ハナとイグル ~人間に興味があるとかいう精霊様に何故かなつかれてしまったようです~

山法師

出逢い

出逢い

 急に明るくなったと思ったら、大きな湖の畔に出た。


「大きい……!」


 水面で光がきらきらしてる。爽やかな風が気持ちいい。

 さっきまでの薄暗い森とは大違いだ。


「はぁーそーだいだー……」


 眩しくてちょっと顔をしかめながら、木の陰から出る。

 ここの魚は美味しいかな。もうずっとお腹が空いて空いて……。


「!」


 右の方で水音が! しかも大きめ!


「さか! ……な……」


 じゃない。人か。

 泳いでたのかな、遠いからこっちに気付かないで上がって来……待って、足が、蹄? あっしっぽもある…………。


「ぁ」


 あれ、精霊様だ! うわこっち向いた?!


「ひぇっ」


 勢いあまって木に隠れちゃったよ! どうしようこれ?!

 いやでも、精霊様とは関わるなってじーちゃんに言われてるし?!


「ねえ」

「ひゅ?!」


 か、隠れた木の後ろから声がするぅ……。


「君、ぼくになんか用? こっち見てたけど」

「っ……とぉ……」


 結構距離あったのに、一瞬でここまで詰めたってこと?


「見ない顔だけど、どこの誰?」


 あああわああ警戒されてる! ピリッとした空気を感じる!


「う、ええと、なんと言いますか……」


 ぎこちない動きで後ろを向く。


「道に迷ってしまってここに出てきてしまったと言いますか……」


 そろり、と幹から伺うように顔を出すと、


「迷った?」

「うわっ」


 ちっか、近い! 顔が近い! 綺麗な顔が!!


「どっから来たの?」


 全部が白くてぼんやり光ってるしキラキラの長い髪が濡れて肌に張り付いてるしふわふわした長い耳も濡れてそぼんってなってるよぉ……。


「ねえ?」

「あっいや、えー……ヴリコードの街から、山菜採りに来たんで「グゥウウウゥクルルルルルル」

「……」

「…………」


 今鳴らんでも良かろうよ、私のお腹よ。


「お腹へってるの?」

「いやぁはは、ここ二日ほどろくに食べてなくて」

「ふぅん……魚、食べる?」

「へっ……え、良いんですか?!」


 精霊様がおられるような場所の食物を?! 食べても?!


「うん。お腹へってるんでしょ?」

「それはもう!!」

「じゃ、待ってて」

「えっまっ」


 素早く滑らかな飛び込み! じゃなくて!

 私、今精霊様に漁をさせてる?!


「ねえ」

「ほぁい?!」

「ここじゃ狭いから、あっち」


 ちゃぷん、と水面から顔を出して指し示すは、さっき精霊様が湖から上がった辺り。

 そっちへ移動って事ですね!


「分かりました!」


 精霊様は頷いて、再び潜る。


「…………ここまで来たら、やってやる」


 腹くくってやるぜ。まずは薪を集めなきゃ。


「……ん?」


 今、湖から何か飛び出さなかった?


「んん?」


 魚? 丸々立派なお魚が、私の目指す場所へ次々と飛び込んで……??


「え、えええ精霊様?!」


 精霊様が捕まえたお魚を掴んでは投げ、違う、掴んでは蹴り上げ、掴んでは蹴り上げしてる?!


「そんな、そんなぽんぽんやっちゃって良いんですか?!」


 叫びながら、地面で跳ね回る魚をどうにかすべく、私は走り出した。



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