第8話

 「じゃ~ん」

 と、嬉しそうに成績表を見せてきた。それには―1/42の数字が書いてある。クラス42人中の1位。その証明。

「よくやったね…。クラス1位の成績表なんて―初めて見たよ」

 それにしても―本当に取ってしまうとは…。心配しすぎた僕が―バカみたいだ。

「わたしも―はじめて見た。っていうか…、もっと喜んでよ。センセイのために取ったのに」

 僕のために取ったってあたりが―重いな、と思う。けれど、本音なんだろうな、とも思った。

「いや…、実はさ。クラス1位取ったっていう―連絡貰ってたからね」

 驚かないのは―前もって知っていたから。

「わたしから―伝えたかったのに…」

 少し、しゅんっと落ち込んで―それからすぐに

「ねぇ―誰から聞いたの?なんで知ってたの?どうして?ねぇ?なんで?」

 と質問攻めにあった。

「塾長だよ。君の両親から順位の報告があって―巡り巡ってって感じ?」

「…へぇ…」

 彼女の目の中の光が消えて、あたりの空気が冷たくなっている。あからさまに不機嫌だ。

「つまんないの…」

「いや…、連絡があったから―準備できたモノもあるし…」

 僕は鞄の中から―ケーキボックスを出す。ここまで隠して運んで来るのに苦労した。そして、いつもも授業の時間よりも30分ほど早く彼女の部屋に上がった理由も鞄の中にある。彼女の両親がいないのは幸運だったなぁ、としみじみ思う。

「あっ…ランフェのケーキ。だから―バックが違うのか…」

「形が崩れてないといいけど…」

「少しくらいなら、崩れてても―いいですよ?キッチンから―お皿と、フォーク持ってきますね」

 彼女は―部屋の外に出て行って、すぐに皿とフォークを持って帰ってきた。

「早速―食べましょう」

 と言て―ケーキボックスを開けた。

「…なんですか?これ…。よりによって…モンブラン?」

「えっと…。モンブラン嫌いだっけ?…崩れてた…?」

 彼女が好きなケーキを選んだつもりのだけれど…。

「はい、崩れてますね」

 僕もその惨状を見た。ドーム型のモンブランが、倒れている。みるも無惨に片側に寄ってしまい、栗のクリームを雪崩を起こしていた。

「…来るときに転んだのがいけなかった」

 段差につまずいて、結構派手に倒れてしまった。普段、こんなことはないのだけれど―多分、慎重に運ぼうとして、それが仇となったのだろう。

「でも、形が崩れてても―多分味は変らないよ」

「それは―受け取る側の言うセリフじゃないですか?」

 それは―そう。僕が言っていいことじゃない。

「いや…崩れてるのは…まだマシなんですけど…」

 彼女は少し呆れ、そのあと勢いに任せて

「なんで―同じの1つなんですか?こういうときは―ふたりで、仲良く、食べるのものじゃないですか?」

 と言った。

 僕は―モンブランを1つしか買ってきていない。理由は高かったことと、

「別に―僕が取り立てて頑張ったわけでもないし。真壁さんが頑張った結果なんだから―ね」

 僕は―彼女を祝福するために買ってきたのであって、一緒に食べたかったわけではない。

 彼女はおもむろに、フォークでクリームをすくうと―彼女はそれを僕の口に突っ込んで来た。口の中に荒く潰された栗と、生クリームの滑らかさが絶妙にとろけ合う。

「もう!」

 そう言うと―再び部屋から姿を消した。帰ってきっとき、皿とフォーク、空からナイフを手に持ったいた。

「センセイも、一緒に食べる!」

「別に…」

 今更―そう言ってもなぁ、と思った。

「センセイ指導力ってことで―センセイも食べましょう?こういうときは―喜びを分かちあうものですよ」

「…それもそうだな」

 気が変った。僕はモンブランをもらうことにする。彼女が喜んでいるときに―わざわざ水を差すのも大人げない。

 彼女はすぐに―モンブランを半分ずつに分けた。正確には、クリームの残骸を2つにまとめたという感じだけれど。

「…今度は転ばないようにするから…」

「謝罪ですか?次があるって―誘ってるんですか?」

 彼女は軽いノリでそう言った。

 あぁ…。どっちだろう。そこまで考えて発言しなかった。

 けれど―彼女の視線から固い意志を感じる。返答によっては―僕と彼女の関係にひびが入ってしまうような気がした。

 僕はモンブランを自分の口の中に突っ込んで―発言できないようにした。

「あっ…ずるい」

 と、彼女は少し頬を膨らませる。かわいいが―視線から強い非難を感じがして、ケーキの味が分からなくなった。




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