第5話 王子様とのいざこざ

 始業の合図と共に教室に入り、その後すぐ先生が来た為に気づかなかったが、教室には見知らぬ生徒がもう一人増えていた。


 金髪に青い目の見慣れぬ美形。


 私は隣の席に座る友人にこっそり尋ねる。


「あなたが居ない間に転入して来たのよ、カミディオン国から来た王子様だって」


 王子様? そんな人物が何故ここに?


「あともう一人の方はライフォン様の友人で、どうやら平民らしいわよ。まぁ同じ日に来たんだけれど、皆王子様に夢中で誰も目にかけてないみたいね」


 やはり平民だったか。


 だからあのような距離の詰め方をしたのだろうか。


 貴族の常識を知らないだろうし、もう少し寛容になればよかったかしら。


 友人のティディはどちらにもあまり興味がないとした上で、気になる事があると話を続けた。


「カミディオンの王子様、オニキス様の事なんだけど、何となく昔あなたが言っていた人に似ていない?」


 確かに金髪に青い目はしているが、カミディオンに知り合いはいないし、まして王子様なんて会うわけがない。


 そもそも他国の王子様が、私の屋敷に来る用事なんてあるだろうか。


(たまたま見た目が条件に会うだけで、彼のわけないでしょうね)


 そんな風に思いながら授業を受けていると、あっという間に休み時間となった。



 ◇◇◇



「あなたがヴィオラ嬢?」


 授業が終わってすぐ、オニキス様が私の前に来る。


 私の顔を凝視してくる彼は、ティディの言うように金の髪と青い目を持っていた。


 夢で見たあの日の彼に少し似ているような気はするが、オニキス様であったろうか?


「そうですけれど、あなたは?」


「僕の名前はオニキス=カミディオン。つい四日程前からこのクラスで学ばせてもらってるんだけど」


 オニキス様はじっと私を見つめてくる。


 その瞳は今朝のアルを彷彿とさせる、好奇心と興味に満ち溢れた目だ。


「本当に子どもの姿なんだね、話には聞いていたけれど、実際に見て驚いたよ」


 改めて言われるとなんだかとても恥ずかしい。


「えぇ、花の女神様の祝福です。愛を誓い合う人が出来るまではこの姿なのですよ」


 オニキス様はまじまじと興味深げな目で見てくるのだけど、その視線が非常に居心地が悪い。


「妹君は既に成長し、とても美しいと言われているね。ヴィオラ嬢もいずれは美しくなるのかな?」


「さぁ、どうでしょう」


 妹は昔から可愛いが、生憎と私は妹とは系統が違う。


 硬い髪質につり上がった目、銀の髪と翠の目は妹と一緒だけれど、与える印象は真逆だ。


 成長したとて美しくなるかの保証はない。


「そうか。ではクラスメイトとして、これからよろしくね」


 オニキス様は握手を求めて手を差し出してきたが、さすがにその手は握れないと戸惑ってしまう。


 周囲から驚きと羨望の眼差しが向けられている。


 この場合どうしたらいいのかも分からず、戸惑いと恥ずかしさで一気に汗をかいた。


「あの、殿下。このような事はご遠慮ください」


 そんな中助け船を出してくれたのはアルとライフォンだ。


「君達は?」


 オニキス様からきつい目を向けられながらも、二人は退くこともせず、さり気なく私と殿下の間に入ってくれた。


 長身の彼らは私を隠すように庇ってくれる。


「失礼します。僕はアル、先日あなたと共に転入して来た者です、性はありませんので、どうぞアルとお呼びください」


「私はグラッセ伯爵家の嫡男、ライフォンと申します。彼女、ヴィオラ様は俺の義姉になる方です」


 二人の背に隠れながら、私はどうしたらよいかと頭を悩ませる。


 周囲もざわざわとしていた。


「殿下にそのつもりはなくとも、異性に軽々しく触れる様な行動は慎むべきです。ヴィオラ様は婚約者がいる身です。その様な挨拶は控えるべきではありませんか?」


「花の女神の愛し子である彼女は、女神が認めた方ではないと触れる事は出来ません。ご遠慮なさった方がよろしいかと」


 アルとライフォンの言う事は正しい。


 正しいが、王子様に言うのはどうだろう。


「身分も低い癖に何様のつもりだ」


 ぼそりと聞こえた声は殿下の側近からのようだ。


 それを殿下が窘めるものの、目はきついままだ。


「忠告ありがとう。えっと、アル君とグラッセ伯爵令息だね。よく覚えておくよ」


 それがどういう意味を持つか、怖い反応だ。


「ヴィオラ嬢また今度ゆっくりと話そう。邪魔が入らない所でね」


 次の授業が始まるという事で殿下は席に帰っていく。


「アル、ライフォン様。ごめんなさい、私のせいで」


 これでカミディオン国からの不興を買ったらどうしようと、私は不安になる。


 二人は悪くない、私が立ち回りを間違えたからだ。


「大丈夫です、あなたは悪くありません、礼儀を欠いたオニキス殿下が悪いのです」


 アルは優しく言ってくれる。


「あのような事を許してしまっては、俺がパメラと女神様に怒られてしまいますから」


 ライフォンも笑って言ってくれた。


 それでも心配だ。


 今日の事が火種となって、何かが起きなければいいけれど。


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