魔法少女

 場所を移動し、ここは第2層。1層に比べて多少地面がでこぼこしてるけど、見晴らしがよく、魔物のいる場所もはっきりと分かる。


「ここにいる敵は三種類よ。スライム、ケセランパサラン、そして火の玉よ」


「スライムは1層にもいた、プヨプヨだよね?」

「ケセランパサランって言うと、空飛ぶ毛むくじゃら?」

「火の玉って妖怪だよね~、ちょっと怖い……?」


「うん、説明するよりも実物を見た方が早いと思う。まずは私が魔法を使うね」


 ぽよん

  ぽよん


「ちょうどいい所にスライムが」


「あれ、倒しちゃうの……? なんだかかわいそう……」


「いくら可愛くても、魔物は魔物だからね。ちなみに、倒すとスライムゼラチンっていうゼリーの元が手に入るよ。いっぱい倒したら、おいしいゼリーを作ってあげる」


「ヒメの手作りゼリー?! 食べたい! どんどんスライムを倒そう!」


「うん。じゃあ、いくよ。〈マジカルバースト〉!」


 職業【魔法少女】が使える唯一の攻撃魔法、それがマジカルバースト。対応する属性の魔法を放つことができるという、シンプルな魔法だ。

 私の初期属性は火だから、手の先から炎の矢が発射される。それはスライムに命中し、スライムは「ポフッ」と消えてしまった。


「すごーい! 命中した!」

「本当に炎の矢が出た。興味深い……」

「スライム、消えちゃったね」


「こっちこっち。ほら見て、ここに落ちてるのがスライムゼラチンだよ」


「全然ゼリーじゃない?」

「これをお湯に溶かしてゼリーを作るのよ」

「前にみんなで作っちゃじゃない~!」


「懐かしいね! あれはクリスマスパーティーをした時だったっけ? まあ、それはともかく、スキル〈マジカルバースト〉の使い方はこんな感じ。三人もやってみて。あ、そうだ。スライムに水魔法は効き辛いから、リンちゃんはケセランパサランか火の玉を優先して狙ってね」


「はーい!」

「ん、分かった」

「昔から魔法使いが憧れだったから、すっごく楽しみ♪」



 そして15分が経過した。



「ヒメちゃーん! やっぱり当たらないよお!」


 ハルちゃんが私に泣きついてきた。ハルちゃんは元気な代わりに、細かい作業が苦手。魔法の微調整も上手くいかないのかもしれない。

 取りあえず、ハルちゃんの魔法を注意深く観察してみる。すると、そこに規則性がある事に気が付いた。


「うーん、ハルちゃんの魔法はいつも右にズレてるような……。そうだ! 今は右手で撃ってるけど、両手を前に出して撃ってみたら?」


 両手を組んで銃の形にしてみせる。


「バーン、バーン! 西部劇みたい!」


「それでやってみて」


「〈マジカルバースト〉! あ、当たった!」


「完璧ね」



「ヒメ、私はどうかな」


「リンちゃんは最初から完璧だよね、もしかして魔法少女の経験がおありで?」


「無い」


「でしょうね」


「けど輪ゴムでっぽうでよく遊んでた」


「そういうのも関係してるのかな?」


「どうだろ? それより、ヒメ。あれ、どうするの?」


 リンちゃんがユズちゃんの方を指さす。そこでは……。



「ユズの必殺技、マジカル~バースト!」

 (右手を前に出し、左手は目元でピース)


「喰らっちゃえ、マジカルバースト!」

 (両手でハートマークを作る)


「ユズちゃんのお仕置きだよ! マジカルバースト」

 (ウインクを決める)



 ユズちゃんが必死でポーズの練習をしていた。

 可愛いけど、ひとまずストップ。


「ユズちゃん? ポーズの練習、とっても可愛い! けど、そろそろ実際に魔法を使ってみようか」


「え~でも……。じゃあ、ヒメちゃんとリンちゃん、どれがいいかな?」


「「え?」」


 期待のまなざしがリンちゃんと私に向けられる。これは不味い、なんて答えるのが正解なの……?!

 困る私の横で、リンちゃんが先に答えを出した。


「どれでも可愛い」


 答えたというか思考を放棄したのね、これは。


「そ、そっか~! 可愛いって言ってもらった♪ ヒメちゃんは?」


「そ、そうね……。あ、そうだ。今は出来ないけど、【アイドル】になるとウインクとハートを使う魔法があるの。だから、今はピースが良いと思うわ!」


「そうなんだ~! 分かった、じゃあこれで行くね」


 その後、命中させるのに少々戸惑ってはいたけど、無事ユズちゃんも〈マジカルバースト〉のコントロールを出来るようになった。



 再び移動して一気に5層までやってきた。これ以降は、下手に近づけば反撃してくる敵が現れる。逆に言うと、防御魔法を練習するのに最適な場所である。


「次は防御について学ぶよ、マジカルバリア、自分の前に対応する属性の盾を作る魔法だね。まずは私からやってみるね。〈マジカルバリア〉」


 ボウッ!と火の盾が私の前に出現した。ただそれだけの単純な魔法である。


「まずはみんなもやってみて」


「「「〈マジカルバリア〉」」」


「うん、良い感じ。じゃあ、より具体的な話をするよ。マジカルバリアで重要になってくるのが、三すくみの構造なんだ」


「三すくみ?」

「じゃんけんみたいなものの事」

「グーはチョキに勝つ、チョキはパーに勝つ、パーはグーに勝つ。こんな風にどれが最強って決まってない物の事を三すくみって言うんだよね~」


「そうね。そして、ダンジョンにおいては水は火に勝つ、火は土に勝つ、土は水に勝つの。例えばあそこにいる蛇みたいな魔物『ツチノコ』は土の魔法を使う。だから、私かハルちゃんが防御魔法を使うべきね。〈マジカルバリア〉!」


 え? 火には実体がないのに、どうやって土魔法を止めるのかって? そういう細かいことを考えたら、ゲーム世界で生きていけないよ。


「向こうにいる『火花』は火の魔法を使うから……」


「私の出番ね」


「そういう事。リン、お願いね」


「任せて」



 こうして、7時半まで私たちはトレーニングをした。ダンジョンに入ったのが6時だから、トータルで90分ね。


「今日のおさらいをするね。攻撃にはマジカルバースト、防御にはマジカルバリアを使うわ。で、マジカルバリアは対応する属性でないといけない。まずはこれだけ覚えてね。今日はここまでにしようか。みんな、疲れてるみたいだし」


「そう? 私はまだまだいけるよ!」

「そんなに疲れてないけど……」

「私も大丈夫だよ~」


 ハルちゃんはその場でぴょんぴょんと飛び跳ね、リンちゃんは屈伸運動をする。確かにその動きはスムーズで、疲労を感じさせない。けど……。


「体力的にはね。けど、さっきから魔法の威力が明らかに落ちてるでしょ?」


「あ、それは思ってた!」


「この原因は魔力不足。魔法を使うのに必要なエネルギーが足りなくなってるの。回復薬があれば魔力を補充できるけど、それは最終手段。今のところは、一晩寝て回復を待つべきね」


「魔力不足……。増やす方法はある?」


「あるよ。毎日コツコツダンジョンに潜って練習すれば、魔力量はどんどん増えるの。【アイドル】になる頃には、今の10倍、いや20倍くらいの魔力量になってるはずよ」


 ゲームではレベルアップと同時に魔力量が増えたけど、リアルだとどうなってるんだろう? 要検証ね。


「おお、それは凄いね」

「それじゃあ、アイドルは丸一日魔法を使っても大丈夫って事?」


「うんん、それは無理かな。だって、アイドルになったら、もっと強力な魔法を使う事になるから」


「なるほど~、つまり魔力消費量も増える?」


「そういうこと。つまり、私達の今後の予定は毎朝集まってダンジョンをちょっとずつ攻略していく事。アイドルらしい活動ではないけど、ここで手を抜いたら後で後悔するから、しっかり頑張っていこうね!」




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