10個のプレゼント(カフェシーサイド12)

帆尊歩

第1話 カフェシーサイド12

「大丈夫」と僕は真希に言う。

僕は真希と「柊」のテラス下の砂の塊に腰かけている。

砂掻きもしばし休憩だ。

「何が?」

「だって、カコちゃんいなくなるんでしょ」

「良いことだから。全然大丈夫ですよ」

カコが孝と一緒に住むことになった。

まだ同棲の段階だけれど、出来るだけ早く籍を入れると、孝はみんなの前で約束をした。

最低でも子供が生まれたとき、二人は正式な夫婦になっているはずだ。

これでカコ、授かった命を失わずにすむ。

僕は真希がどうするのかが、一番の関心事だった。

カコがいなくなれば、真希は一人ぼっちだ。

塩浜にいる意味もなくなる、借りている部屋だって、二人だから借りられるのであって、真希一人では荷が重い。

前家賃で払っているから、一ヶ月くらいは大丈夫だが、そこから先は分からない。

いくら本人が居ると言っても、家賃は掛かる。

いくら売るに売れない物件とはいえ、そこそこの広さはある。

一人では家賃も厳しいだろう。

「真希ちゃんは、どうするの?」

「私は、ここに逃げてきたから。選択肢はここにいるか。もっと遠くに行くか」

(ここにいろよ)と僕は真希に言いたかったけれど、言えなかった。

でも、真希には、ここにいてほしい。

「今日食事会は六時から、ちゃんとカコちゃんを連れてくるんだよ」

「うん」


今日はカコの門出を祝して「柊」で食事会をすることになっていた。

一応貸し切りだが、そもそも「柊」はいつだって貸し切りのような物だ。

「さあみんな、カコちゃんに送る餞別のプレゼントを確認します」

「10個くらいは欲しいですよね」

「香澄さん、今ここで言う?まあいいか、まず私、遙から。

カフェシーサイドのロゴ入りマグカップ」

「えー僕、眞吾からは塩浜海岸の砂」

「私、沙絵からは塩浜海岸の、海水」

「あんたなめてるの」と遙さん

「そんな事言ったら、眞吾君の砂って何よ」

「まあ確かに、で香澄さんからは?」

「私からは月の沙漠のラクダの絵はがき?」

「みんなギャグ、笑いを取ろうとしている?」

「遙だって。誰が「柊」のロゴ入りマグカップなんて欲しいのよ」

「まあみんなちょと、冷静になろう。

相談したわけでもないのに、どうしてこんなガラクタばかりが集まる?」

四人が顔を見合わせた。

「それに4つしかない」と残念そうに香澄さんが言った。

「えっ、そこがこだわりポイント?」と沙絵さんが言う。



その直後、真希とカコがやって来た。

飲み会ではなく、食事会というのは、カコが妊婦だからだ。

そもそも、飲み会としても、元はカフェだから、たいした物はない。

「柊」のメニュープラス、みんなで持ち寄った物で食事会だ。

話題はカコのこれからのことに終始した。

でもその言葉の節々には、カコが幸せになれるようにという思いが込められていた。

そしてプレゼントタイム。

「プレゼントタイム」と叫ぶ遙さんのテンションはやはり低い。

何せプレゼントは、ガラクタばかりだ。

まあとりあえず、今日の所はこのガラクタでごまかし、おって後で、もう少しちゃんとした物を送ろうということになった。

「まず私から、「柊」のロゴ入りマグ。これはレアーよ、だって五個しか作らなかったんだから」

「五個も作れば十分よ、誰が欲しがる」と沙絵さんが突っ込む。

「うるさい、後、手代の塩浜海岸の砂」

「おいおい、砂って甲子園か」

「沙絵、ツッコミが古くて若い子にはわからないよ。ていうかあんただって。塩浜海岸の海水って、笑いを取ろうとしているとしか思えないよ。あと、香澄さんの月の沙漠のラクダの絵はがき」

「海水からみれば、十倍ましですよね」と僕は香澄さんの肩を持つ。

「あんたが言うな、砂、送ったくせに。と言うわけで、カコちゃんゴメンね、最後のプレゼントがあまりにガラクタで。後日、もう少しまともな物を」

「いえ。本当に嬉しいです。皆さんありがとうございました。ガラクタなんてとんでもない。それにさらに皆さんからは、別の頂き物があります」

「なんか、あげたっけ」と沙絵さんが言う。

「沙絵さんには、病院に行くことをアドバイスされ、後悔をすると言うことを教えてもらいました。それと、子供を育てることの難しさを。

遙さんには休ませてもらい、優しい言葉と本当に暖かいココアをもらいました。あれは心も体も温まりました。

眞吾さんには、砂掻きをしながら、不安を忘れさせてもらい、穏やかさをいただきました。

香澄さんには、男に対する過度な期待を持たないことを教えてもらい、心の負担を軽くすることが出来ました。

「残念、9個だ」とこだわる香澄さん。

「そして皆さんそれぞれから。様々な勇気をいただきました」

「凄い、これで10個のプレゼントだ」香澄さんが大きな声を出した。

「イヤ香澄さん、最初の4個のガラクタを含めちゃだめでしょう」あくまでもガラクタにこだわる遙さんだった。

その後も、4つのガラクタをネタに盛り上がり、ヘンテコな食事会は続いた。

そして塩浜海岸の空には、満天の星が輝いていた。

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10個のプレゼント(カフェシーサイド12) 帆尊歩 @hosonayumu

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