第24話 その勇者、推し活にはげむ


◇◇◇


『急げ!いくら護符を持った俺達でも、長い時間この壺に近ずいたら魂が呪われるぞ!』

『くそ!木が多くて位置が見通せない!GPSで誘導してくれ!』

『うるさい!森の中を走りなが、そんなにGPSを確認できるか!なら、お前がやれ!』


 男達は皆迷彩服に身を包んで、夜の奥多摩山中を走っていた。夜の深い森の中を走れるだけで驚きなのだが、この男達が運んでいる壺の方がもっと異様だった。

 運搬用の棒に挟まれながら、この壺は底のない憎悪を撒き散らしている。


『あと3日で全てを配達しなければ、俺達がこの壺に入る事になるんだぞ!急げ!』


 登山用のGPSマップを手に持つ男は、この壺のことを心底恐れていた。それを操る老人達とともに・・・


 なぜなら、この男は先日新宿から拉致してきた日本人イルボニンとジアと言う娼婦の最後を一部始終しまったからだ。

 老人達は日本人イルボニンと女を生きたまま脳蓋を開け、毒虫を使った呪怨術の施術をおこなって、情報を全て抜き取った後にバラバラにしてこの壺に漬け込んでしまったのだ・・・髪の毛1本も残さずに。


 自分だけはこのようなおぞましい死に方はしたくないと、固く心に決めたのだった。


『早くしろ!今夜中に後2箇所設置するぞ!』


 男達が壺を設置するにつれて、奥多摩の山中からは動物はおろか、昆虫の気配すらなくなってしまった。


◇◇◇


「なあ、今日は大型バスが何台も通ってるけど、あれは何だ?」


 学園にこんなにバスが来るのは珍しい。ここには何もないしな。


「京都の臺薫院学園だいくんいんがくえんでやんす。交流戦でやんす〜」


「おい、ンゴはどうしたンゴは?」


遠野とおの氏は拙者の推しアニメを見て感化されたでござるよ。布教大成功でござる!」

「お手軽アイデンティティクライシス」

「オタの忠誠ほど軽いものはねぇ、です」

「いや、全方位てヘイト買うような発言は止めて!妹よ。」

「わ、私たちはユキト先輩推しだにゃん♡」

「ミ、ミオもユキト先輩推しだワン♡♡」


「何?サブカル汚染が広がってるの?何とか補完計画の浸食??」


 それにしても、クルミたんとミオたん可愛さMAX!普段からその口調キボンヌ・・・


「ほら、天霧。遊んでないて大講堂行くぞ。歓迎会が始まる。」


 まじで面倒だが、仕方ない・・・


「さ、霧姫様もお手を。参りましょう。」

「あい。背の君。」


 霧姫様の手を取って、大講堂へ向かった。



 広い大講堂のホールには、東西両学園の高等部特殊科の学生が勢揃いしていた。

 立食形式のパーティーなので、中等部からも手伝いに入ってもらっている。


「・・・であるからして、この歴史のある・・・」


「この学園にしては珍しく長ったらしいお偉いさんの話だな・・・」


「あれは、西の院のお偉いさんね〜」

「西は堅苦しい」

「確かに。何かとお年寄りの方々が、お口をはさんで参りますわ。」

「老害は死すべし!なのです」


「なんで、スズネがここにいるんだ?お手伝いなら中等部のみんなと一緒にいなきゃ怒られるぞ。」


「いえ、そのみんなからのオーダーなのです。お兄ちゃんのお目付け役!つまり、スズはお兄ちゃんの首に付けたなのです!」


 可愛らしい衣装を着てドヤ顔で上手いこと言ったと胸を張るスズネ・・・決まってないし、それ。


「やあ、楽しんでるかい?皆さん。」


 おお、いつもより二割増な笑顔で会長がやってきた。


「爺さん達の相手しなくていいのか?会長。」


「今年は誰かさんのお陰で、西の長老方からは散々嫌味を言われたからね。マサモリに押し付けて逃げてきたよ。」

乙訓おとくに先輩乙」

「弾除けの肉壁!なのです。」


「いや、あれで結構喜んでいるのだよ彼は。お詫びに不知火さんを付けたからね。株を上げるチャンスな訳さ。」


 おお、苦労人にもやっと春が来たのか?季節はもう夏だがな・・・


「おやおや、東の代表がこんな所にお揃いで?」


 なんか嫌味な声を掛けてきたヤツがおるぞ!


「これは、莵道とどう様。ご機嫌よう。」


 サクラが代表で挨拶する。おい、そこは会長の役目だろ!


「かまへん、かまへん。今日は学園生同士交流の場や。戦うのは明日からにしましょか。」


 なんか言い返せと会長の脇腹を肘でつつく・・・


「よおこそお越しくださいました。西の代表の皆さん。今日はどうかお楽しみになってください。」


「お陰さんで交流戦延期なったさかい、ぎょうさん予定狂ってたりませんでしたわぁ。ほんま。」

「東のお方は余程闘武場維持するのが苦手と見えますなぁ。」


 ぐぬぬ!会長なんか言い返せ!


「そうなんですよ。我々もそれには頭を痛めてます。」


 えー!そこで裏切るの!


「えー、それでは西の臺薫院学園だいくんいんがくえんの皆さんを歓迎して、我が学園中等部のアイドル、『[ピー]小町』の皆さんに歌を披露してもらいます!それではどうぞー!」


 おっ、なんか舞台が盛り上がってるぞ!


ヘイ!ヘイ!ヘイ!ヘイ!ヘイ!

『♪〜無敵の笑顔で・・・♪』


「す、スズネー!」

「クルミちゃんとミオちゃんまでいつの間に〜」


 『[ピー]小町』だと?スズネたちが舞台で歌って踊ってる!最高か!!


ヘイ!ヘイ!ヘイ!ヘイ!


 ブラザース以外にも高等部のオタ・・・もとい、勇士たちが色とりどりのサイリウムを持ってオタ芸で応援してる!


「こうしちゃおれん!」


 俺はオタ共をかき分け、舞台の最前列に陣取り、無限倉庫ストレージから取り出したサイリウムを手に、精一杯3人を応援した!キレッキレのオタ芸でな!


「あれが今年の東の大将ですか・・・・・・」


 今の俺にはスズネたちの歌しか聞こえん!


◇◇◇


 奥多摩の山道を40フィートコンテナを牽引したトレーラーが4台連なって移動している。

 見た目には特徴のないトレーラーとコンテナだが、真っ黒なコンテナには船社のロゴが描かれていない。


 それに、幹線道路からは離れた山道とはいえ、法定速度を守って走る4台のトレーラーは異質な感じがした。


 やがてそのトレーラーは、何も無い山道の真ん中で車列を止め、その12気筒のディーゼルエンジンを停止させた。


 すると運転席から降りた男達は、車の後ろにまわってコンテナを開け始めた。


 やがて、完全武装した国籍不明の男達が、皆アサルトライフルを手に言葉も発しないままコンテナから降りてきた。


 武装した男達は、無言でコンテナの脇に整列した。1個中隊200名の兵士達である。


『総員、王 中校中佐に敬礼!

 超務部隊第1中隊200名揃いました。』


 すると王 中校中佐と呼ばれた男は、整列した隊員たちをゆっくり査閲した。

 顔に迷彩顔料を塗った特殊部隊の隊員達は、皆精強な雰囲気を漂わせいいる。明らかに精鋭部隊の雰囲気た。


『李 大尉。よく鍛えた!党は貴様達の貢献に満足する!』


 王 中校中佐の訓示に隊員たちは誇らしげに顎を上げて直立不動の姿勢で答えた。


『同士諸君!休め!』


 中校中佐の号令で中隊が一斉に休めの姿勢を取る。が、その行動に一切の乱れはない。


『これより作戦目標を伝える。目標は慈恩院学園の完全な殲滅!子供とはいえ、一切容赦するな!奴らは異能力を持った化け物だ!必ず党の台湾奪還作戦の支障となる!つまり、ここで化け物を1人見逃せば、我が軍の兵士が1人死ぬことになると思え!』


 隊員達に動揺の気配はない。宋 少将が5年前から組織し、日本国内での非対称戦に備えて訓練してきた精鋭達である。今更引き金を引く指に躊躇ためらいはない。


『そして、同士諸君に朗報だ!敵は9ミリで簡単に倒せるぞ!』

 

 隊員達は中校中佐の話にニヤニヤと応えた。なぜなら彼らは西側の自動小銃HK433で武装しており、隊員達と違ってボディーアーマーを着用していない一般人にとって5.56ミリ NATO弾は、明らかにオーバーキルの武装だと分かっているからだ。


『作戦開始は明03:00!それまでに各小隊ごとに決められた配置に付け!移動開始!』


『各小隊ごとに移動しろ!』


 王 中校中佐の号令を受けて、李 大尉が中隊に移動命令を発した。


 こうして奥多摩の山中に死神が放たれた。



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