真珠を売ろう!
「それで、この真珠はどこに売るの?」
リンちゃんが私の手の中にある真珠をちょんちょんと触りながら、そんな事を聞いてきた。
「えー! 売っちゃうの? せっかくだし置いておきたいー!」
「でも、お金に変えて、自分の欲しい物を買うのもいいんじゃない? 私は高級スイーツを食べたいかな~♪」
「うん、確かに一種の思い出だし取っておきたい気持ちも分かる。けど、こういうのをため続けると、どうせいつか整理しないといけなくなるから。それに、現物のままだと、『誰が持っておくのか問題』があるし。お金に変えて四等分する方がトラブルを生まないでしょ?」
「そっか、それもそうだね。じゃあ、ハルは漫画を買いたいかなー!」
「私はレコードを買いたい」
ハルちゃんは漫画、リンちゃんはレコード、ユズちゃんはスイーツかあ。どれもいいわね~。私は……。
「私はお母さんにケーキでも買おうかな」
(((う、良い子オーラがまぶしい……)))
三人を見ると、何故か目を抑えていた。……目にゴミでも入ったのだろうか?
「で、肝心の売る場所なんだけど……。どうしよ? お母さんから聞いた話だと、アイテムを買い取ってくれる窓口はあるらしいんだけど、それよりも直接売りに行った方がお得らしいの」
「仲買業者を挟まない方がお得って事?」
「そういう事! 真珠を買い取ってくれそうなお店かあ。あるかな?」
「「「……」」」
「まあ、知らないよね……。うーん」
ゲームの中だと、宝石商的な人がいるんだけど……。この世界にもいるのかなあ?
「今日の放課後、三人で町の宝石店を見てみよっか?」
◆
「で、ここがリンちゃんのご両親が時々使ってる宝石店なのね?」
取りあえず近くにある宝石店を当たってみたいと話すと、リンちゃんがとある宝石店に連れてきてくれた。
「そう。いいお店」
「そっか、じゃあ買い取ってもらえるか聞いてみよー!」
チリンチリン♪
「おお、これはこれは……。とってもお洒落だね!」
「キラキラだねー!」
「きれ~!」
「せっかくだし、ちょっと見て回ろっか……。ん?」
何か視線を感じる……?
キョロキョロ。
「あ」
店員っぽい人と目が合ってしまった。私達をじっと見ているその人は、好々爺っぽい雰囲気のおじいさん。しかし、何か見定めるような目つきをしている。
は! もしかして、「なんやこの子供達? 冷やかしにでも来たか?」って思われてる? その可能性は……否定できないわね。だって、本来中学生が居てもいいような空間じゃないし。
うむ、急いで本題を話して、買い取り拒否されたらすぐに撤収しよう。
「あ、はしゃいでしまってすみません。えっと、このお店の方ですか?」
「そうじょよ。せっかく来て下さったんだ、ゆっくりと見て行って下され」
「あ、それなんですが。私達、アイドルを目指しておりまして、ダンジョンに潜っているのですけど……」
(? そういえば『芸能人がダンジョンの注意事項を紹介する』みたいなキャンペーンがあったような? そういう活動の一環かのう?)
「なるほど、なるほど。若いのに立派じゃのう……」
「ありがとうございます。で、偶然にもその過程でこんなものが手に入りまして」
「これは……。な?! オイスターバードの真珠じゃと?!」
「見ただけで分かるんですか? あ、もしかしてそういうスキルですか?」
「ああ、すまんのう。勝手にスキルを使ってしもうて。【宝石商】の持つスキル〈宝石鑑定〉というパッシブスキルでの。宝石系のアイテムを見ると、それが何か分かるのじゃよ」
「なるほど、それで分かったのですね!」
「それにしても、凄い物を手に入れましたのう……」
(まさか、入手に困難を極めるという『オイスターバードの真珠』を手に入れるとは。はぐれ個体でもいたのかの?)
(私も、まさか初日で出るとは思ってなかったからなあ)
「そうなんです。で、これを売りたいのですが……。母から『買い取り窓口は辞めた方が良い』って聞いたので、直接お店に売りたいなと考えていまして。突然お邪魔して聞くような事ではないかもしれませんが、もしよろしければ、こういった物を買い取って頂ける場所を教えて頂けないでしょうか?」
(なるほどのう。買い取り窓口に売ってしもうたら、『アイドルの○○がオイスターバードを狩っただって?! 凄い、俺も一攫千金をしたい……! オイスターバードを狩るぞ!』みたいな
「それなら、ここでも買い取りしております。どうぞ、こちらへ」
「ありがとうございます!」
話が通じて良かった~! こんなに順調に話が進むなんて思ってなかったよー!
けど、どうしてだろ。ちゃんと会話のキャッチボールをしたはずなのに、なんか互いの認識に齟齬があったような気がしなくもない……。ま、気のせいか!
◆
私達4人は個室に招かれた。おじいさん(実はこのお店のオーナーらしい)は私たちに紅茶を出した後、真珠を詳しく調べたいと言って、部屋を出て行った。
「この紅茶、美味しいー!」
「うむ、美味だ」
「私、紅茶って苦くて苦手だったんだけど、これは美味しく飲める~♪」
高級な分、渋みも少ない……とかあるのだろうか?
などと考えていると、オーナーが帰ってきた。
「念のために、色々と追加で検査しまして、正真正銘本物と分かりました。その上で、重さ形状希少価値などから評価しまして……」
「「「「ごくり」」」」
「24万ほどになるかと」
「「「「24万?!」」」」
マジで? そんな高くつくのか、これ? あり得なくない……? だってこれ、アイドルに就いてまだ数日の私達でも取りに行けるくらいの代物だよ?
※ダンジョンに潜るアイドルが居ない以上、この世界ではとても貴重。
「そ、そんなに高額になるんですか……」
「というのも、ダンジョン産の真珠は珍しいですから」
待てよ、私は大きな誤解をしていたかもしれない。ゲーム感覚で「オイスターバードは最初のレベル上げに最高!」って思っているけど、この世界だと「1/1000で大金があたるって……。そんな博打をするくらいなら、コンスタントに稼げる魔物を倒す方がいい」って思ってるのかも! そっか、そういう考えの人が多いなら、真珠が集まらないのも納得がいく。
「ただし、これに味を占めないようにして下され」
「それはもちろんです。今回は運が良かっただけと理解しています」
◆
「四人で割って、一人6万円ね。6万円なら問題ないけど、一定額を超えたら所得税がかかるから注意するように、ね」
「おお、おお……!」
「凄い。早速レコード買う」
「まさか、こんなにも高く売れるなんて思ってなかったね~やったね♪」
「じゃあ、明日からもダンジョン攻略頑張ろうね!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます