第11話 なぜ告白も決闘も屋上なのか?

「...攻撃力アップのバフなんか...かけちゃいなかったか。」

「アンタが仰るとおり大したダメージにはならなそうだからな。」


スキンヘッドはそれっきり口をつぐんで喋らなかった。


ナンシーとスキンヘッドを縛ったままビルの屋上へ連れて行きハルカに話を聞く。


「私が、ノーガードで顔に攻撃受け続けたわけ。んで、それでついた血を見てパンチ避けたの。」

「...ハルカは吸血鬼バンパイアじゃないんだからあんま無茶すんなよ。」


しばしの沈黙。ハルカは自分の顔を治すと、突然大の字に寝そべった。


「...そ、そんな無防備に横にならないほうが...」

「いいの。この展界ルームには私たち4人しかいない。」


そんなこと言ったって、学年のマドンナが―――乱れた髪、汗ばんだ肌を見せつけて目の前で寝そべっているのは、なんと言うか目に毒である。

気まずそうに目を逸らすイブキを見てからからとハルカは笑った。


「アンタ、戦う時はスイッチ入るのにね。」

「悪かったな。所詮普段は陰キャだよ。」


イブキも精神的な疲れを感じて屋上に座り込む。でもその疲れは大変な部活動をやり遂げたときのようで、心地よい疲れだった。


「こいつらどうすんの?」

「ポリスでも呼んで引き渡すか。」


廃ビルの屋上。太陽も人々もいない世界で寝そべる。しばらくこのままでいたかった。

展界ルームを解くと、夕焼けが2人を優しく照らしていた。


● ○ ●


「鶴見とナンシーがやられたか...。」

「はいっ。たった今、ポリス内部のユダから連絡がっ!」


薄暗い部屋を、紫の光が照らす。

玉座に座った老獪な男は伝令の報告を聞くとゆったりと足を組み直した。


「あ、あのっ!それじゃ僕はこれでっ!」


出ていく伝令を眉を顰めて見送った男は持っている資料をパラパラとめくり絞り出すように呟く。


「叶田ハルカ...。忌々しき叶田一族の末娘...。」


男は玉座に深く座り直すと、ゆらゆらとワイングラスを揺らす。


「まあナンシーちゃんも鶴見ちゃんも3ヶ月前にレブルになったばっかだし、下っ端だし。」


優しく男にそう声をかけたのは、ソファでルービックキューブをいじっている若い女だった。


「あ、揃った。」

「おい。遊ぶのは控えろ。黒羽様の前だぞ。」

毒島ぶすじまは堅いんだって。そんなんだから子供達に嫌われるんだよ?」

「なっ!何故それを...。」


毒島と呼ばれた男は露骨に凹む。


「だいたい、あんたの能力は狩りに役立たないんだから。黒羽様のお食事も全部私に頼ってるくせに。」

「適材適所というものがあるのだ。お前の後片付けをしているのは誰だと思ってる?」

「やめないか。2人ともいい働きをしているじゃないか。―――神無月はどこだ?」


2人のやり取りを軽く諌めた黒羽がワイングラスの中に入ったを啜りながら2人に尋ねる。


「さあ?.,.神無月は神無月で動いてるんだから。」

「勝手なやつだ。」


黒羽クロバは手元の紙をはらりとめくり呟く。


「安楽木イブキ...。僕を感じる...。」


黒羽クロバがみるみる若返る。老いた体を脱ぎ捨てるように肌が張り、瑞々しくなる。


「ミナセ。出番だよ。」

「え〜?潰すの〜?」


黒羽クロバが暗闇に呼びかける。女が茶々を入れるが黒羽は全く気にしていない。


「これで壊れる玩具なら、いらないさ。」


● ○ ●


「それで、展界ルームでの戦闘になったと。」


ハルカに連れられポリス本部についた。もちろん裏世界にあるのだが元の世界の警視庁と同じ建物で少し興奮した。

スキンヘッドとナンシーをポリスに引き渡すと、半強制で俺たちへの取り調べが始まった。若い女性は名前も名乗らずあらましを語るように促す。そしてところどころ隠しながらも襲撃の内容を伝え終わった頃だった。


「ところで安楽木さん。あなたはシビルではないですか?」


取り調べ員が、全てを見透かすような目でイブキを見つめてそう問う。


「そんなわけないでしょ。ここに来れてる時点でレブルです。」

「能力を伺っても?」

「...。」


ハルカの目配せ。。それはわかってる。


「か...。」

「か?」

「蚊の付喪神です。定期的に血を飲まなきゃ行けなくて。」


ハルカが額を抑えて天を仰ぐ。「あちゃー」なんて声が聞こえてくる気がする。

下手な嘘かもしれない。けど辻褄は合う。

ナンシーとスキンヘッドの体には俺が我慢できなくて血を吸った傷がある。変な能力を言うと逆に怪しまれてしまう。


「蚊の能力で彼らを...。ふむ...。」

「虫は強いですよ。」

「血を吸うなんてまるで...吸血鬼バンパイアのようね。」

吸血鬼バンパイアなら良かったんですけど。」


イブキは取り調べ員から目を離さない。


痺れを切らしたかのように取り調べ員が短く言葉を告げる。


「...質問は以上です。」

「?もう終わりですか?」

「ありがとうございました。犯罪者逮捕に感謝します。お礼金はこの中に。」


茶封筒を渡されたイブキとハルカはあっという間にポリス本部を追い出されてしまった。


● ○ ●


「佐渡、何かわかったか。」


ハルカとイブキが本部を出てから、若い男が

取り調べ員―――佐渡に話しかける。


「はい―――と言いたいところですが。」

「君の読心を持ってしてもかい?」

「あの女の子、ずっと妨害してくるんです。多分陰陽師です。」


若い男は紙をパラパラとめくるとハルカの名前を調べる。


「名前は―――富田みはる?」

「富田家...。九州の方にいましたね、使い魔の。」


若い男はパソコンに何かを打ち込むと再び佐渡に問いかける。


「少年の方はどうだ?あんら...安楽木やsjらぎくん

「それが―――心が読めなかったんです。」

「!」


若い男は目を見開くとすぐに肩をすくめる。


「失敗は誰にでもあるとはいえ、付喪神の読心をしくじるなんて感心しないね。」

「最初は読めたんです。レブルだというのもほんとです。でも―――。」


佐渡は迷うように目を宙に彷徨わせると続ける。


「木の扉を通り抜けたその先に鉄のドアがあるような...Tシャツを撃ち抜いたと思ったらその下に防弾チョッキを着ていたみたいな...。」

「はっきり言いたまえ。どういうことだ?」

「あの子の中にもう1人いる感じなんです。心のガードがとてつもなく固い人が。」

「―――ほう?」


佐渡は厳しい目つきで若い男に訴える。


「鶴見頸とリリア・ナンシー。ほぼ確実に黒羽クロバの手先です。狙われる理由があるはず。」

「...彼らをマークしておこう。“影”に連絡しとけ。」


● ○ ●


「タイトルは“曇天”、かなあ。」


イブキは空に向けて四角いキャンバスを切り取るように指を向けると、そうつぶやいた。


ナンシーとスキンヘッド(本名は鶴見らしい)の確保のお礼金は高校生が持っている額より桁がいくつか多く、イブキはそわそわしたまま家を出た。お金があると自分の所持品全てを新品に買い替えたくなる。不思議だ。

 晴れやかなイブキの心情とは正反対の空模様を眺めて、そう呟いてしまうのも無理はない。雨が降っていないことが唯一の救いか。

レブルになってから少し鍛えられた脚力で遅刻を回避して学校に着くと、ガタガタ震える小坂タイガの横を通って下駄箱を開ける。

靴の上にはが置いてあって、イブキはそれを見て冷静に下駄箱を閉じる。


(は????)


もう一度下駄箱を開ける。上履きの上に封筒。ハートマークのシール。


(俺にラブレター?ハルカさんから?それとも他の女子から?)


頭を“?”が駆け巡る。目の前をスーツを着たワニが横切ってもここまで疑問は抱かないだろう。


「おはよ!イブキ!」

「は、ハルカさん...いい天気だね、はは。」


ハルカは窓の外に見える曇り空を見て首を捻ると、「なんで“さん”付け?」と言い残して教室へ向かった。ツッコむところそこじゃないだろ。

HR5分前のチャイムが響く。

イブキは封筒を鞄に突っ込むと急いで教室へ向かった。


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安楽木イブキくんへ♡


いつも孤高の天才のようでクールなイブキくんに憧れます。伝えたいことがあるので放課後1人で屋上に来てください。


傘井


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「ぐわああっ!」


封筒の中身を見て、発狂したイブキが先生から鉄槌を喰らうまで残り5分。

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REBEL-レブル- 夜野やかん @ykn28

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