第14話 その勇者、引っ越す


「交流戦代表者選抜戦、第1回戦 第29組の試合を開始する。両者前へ!」


 クルミちゃんたちが巻き込まれた事件の翌日、学園の交流戦代表者を決めるための本線トーナメントが始まった。


 試合会場は学園地下の闘武場。

 サッカー場がマルっと入るほど広いスペースが、今は4つに分けられており、闘武場の周囲には立派なアリーナ席があって高等部特殊科の生徒が観戦している。


 そして俺の1回戦がこの闘武場C会場で始まろうとしていた。

 俺の相手は、予選を勝ち抜いてきた2-Bの先輩だった。


「天霧!お前のことを野良の術師だとか、卑しい血筋の出自だとかとやかく言う者がいるが、俺は違う!」


「さいですか・・・」


「俺たち伏魔師の子は、物心付くころから、呪力霊力を高めるためにみな厳しい修行を重ねて来たんだ!

 だがお前は違う!呪術に触れてから1年にも満たないお前が、Aクラスのナンバーズを平気な顔して名乗っていることが許せない!

 みんなお前が実力じゃなくて、コネで入学したことを知っているんだ!恥を知れ!」


 もう、いい加減ウンザリだな。


「パイセン。もういいから、始めましょうよ。」


「俺にでかい口きいたことを後悔させてやる!」


「始め!」


「うお―――!」


 どうやら体術系の先輩のようだが、気の練り方が全然なっとらんな。

 こりゃサラサの方が全然出来るよ。って言ったらサラサに失礼か?


 俺の顔目掛けた拳の指の間からクナイが飛び出した。

 暗器使いか。

 前口上の割にがっかり感が半端ないな。


 軽く身をかわしたところで、スリープ発動。


「勝者、1-A 天霧!」


 はい、お疲れ様。戦う価値すらなかったな。



「ユキトくん、おつかれ〜」

「おつかれ、ユキト。」


 二年の先輩と死闘を繰り広げた俺は、癒しを得るためにアリーナへ戻った。


「ふぅー、疲れたよ。サラサ肩揉んで〜」


「嘘つけ、楽勝だったくせに!」

「相変わらずのラノベヒーロー定期!」


「お互い一回戦で潰しあわずにすんで良かったでござる。」


「天霧組の一年全員二回戦に進んだお!ワイも頑張るンゴー!」

「拙者もでござる!」


「天霧組は予選から快進撃なので、みなが注目してるよ。」


 フタバの膝枕で英気を養ってると、イケメンな三年生が声をかけてきた。


「おや、生徒会長。これまた珍しい」


 フタバの膝枕から起きようとしたら、フタバに頭を押さえつけられた。


「ユキトには癒しが必要。」


 こらフタバ!生徒会長の取り巻きが睨んでるじゃないか!だから俺の評判が地に落ちるんだ!

 でも、フタバの下乳が・・・


「済まないな、九重さん。天霧君を取ったりしないから、少し話をさせて欲しい。」


「ん・・・」


 このまま続けろとばかりに、あごで先輩に話を促す。


「あのね、フタバ。いい加減、冷泉院れいぜいいん先輩に失礼だよ。」


「ははは、僕はそんなの気にしないよ、秋津洲あきつしまさん。でも、ありがとう。」


ほへで、はんのほようてそれで、ご要件はなんでしょうか・・・」


 フタバの乳圧が強まる。


「おい!天霧!」


「よい!マサモリ。こちらがお邪魔しているのだから。」


 一体誰がフタバのリーサルウェポンに逆らえると言うのだ!いや、誰もいない!男ならな!


すほまへん申し訳ございません


「ははは、羨ましいくらいだよ。

 ところで、天霧君に頼みがあってきたんだ。今日の夕方5時に生徒会室に来てくれないかい?」


「え〜!」


「そこは、来てもらわないと、こちらも困るんだよ。先日の貸しを返すということで。」


「・・・わかりまひたまじかよ、めんどい・・・」


「それにこの話は、君にとっても悪い話しでは無いのだよ。」


 含みをのこして、生徒会長は去っていった。


「もう、フタバばっかずる〜い!」

「サラサはだめ。母性が足りない。」


 みなの視線がサラサのどこに集まったかは言うまい・・・



コンコン!


 約束の時間、俺は生徒会室のドアをノックした。


「天霧 ユキト入ります。」

「天霧 スズネ入るのです。」

「会長、すみません、どうしてもって着いてきちゃいました。」


「天霧君に、おや、妹さんもよく来てくれたね。では、関係者が多いので、隣の会議室に移ろうか。」


 会長の後に続いて、部屋を移動すると・・・


「カイさん、あっ、いや秋津洲あきつしまさん?どうしてここに?」


「「ユキト先輩!」」


「やあ、クルミちゃんにミオちゃん。」

「クルミんとミオちん、さっきぶりなのです。」


「立ち話も落ち着かないから、まずは座ろうか。」


 そう促されて、空いてる席に腰をおろした。


 生徒会の髪の長くて美人なお姉様が、お茶を入れてくれた。


「さて、今日は色々話さなければならないので、前置きはなしにして、早速本題に入ろう。」


冷泉院れいぜいいんの御曹子、まず先に私から礼を述べさせていたたきたい。」


 ナイスミドルなおじさんが、会長の話を遮った。


「天霧君、私はクルミの父親の北風きたかぜ ユタカだ。昨日はクルミを助けてくれて本当にありがとう。」


「私にも礼を述べさせてくれ。私は七瀬ななせ ミオの父のトオルだ。娘を助けてくれて、ありがとう。」


「いえ、頭を上げてください。俺としては、娘さんたちを危険な目に合わせないように助けたかったんですが。

 まだまだ、至らなくて・・・」


「おや?ユキト君が自省じせいするとは、珍しいな!ははは。

 ところで、こちらは九重ここのえ フタバさんのお父さんだ。」


 カイさん、俺だって反省はするよ・・・


「どうも、初めまして。フタバがいつもになってるね。」


 なんだろ、俺なにもしてないのに冷や汗が出てきたぞ。フタバの親父さん、目がすわってないか?



「・・・と、ここまでが、昨日の事件のあらまし。

 あと、警察も表沙汰にできない話も含まれてるから、ここだけの話に留めておいて。」


「ええと、会長。情報多すぎないか?」

「お兄ちゃん、ドンマイなのです!」


「俺、カイさんたちに出会うまでは、幽霊すら信じてなかったんだぞ!それがいきなり妖魔がこの日本にはいて、それを祓う伏魔師が陰に日向に活躍してる。

 それだけで腹いっぱいなのに、今度はC国やK国の術師が陰で悪さを働いている?

 俺の知ってるのんびり平和ボケな日本はどこいっちゃったの?」


「あの、ユキト先輩。お化けいますよ。」


「ああ、おるなあ。」


「嘘だと言ってよ、バーニーぃ!」


「ようこそ、こちらの世界へ。天霧君。」


 爽やかな笑顔で笑うなよ、会長。


「現実の世界は悪意に満ち満ちているんだ。

 そして、その最たるものが、神と霊の世界をくだらない政治のために利用し奪おうとする者たち。

 その一つが、暴力と権力と金で人の魂を縛ろうとしている傲慢なC国。

 そして、もうひとつが、自ら己の神を捨てておきながら、人の神が羨ましくて呪いに身を落としたK国。」


 会長は怜悧れいりな眼差しで語り続けた。


「そうした外津国そとつくにの術者に対抗できるのは、この国には伏魔師しかいないのだが、残念なことに西国の伏魔師を束ねる西の院は、古来より継承したわざを守ることにしか興味がなくてね。

 今現在、外来の害獣駆除に動いてくれるのは東国の東の院に属する東家あずまけと呼ばれる伏魔師だけなんだ。」


「そして今日ここに居るのが東家あずまけの方なのだよ。」


「ユキト君と出会ったのも、東家あずまけとしての仕事で赴いたからなんだ。」


「そうだったんですか。」


「そこで1つ目のお願い、というか依頼なんだが、天霧君に東家の仕事を手伝って貰えないだろうか?

 まだ、学生の身分だが伏魔師正規の報酬を支払うし、学園も公休扱いだ。」


「ユキト君。我々が現在追っているのは、君も鷹巣たかのす神社で見た堕天だてんした妖魔なんだ。」


「それには昨日ウチのクルミの術に呪詛じゅそ返しをした、あの呪いが関係していると我々はにらんでいる。」


「あの事件、テロを計画したのはC国の工作員だったが、奴らの狙いを実行する手段としてあの壺が鍵となることがわかって、しかもあの壺はK国から持ち込まれたことが判明したんだ。」


 フタバの親父さん以外の大人たちが順番に話してくれるのだが、フタバの親父さんの沈黙が怖い・・・


「そして2つ目の依頼というか、学園からの指導なのだけれど、天霧君。君と妹さんは御三家が使用する宿舎に今日から移ってくれ。」


「何故に?」


「だって君の妹さん、全然女子寮で寝てないし、男子寮の君の部屋には妹さんはおろか、九重さんや秋津洲さんまで泊まってるじゃないか。

 風紀上問題なんだよ。」


 フタバの親父さんの目がカッ!とひらいた!


「ひいっ!すんませんでした!」


 会議テーブルに両手と頭を擦り付けて全力であやまった。


「御三家の宿舎は一軒家だし、元々お付の家臣との同居が前提となっているから問題ないよ。」


「やったー!お兄ちゃんといっしょなのです!」


「それから、九重さんと秋津洲さんの天霧組は既にそこに移っているからね。」


 フタバの親父さんの眼光が、往年の魔王のようにギラリを光って俺を射抜いた!



*************


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