2.義兄に会う.M

MIYABI View


目が覚めたら女の子になっていた。


その日の朝は身体の痛みで目が覚めた、いつもより遅い時間に。


自分の身体に怪我がないか確認してみると、どうやら怪我はなくとも何もかもが変わってしまっているようだった。

白くて細い腕、大きな胸、長い金髪、と順番に自分の身体を確認していく。

股間には有るはずのモノが無く、無いはずのスリットがあった。


どうやらこれが噂に聞いたTS病と言うモノらしい、なったが最後、元の性別には戻れず年齢も10代になってしまうという。


暫くは呆然としていたが、気を取り直し専用の窓口に連絡をし、迎えを待ち、専用の病院へ、その際、会社などには連絡しないよう伝えられる。

身元の確認、入院、検査。


検査の結果、私は15才の女の子となった。


会社は退職となり、これからの人生は15才の女の子として過ごす事になる。両親が事故で既に他界している為、身元引き受けは父の妹であるおばさんの義理の娘としてこれからは生きていく事に、入院中に何度かおばさんとは面会をし、確認をした。

資産財産などは引き続き自分のものとなるようでそこは安心した。


入院中は検査や高校編入受験の勉強と、TSした事で起こる心の変化、女の子としての知識を学んだりした。

受験には何とか合格、地元の高校へ通えるようになった、確かあそこは今居候している従兄弟が通っている所だ、丁度良いだろう。


退院は生理が来て、終わり、検査で問題なしとなったら、という事らしい。

大体1ヶ月で生理が来て女の子になったという事を嫌でも実感させられる、そしてもう元の生活には戻れないという事も、もう過去の私はおらず、この身体で新しい人生を過ごすのだ。

TS病になった事は病院関係者と親族にしか伝えられないらしい、患者が新しい人生を送りやすくする為に、という事で、ありがたい話である。


無事退院し、高校の制服を着て自宅へ、いつも見ている風景なのに視点が少し低いだけでこんなにも違うものなんだなあ、そして気の所為か周りにいる人が私をチラチラと見ているような気がするんだよね。

そういえば今の自分は金髪の15才の女の子だったんだ、それならまあ目立つかな、基本的には人通りがある所を歩き、人気の無い所には極力行かないようにと教育を受けた事を思い出す。もう女の子だから、と。


―――


途中でスーパーに寄って食材を購入し、自宅に着く、鍵はあるけど急に見知らぬ女の子が上がり込んだら要らぬトラブルを招きそうなので自宅の玄関でインターホンを押す。

自宅だというのに少し緊張してしまう、約1ヶ月ぶりの帰宅、ちゃんと従兄弟は居るだろうか、部屋は散らかってないだろうか。


玄関の扉がガチャリと開く。


「…ただいま」


従兄弟は私を見るなり固まってしまった、そりゃあいきなり見知らぬ女の子が"ただいま"なんて言ってきたら驚くかも知れないしね、でもいつまでも玄関で立たされるのは恥ずかしいし暑いのでそろそろ中に入れて貰わないと。


「家に入れてもらって良いかな、外だと暑いし少し恥ずかしいんだ」

「あ!すみません!えーと、お帰りなさい」


どうやらちゃんと私の事は伝わっていたようで一安心した。

一通り家の中を見て回ったけどそれなりに片付けがされているようだ、でも慌ててやったような感じがするかな。

まあ男子高校生の一人暮らしなんだからこんなものかも知れないね。


そういえばこの従兄弟が私の義理の兄となるんだったな、この子が兄で私が妹か…。

今まで従兄弟の事は年齢が離れているから甥のような感覚で接していた、それを兄と呼ぶようになるなんてなあ、人生何があるか分からないものだね。

どうせ兄ならばいっそ"お兄ちゃん"と呼んで見るのはどうだろうか、それならば嫌でも自分は妹なのだと実感できる、そう呼んでいれば今の環境も受け入れやすくなるだろうし、良いんじゃないかな?

今まで甥の感覚で接してきた相手を"お兄ちゃん"と呼ぶ事に抵抗が無いわけでは無いし、ちょっと背筋に悪寒も走る気もするがじきに慣れると思うし、そう呼ぼうと思った。


「私も君の事は"お兄ちゃん"と呼ぼうかな」

「あ、いえッ!俺の事は"敏夫"でいいです」


そう言って拒否されてしまった、考えてみれば当たり前で今まで"おじさん"と呼んでいた相手に"お兄ちゃん"なんて呼ばれたら気持ち悪いだろうね、呼ばれる側の気持ちまでは考えてなかったなあ。想像したら可笑しくなってきてくっくっと笑いが漏れてしまった。


「そうだなあ、分かった、それじゃあ今まで通りで"敏夫君"だ、これならいいかい?」


という事で今まで通り変わらず"敏夫君"と呼ぶ事になりました。

"みやびさん"なら病院ではずっとそう呼ばれていたから問題は無さそうだね。

しかし敏夫君は新しい妹という関係よりも従兄弟だった事を引きずりそうだね、まあ居候だし、私みたいに自分が変化した訳じゃないから仕方ないとは思うけどね。それでも呼び捨てにしてしまったほうが切り替えも上手くいくような気もするんだけど。

外からみると妹に敬語使う兄ってどうなんだろうね、もう少し年が離れていれば違ったのかも知れないね。


―――


晩ご飯は玉子焼きを褒められた、4月に敏夫君が来てから玉子焼きは味の調節をしていたからね、私の得意料理でもあるし美味しく食べて欲しかったんだ。

それに玉子焼きはどんな料理でも一緒に出せる数少ない料理だと思っていて、すごく練習して上手く作れるようになったんだよ。

敏夫君が4月に来てからというもの、料理を作るのが楽しくなってきていて、沢山美味しそうに食べてくれる人が居るっていうのは料理をするモチベーションに繋がるんだなと実感していた。


―――


お風呂から上がり髪を乾かしているんだけど、この腰近くまである長い髪はどうしたものか、男時代には長い髪の女性は良いなと思って見ていたものだけど、自分がそうなると大変だねこれは。でも男から見て魅力的に見えるというのはそれはそれで苦労に値するものなのかも知れないね。今の自分では男に魅力的と言われても困るのだけれど。


パジャマを着て、リビングで過ごしていると敏夫君がチラチラと胸元を見ていた、パジャマのサイズが大きいから胸元が見えているみたいだ、私も前傾姿勢になっているのでより強調されているのだろう、男子高校生には刺激が強いかも知れないね、見っともない姿を見せてしまったなあ。

女の子になってからそういう事を意識してこなかったからね、これからはちゃんと姿勢なんかも意識しないといけないなあ。

姿勢と服装を正したけど谷間は見えてしまうようだ、…これくらいは敏夫君へのサービスという事でいいかな。

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