下山

 さて、お腹も膨れたことだし、いざ!


「出発! と行きたい所ではありますが」


 色々準備が必要だよね。


「ん?」

「精霊さ……イグル様。お聞きしたいんですが、この山から抜けるのに何日くらいかかりますか?」


 そんで食料と水と、あとヴリコードまでの路銀と……。


「その気になれば、半日かからないよ」

「はん?!」


 私二日も彷徨ったのに!


「あ、でも、ウィルジーはすぐ疲れるんだっけ。そしたらもっとかかるかも」

「ちなみに、どんな道のりで……?」

「んー? 森の気分にもよるけど、そんな変なとこはないよ。今日の木々は楽しそうだから、楽しい道じゃないかな」


 …………。

 さすが精霊様の山、そこに在るモノ全てが特別ということ、か?


「えーと、そしたら途中で木の実とか水とかある所に出る、なんてことは可能ですか?」


 ぐるぐる迷ってた時は、食べられそうなものなんて全然見つけられなかったけど。


「……出来るんじゃない?」


 イグル様は辺りをぐるりと見回してからそう呟いた。


「もうない?」

「あ……はい、そうですね。食料問題がどうにかなるなら──」

「じゃ、いこう」


 するり、と腕を掴まれ


「へっ……え、ぇああああああ?!」


 勢い良く駆け出した!

 速い速い速い! 景色がビュンビュン飛んでいく!


「跳ぶよ」

「ひえっ……!」


 跳っ……たっかぁああ!

 空が近い地面が遠……落ちる、遠かった地面がどんどん近づいて……!


「うおっつ!」


 え、今、木が避けなかった?


「へぇ、巧いね」


 またぐんぐん駆ける。こっちは転けないように必死だけど、やっぱり木や草が退いていく。

 道が出来ていく!


「今日はみんな、楽しそうだねぇ」

「そうなんですか? ぅおっ」


 危なっ転びかけた。


「いつもは気難しいのにとっても楽しそう。ハナがいるからかな?」


 いやそれは無いのでは。


「ぼくも楽しい」


 涼しい顔で駆けながら、きらきらした瞳で言うイグル様。

 わー後ろになびく長くて白い髪もあいまってまるで絵画。こんな時じゃなきゃ、しっかりこの目に焼き付けるのに。


「あ、また跳ぶよ」

「あっはいっ……さっきより高ああああ?!」




 そうして。

 駆けて、跳んで、私は時々叫びながらも、まだ明るいうちに山を下りられたのだ。



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