第16話

かぶと虫


妻から突然のランチの誘い


何ヶ月ぶりだろう


半分嬉しくて、半分嫌な予感


妻 早く用意して


夫 うん



まぁ少し、おしゃれしようか


妻 まだ?


夫 もうすぐ



お気に入りの服に、ハット


夫 良し!決まった!


けれど少し不機嫌な妻


昔お洒落だった妻は、最近は化粧もしない


少しイライラする私


夫 たまには昔みたいにオシャレでもして欲しい

  


私と出かける時はいつもすっぴんにキャップ姿の嫁


妻の運転で、向かった回転寿司


回転寿司は昔から苦手だった。


どうもシステムがわからないからもあるが、



回る寿司を選んでいると、つい寿司ばかりに目がいって目が回るからだ。



夫  回転寿司は苦手だから、中華にしない?


妻 いつも行き先決めないのに、何よ急に?

  私はお寿司食べたいの!



妻の言葉で気付く、昔から行き先はいつも妻に任せてばかりだったこと。


注文も妻、何も問題なく食事が始まる。



話題が無い。


突然妻が言い始める現実味のない将来話。



妻 私、老後は南の島でゆっくり釣りでもしながら過ごしたいなぁ


夫 何を馬鹿な事を……!インドアなお前が、

  島で釣りなんて。私は地元が好きだし、

  友達もいるし。



特に意味を持たない短い会話。


妻は私の好みをよく知っている。


好きなネタばかりどんどん運ばれてくるが、こんなに沢山食べきれない。


もう何皿目だろう?


妻は細身だがよく食べる、もう十五皿を越えている。


空になったビール片手に三杯目を追加注文しようとした瞬間、妻の少し怒った声。


妻 もう帰るよ


時計を見たらもうすぐ十五時。

こんなに食べて夕飯、食べ切れるのか?



妻 今日の夕食はお茶漬けね!飲み過ぎ!



えっ……それならもう少し食べていればよかった!がっつり中華だったら飲まなかったのに……。



その日の夜は妻の宣言通り


お茶漬けだったし、酒の肴も無かった。


お昼はやっぱり、一人が楽だな。














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