第25話 その勇者、襲撃される


◇◇◇


 暗闇の深い森の中を暗視スコープをヘルメットに装着した男たちが、音を立てずに進んでいく。

 常に周囲を警戒しているその動作は米軍の特殊部隊に肩を並べるものであった。


『隊長。ここですよ』


 そんな精鋭の部隊にも気付かれずに、その男は暗い闇の中から現れた。


『くっ!キムか・・・。準備はどうか?』


『とっくに出来てる。この壺が全部で12個。対象を取り囲むように置かれている。』


 キムと呼ばれた男の足元から、不吉な壺が暗闇から浮かび上がるように現れた。


『・・・約束どおりの効果は、間違いないんだな?』


『ああ、間違いない。この壺を運ぶために仲間が2人命を落としてるのだからな。これはそれほど危険な呪怨器だ。』


 キムは恐れるように壺を見下ろしながら語った。


『分かった。時間通り始めろ。』


 李 大尉はそう言って部下と共にまた森の奥へと進んで行った。


◇◇◇


 一方その頃、慈恩院学園じおんいんがくえんの地下に存在する秘密の鍾乳洞。

 その一角に巨大な魔法陣が幾重にも展開されたその中央に、座禅を組んで瞑想している老人がいた。


すめらぎほむらおおとり、邪悪な呪いが学園の結界を浸食しだした。そなえよ』


 老人は、学園の切り札である3人の特級とっきゅう伏魔師に念を送った。


 この学園が東の院として徳川 家康の江戸入府えどにゅうふと共に奥多摩の山中に創建されて以来、学園の結界がおかされたことはなかった。


「・・・ついに始まってしまったか・・・神去かむさりりが・・・一体、どの神が・・・」


 そして老人は再び深い瞑想の中へ沈んでいった。


◇◇◇


「ソウマ!敵がか?」


 大講堂の大屋根の上に、3人の影が音もなく降りた。


「ハガネさん、既に侵入された!学園の自動防御術式が働いていない!それに敵は武装している!」


「不味い!シノブさん。学生寮を結界で守って!」


「だめよ!天岩戸あまのいわどが閉じないの!天手力雄命あめのたぢからおのみことの御加護が届かないわ!ほむら君はどうなの?霊力が弱まってない?」


「俺もだ!どの神も答えてくれない!霊的繋がりが阻害されて霊力が練れない!」


すめらぎ君!行って!あなたの血継呪術で子供達を守って!」


「行け!すめらぎ。俺とシノブさんで敵を排除する!」


ほむら君は北からお願い!私は南から排除するわ!」


 3人の特級とっきゅう伏魔師は、同時に大講堂の大屋根から跳びさって闇に消えて行った。


◇◇◇


 俺は宿舎の周りが広範囲で邪悪な念で取り囲まれたのを感じ目を覚ました。何か神経をヤスリで擦られたような不快さだ。


「みんな、起きて。異常事態だ!」


 一緒に寝ていたスズネやサラサたちを起こす。


タタタタタタ!タタタタ!


「えっ、なにこれ銃声?!」

「「「!」」」


 サラサの声にみんなが息を飲む!


「急いで着替えろ!」


 各自枕元に用意している制服に着替える。


「旦那様!式神が使えません。神霊も!」

 

 サクラ先輩の話にフタバとサラサが確認を取った。


「呪符がだめ!使えない」

「私も、でも魔力は使えそうだよ!」


「日本に由来する神霊力が使えないのか?霧姫様きりひめさまは?」


日本号神槍に戻ってます・・・」


「お兄ちゃん!クルミちゃんとミオちゃんが心配なのです!」


ドーン!タタタタ!タタタタタタ!タタン!


 こうしてる間にも、戦闘の音が大きくなっている。


「よし、みんな俺から離れるな!魔法防壁シールドで守る!このまま女子寮へ向かうぞ!」


「「「はい!」」」


 俺はみんなを連れて女子寮へ向かった。


◇◇◇


 おおとり シノブは焦っていた。彼女の得意な獲物えものである三節棍さんせつこんが、思った以上に完全武装の敵に効果がなくて、手数がかかってしまうためだ。


 敵はヘルメットと防弾装備のボディーアーマーが三節棍の打撃を吸収するため一撃では仕留めきれない。


「くっ!霊力を乗せられないから、一撃で倒せない・・・急がなきゃ!」


タタタタ!

タタ!タタタタン!


 おおとりは、特級とっきゅう伏魔師の卓越した身体能力を以て、多数の敵を撹乱かくらんし、小銃の射線が同士討ちになるように立ち回って、敵が銃を撃つのを躊躇った瞬間に顔面や膝・肘などの急所を的確に破壊して行った。


『ライフルは使うな!同士討ちになるぞ!ナイフを使え!数で押すぞ!』


 敵を4名倒したところ、敵の小隊長らしき男が戦術の変更を命令した。


「くっ!こいつら面倒な!」


 小銃をスリングで背中に回し、コンバットナイフを手にした兵士が、数を頼みに一気に襲いかかる!


「くっ!」


 おおとりは、自分よりも大柄な男達をなんとか躱しながらも、敵の急所への攻撃を続ける!


「きゃっ!」


 だが、敵の顔面に三節棍を叩き込んだ瞬間、後ろから体格の大きな男に体当たりされ、弾き飛ばされてしまった!


『今だ!撃ち殺せ!』


 復讐の好機に、残った敵兵が小銃を構えた!


タタタタ!


◇◇◇


 ほむら ハガネは焦っていた。


 学園のお役目様からの念話で叩き起された時、ほむらは咄嗟に大刀たちではなく脇差わきざしを手に外へ飛び出した。


 しかしほむらは先程、おおとりが三節棍を手に学園の南側に跳んで行ったことを見ていたからだ。


「シノブさん、どうか持ちこたえてくれ!」


 焔はそう願いながら、脇差しで正確に敵の頸動脈を切り裂いて行った。


 焔の脇差は妖刀村雨ようとうむらさめ。刀に霊力を込めなくても、まるで水を切るように敵を切り倒していく。


 多数の完全武装の敵の中を、焔は燕のように駆け抜けて、交差する敵の頸動脈を外科医の正確さで切り飛ばして行った。


「脇差しで正解だったな。太刀たちだったらちょっと取り回しに苦労したな。次だ、急げ!」


 脇差しの切っ先の脂を敵の戦闘服でぬぐい、焔は次の敵を求めて闇の中へ消えて行った。


 焔が消えた地面には、30人程の敵が自らの血の池に倒れていた。


◇◇◇


 すめらぎが学生寮が建っている学園の中央部に着いた時、未だそこには敵の姿はなかった。

 

 本来学生寮を取り囲むように配置されている学園の施設が、それぞれに付与された防御術式と相まって防壁となり敵の侵入を遅延される構造となっていたのだが、その防御術式か止まっている。


「直ぐに敵が来る!」


 皇は男子寮と女子寮の境界ある檜の大木の根元に腰を下ろして坐禅をくんだ。


『血継呪術【八熱地獄門】』


 学園中央に位置する、全学生を収容する大きな学生寮の広い敷地全体を覆うように、地獄の亡者を隔離する4門の地獄門が現れて、それに囲まれた空間を閉ざした。


 間一髪、武装した敵が現れ手に持つ小銃を撃ち始めた!


タタタタ!タタ!タタタタ!


『小隊長!結界が生きてます!』

『5.56mm NATO弾では歯が立ちません!』


『M203射手! 40mmグレネード弾を打ち込め!』


パシュ!ドーン!

タタタタ!タタタタタタ!


 敵の攻撃に死門結界が震えるが、ビビ1つ入らない。


「この地獄門は、死人しびとしか通さないし、1度入ったら永遠に出られん!くっ、だがどこまで僕の身体がもつか・・・」


 坐禅を組んでいる皇の目から血が一筋流れ落ちた。


 全身全霊で地獄の結界を維持している皇の目に、敵兵がRPGを構えているのが赤く血に染った視界に入った。


「おいおいロケット砲だと?嘘でしょ・・・」


 戦車すら撃破することが可能な死の槍が、皇に向けて放たれた!



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