第8話 情報収集開始



「それにしても唯様は随分と過保護のようですね」


「そうですかね?」


「えぇ。私から見れば、のお話にはなりますが」


 ホテルの専属医療魔法師に頼み治療をしてもらった俺はなんとか包帯を外して外出できるようになった。傷跡も塞がっており、激しい運動をしなければもう問題ないとも言われた。

 それを聞いた唯は一安心したのか、急に睡魔が襲ってきたらしく少し仮眠を取りたいとのことで俺は唯の指示を受けて今はさよと一緒にサルビア街を観光している。


「へい! お待ち!」


「あっ、どうも」


 俺は店主から受け取った焼き鳥を口に頬張りながら街の景色を楽しんでいる。

 まずは地理を把握することで今後に活きてくるとのことで、今は観光という名の情報収集をしていた。

 最初は反論した俺だったが、道もよく分からない状態でもし何かあったら逃げるにしても逃げられなくなるかもしれない、それに誘い込まれたらどうするの? という唯の正論に反論することができなかった。確かに急いでも仕方がないと思った俺はこうしてさよと一緒に行動しているわけだ。本当は一人でも良かったが、道に詳しく顔が効くさよが一緒にいた方が安心だと判断した唯がさよに同行をお願いしたのだ。

 実際に街の中を歩いていると、ひそひそ話をされているのがなんとなくでだがわかる。ただし気にしても仕方がないとここは割り切って今はできることをしていく。


「気にはならないのですか?」


「なりますよ? でも真実は違うし、それを証明するのがある意味俺の目的でもありますから」


「全ては結果で示す、ですか。良い心意気だと思います」


 ある意味後悔に愛された人生。

 少しは割り切ることも覚えていかなければ、いつか後悔と絶望に押しつぶされてしまうかもしれない。これはそう言った意味で覚えた俺なりの生きる術なのだ。

 ただし、上手く活用できないことが多いが。


「それよりお金本当にいいんですか?」


「はい。後で唯様にまとめて部屋の利用料と一緒に請求しますので」


 俺は苦笑いしかできなかった。

 焼き鳥意外にもたい焼き、パイン盛り、ジュース、と他にもあるが全部買ってもらったのだ。後で怒られる未来しか見えないのだが、後で泣き寝入りをして唯には許してもらうとしよう。


「物足りないですか?」


「あっ、いや大分お腹は満たされてきましたのでとりあえずは大丈夫です」


「お腹のお話ではなく情報収集のお話です」


「え? あっ、いや、まぁ……はい」


「唯様は先ほど言われませんでしたが、野田家の者を仮にどこかに誘き出すとしても何処にどのタイミングでなど色々と重要になってくると思います。これは私の個人的な考えですが、外堀を埋めて確実に落とすつもりなのではないでしょうか」


「えっと……どういうことですか?」


「簡単に申し上げますと、刹那様から見れば一見無駄に思える事でも、唯様からしてみれば重要な事だと言うお話です」


「なるほど……」


 言われて見れば確かにその線はあるのかもしれないと考えさせられる。

 それにしても結構歩いているのにまだ半分も見れていない時点でサルビア街はかなり大きい街だと言うことがわかった。

 乗物を使えばもっと楽に色々と行けるのだが、あくまで地理を自分の足で歩いて覚えてこいとの言いつけを守るため俺は一日がかりになると覚悟を決めた。


「ってことで、今度は南通りに行ってみませんか? 南通りはホオズキ街にも続いていてなにか有益な情報がおまけで手に入るかもしれませんし」


「わかりました」



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