、左から寡黙な黒髪の騎士風の男、妖艶だが憂いを秘めた僧侶らしき女性、仮面で顔を隠した職業の見当も付かない人物と、皆が皆唯ならぬ雰囲気を纏っていた。

 怪しさばかりが目に付くがこれまで見てきた人物らとは一線を画す何かがある。しかし今となっては詮無きことだと、ハルトはゆっくりと視線を大男に戻した。


「……もしかして、俺と同時期に魔王討伐をしていたパーティなのか? 見た所、全員が相当な手練れにも見えるが」

「それは……」


 大男が押し黙る。

 先程から魔王という言葉に反応を見せているが、魔王が消滅した今になって困る人間は冒険者くらいだろう。

 魔王が死ねば世界各地で魔物の殆どは消滅し、残った個体は冒険者に狩尽くされつつある。

 魔物の中には貴重な素材を有するものも多く、皮肉な話だが、今では魔物は一部の人間に有り難がられる存在だ。

 平和を手に入れた弊害がこれでは手放しに世界を救ったと喜べない。皮肉過ぎる現実だが、それは既に勇者の仕事では無かった。


「国も冒険者達の再雇用として求人を出している。職種までは希望に添えるか分からないが、君達にその気があるなら、俺から王に口添えでもーーーー」

「違う」

「?」


 今度ははっきりと、そして迷いも無い言葉がハルトに向けられた。

 そう発したのは黒髪の騎士風の男だ。長い前髪から垣間見える切れ長の目、よくよく見れば端正な顔立ちをしている。

 思わず押し黙ってしまったハルトに対し、男は「我は人間と馴れ合うつもりはない」と、低く、だがよく通る声で続けた。


「おい待て、ここに来る前に相談して決めただろう!」

「気が変わった。こんな腑抜けになった男に任せられん」

「私も少し考えたくなりましたねえ。あの時の覇気に満ち満ちた方とは別人みたいですう」

「ピガガガガ! ピガッ! ザコ、ザーコ!」

「おい待て……その声、もしかしてーーーー」


 仮面を被った人物が発した声に思わずギョッとした。金属を打ちつけた様な、甲高い音が混ざる奇怪な声の持ち主。


「じゃあ……まさか」

「……元より隠す気は無かったが、ここまでは人間の目があったのでな」


 大男の体の輪郭が揺らぐ。

 それに呼応する様に、後ろの三人の姿も変化を見せた。


「お前達……何で生きてーーーー」


 魔王直下の幹部に属する魔神達が目の前にいる。かつて、激闘の末に倒した彼らが、あの頃と何一つ変わらない姿で佇んでいるのだ。


「勇者、改めて問おう」


 大男、改めてギガンテスが続ける。


「我々と共に、魔王様の住む世界を作って欲しい」

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