令嬢が王子の従者をしてみたら、住み込みで寝食一緒だし、裏の秘密文書まであるし、これは乙女のピンチです!

甘い秋空

一話完結「これは条件の良いバイトですね」


「このバイトは、条件が良いですね」

 学園の掲示板を見て、私はつぶやきます。


 王立魔法学園、高等部2年生、男爵家令嬢のレモンです。

 銀髪碧眼で、中肉中背の、自称、地味な令嬢です。


 学園の在学中に婚約者を探すべき立場ですが、今は、貧乏から抜け出すほうが大事です。


 玉の輿なんて、ありもしない夢なんて見ません。



「王族が、従者を募集するなんて、珍しいですね」


 条件は、1.学園の生徒であり、主人と共に勉学にはげめる者。


「あの王女と、私は同級生ですから、問題ありません」



 休日でも、2.主人に公務があれば随行できる者。


「あの王女のお茶会の世話ですね、問題ありません」



 そして、3.剣術の相手が出来る腕を持つ者


「あの王女の相手なんてスプーンで十分、問題ありません」



 衣装は支給、三食付き、バイト代も高額、これは素晴らしいです。


「よし、このバイトに応募しましょう」



 詳細を見る時間も惜しいので、急いで応募します。



   ◇



『レモンを従者として採用する』

 採用通知がきました。フフフと笑います。


 これで、しばらくは貧乏とおさらばです。



「王女様、従者に採用して頂き、ありがとうございます」

 さっそく、同級生の王女に挨拶しました。


「貴女でしたか、、、おめでとう、レモンさん」

「兄は、気難しい方ですが、頑張って下さい」


 え? 兄? あの口うるさい王子ですか?



   ◇



 3年生の教室に向かいます。


「レオン、お前が従者じゃないって、どういうことだ?」

 これは王子の声です。嫌な予感がします。



「失礼します、2年生のレモンと申します」


 教室にいた3年生が、一斉に私を見ます。

 この空気を読まない奴は誰だって顔をしていますね。



「今回、王子様の従者を仰せつかったレモンです」

「「え~!」」



   ◇



 国王の決定に、名前を見間違えるなんて、そんな間違いはありません。

 今回も、深い理由があって、決定された、、、ことに、されました。



 私は、3年生に“飛び級”となって、王子と席を並べています。


 服装は、男性の従者用をそのまま着ています。

 銀髪を一つに結び、男性っぽくしました。というか、見た目は完全に男性です。


 問題は授業内容でしたが、2年生で上位だったからか、意外に理解できました。



   ◇



 ここは、学園内の王族の屋敷です。


「従者の部屋は、主人の部屋の隣ですか! しかもドア一枚で行き来できるのですか?」


 住み込みのバイトとは聞いていましたが、これは乙女のピンチです。



「私から王子様の部屋には行きますが、王子様は私の部屋に入ることができないように、カギの設置をお願いします」


 私のお願いに、王子は不満顔ですが、執事の方がニコニコと対応してくれます。



「食事も、毒見役を兼ねて、一緒なのですか?」


 王子は不満顔ですが、給仕の方が、ニコニコと取り分けてくれます。



「この書類は、私が読んでもよろしいのですか?」

 食事後は、王国の書類に、私も一緒に、目を通します。


 裏の情報まであり、私は全て覚えてしまいました。

 お妃の教育でも、ここまで見せないでしょ?



 このバイトが終わったら、たぶん、私は消されると思います。



   ◇



 休日は、王子が街のイベントに出席されるので、護衛を兼ねて同行します。

 剣術の相手との条件は、護衛のことでした。


 近衛兵と協力して、、、あれ? 近衛兵の方々もニコニコしています。




 何かがおかしいと、王宮や学園で、私に関する噂を集めます。



 私が逃げ出す時期の賭けがあるようです。(逃げたら消されるので、逃げません)


 口うるさい王子の、従者を務めているのは、イケメン男子だそうです。(いえ、私は女性です)


 王子は、女性が嫌いだそうです。(私もそう思います)

 今まで一度も、女性を側に置いたことは、ないそうです。



 有力な情報は得られませんでした。




「王子様! 馬車に独身の男女が一緒に乗るのは、非常識です」

 ついに、馬車まで一緒になりました。


「ん? レモンは男性だとの噂だぞ」

 この王子は、もう!


「それから、俺のことは、アルバートと名前で呼べ」

 もしかして、ツンデレ?




「アル! これはラブレターですよね?」

 屋敷に戻って、手紙の束を渡されました。


「そうだ、上手く、断りの返事を書いてくれ」

 アルと呼ばれて、うれしそうな王子です。


 私が書いたら、相手に失礼じゃないのかな。

 あれ、こっちは私への、令嬢からのラブレターですか?


「最近、イケメン従者であるレモンへのラブレターの方が多いぞ」

 王子は不満顔です。


 私は、どうなってしまうのでしょうか?



   ◇



 今日は、王宮で、王子の婚約者選びが行われるため、休日出勤です。

 久しぶりのドレス姿です。


 ホールには、美女たちが勢ぞろいしています。

 私もサクラとして、美女たちの中に加わります。


「綺麗な花の中に、地味な草を加えると、花が一層輝きますからね」

 私は、自身の分をわきまえています。



 王子が上座の中央に立ちました。

 美女たちがその前に整列します。



「テロだ!」誰かが叫びました。

 扉から、仮面を着けた怪しい人物たちがなだれ込んできます。


 美女たちが逃げます。

 しかし、私は、王子の前に立ちます。


「王子様、お下がりください」

「できぬ」

「わかりました、私が盾になります」



 怪しい人物たちが、王子を狙って襲い掛かってきます。

 剣をかわして、革の鎧の隙間に、拳で一撃を入れます。


 しかし、相手は複数、これはキツイです。

 私の人生は、ここまでか、覚悟を決めました。



「そこまでだ!」

 誰かが声を上げ、怪しい人物たち、近衛兵までもが、剣を納めました。



「王子様、おケガは」

「大丈夫だ、レモン、これは、どうなっている」

「わかりません」



「合格者は、1名だな」

 怪しい人物たちのボスが、仮面を外します。


「「国王陛下」」


 この襲撃は、王子の婚約者を見定める試験だそうです。

 王子を護ろうと動いた令嬢が、合格だそうです。



「その令嬢を王子の婚約者とする」


「これからは、寝食を共にし、王子を支えてくれ」

 国王が宣言しました。



「これまでと、変わらないではないか」

「そうですね」


 王子と私の視線が合い、ニコッと笑い合いました。




━━ fin ━━




あとがき

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