スライムに負ける勇者がいるわけ無いだろ?????

坂本尊花

第1話 勇者マケル

 ―――俺は勇者だ。

 産声を上げた瞬間から最強、暴力ATKだろうが知力INTだろうが誰も俺には敵わない。

 絶対悪『魔王』を倒すという大命、それを成す力を手にした『勇者』という存在は正に人類の希望、さながら世界を照らす太陽っ!人々の羨望を一身に受ける超超超超超大スター!

 故に、そうなんて夢に決まってる。


 「ユウシャ☆ユウシャ☆硬くてぇ、太くてぇ、お〜っきいね♡」


 「骨骨骨骨骨っ、俺の骨に吸い付くんじゃねぇよクソスライム!!?ぁぁぁああ折れる折れる折れる折れる壊れる壊れる壊れる壊れる壊れる壊れる壊れる壊れる壊れる壊れる」


 胸骨から腓骨にかけて(胸から脚)悪魔的なまでのバキュームフェラ(口ではない、全身でだ)を受けているという耐え難い現状。勇者として屈辱的なこの現状、目眩がしてきた、汗も凄い、これが……恋?極度の貧血だよ馬鹿。


 「どぉ〜?イキそう♡」


 「逝きそうだよボケ!!?」


 ゼロ距離でうねる忌まわしき敵は、なんてことはないLv.1のスライムだ。斬撃耐性99%を持っていたとしても勇者である俺ならばダガーで軽く小突くだけで倒せる。そうだ、なんならそこに落ちてる小石をこいつにぶつけりゃ一撃だ。そしたらこの地獄も直ぐに終わる。……いや、無理だ。

 俺はこいつには勝てない、少なくとも現状は。突然変異により人の形を得たスライム、通称スライムっ娘、形が変わったくらいで被害件数が多くなるから何が起こっているのか奇妙で仕方なかったがようやく原因の一端が理解った気がする。


 「ご飯にする(捕食)?お風呂にする(捕食)?それとも、わ・た・し(捕食)?」


 この娘、俺の性癖にどストライクなんだよなぁ。顔、性格、声、仕草、全てにおいて俺が求めていた女そのもの。故郷の女たちは俺が勇者であるにも関わらず冷酷無慈悲に『死ね』だの『寄るな』だの言ってくるし、幼馴染みに関しては別れ際に『魔王を討った暁には式を挙げよう』とか気の利いたこと言ってやったのに『わぁ素敵!直ぐに葬式の準備しますね』とか言ってツバ吐き捨ててそのまま家に帰っていきやがったし。……何の話してたんだっけ、なんか目が霞んできたな。


 「わ〜ユウシャが死んじゃう……死ぬなっ生きろっ!」


 「あぁ名も知らぬスライムよ、不死たるこの身を案じてくれたのは君が初めてだよ」


 「ユウシャが粒になって空に昇ってる。すげ〜、なんかフケみたい!」


 勇者は不死身だ。再生不能の重症を負ったとしても安全な教会で蘇る。だから安心して欲しい。これが今生の別れという訳では無いのだ。ありがとうスライムよ、ありがとう。けど、そういえば俺が死んだの全面的にお前が悪いな?????


 「おい、スライム」


 「ユウシャ美味しかった、ご馳走さま☆☆☆」


 口だけになった俺は、残った口で厭味ったらしく忠告する。グルメ雑誌みてぇなコメントしたんだ、料金はちゃんと払わなきゃなぁ?


 「俺の肉代、ちゃんと後で払ってもらうからなぁ?金が用意できなきゃ……そうだな、ひひっ、身体で払ってもらおうかぁ?」


 「私お金もってる!!全財産の銅貨2枚◎◎」


 銅貨二枚→うまい棒2本分。


 「お菓子でも買いなさ…………」


 「あっ、ユウシャ消えた」


 再び目を開くと、そこは棺の中だった。

 なんだろう、凄い悪夢を見た気がする。

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