第54話 ユウトVSリア、オルタンシア

 現在リアの鍛練に関しては、実戦訓練以外はオルタンシアに頼んでいる。

 今日は偶々三人だけで会うことが出来たが、王女のリアは周囲の目があるため、中々時間を作れないからだ。

 オルタンシアなら既に剣術の基礎はある程度出来ているため、リアの指導役としては悪くない人選だ。


「二人ともかかってこい」


 俺は木剣を手にし、不適な笑みを浮かべながら二人を挑発する。


「今日こそは勝って⋯⋯いえ、一太刀くらい⋯⋯かすり傷くらいはつけてみせます」


 かなり低い目標だな。

 だがそれでもまだ叶えさせてやるつもりはない。


 オルタンシアを前衛にして二人が向かってくる。

 オルタンシアが攻撃をして、俺の体勢が崩れた時にリアがとどめを刺す狙いのようだ。


「行かせて頂きます!」


 オルタンシアは木剣をなぎ払い、鋭い一撃が俺の胴に迫る。

 俺はその攻撃を軽々と避ける。

 そして直ぐ様、上段下段へと木剣が向かってきたが、自分の木剣で受け止める。


「前から言ってるが攻撃が素直過ぎる! 目線や肩、足を使ってフェイントをかけろ! 今のままだと次にどこを狙っているか簡単に読まれてしまうぞ!」

「はい!」


 本人の真面目な性格が災いしているのか、オルタンシアの攻撃は読みやすい。格下相手には通用したかもしれないが、格上相手には予想外の一撃を繰り出さないと勝つことは難しいだろう。


 そして俺はオルタンシアの攻撃を受け止めた後、オルタンシアとリアが射線上で重なった所を狙って蹴りを放つ。


「ぐっ!」


 すると腹部に蹴りを食らったオルタンシアは吹き飛び、背後にいたリアも巻き込んで地面に転がる。

 そして俺は素早く倒れた二人に向かって木剣を向け、勝負ありとなった。


「今日こそはと思っていたのですが、やはりユウト様の壁は高いですね」

「まだまだ負けるつもりはない」

「次こそは勝ってみせます」


 オルタンシアは少し明るくなったな。

 ガルバトルにいた頃とは違い、笑顔を見せるようになった。

 これも実生活が上手く行っている影響だろう。


「母親の調子はどうだ?」

「お陰様で元気に過ごしています。不治の病にかかっていたのが嘘のようです」

「そうか。それは良かった」


 俺にとっても結核を解放の力で治療することがわかったのは朗報だ。


「リア、怪しい奴は最近見てないか?」

「いらっしゃらないと思います。これも先日の模擬戦の影響だと思います」


 リアが言っている模擬戦とは、先日城内で行われたもので、王族も見学に来ていたらしい。

 そしてオルタンシアはその力を遺憾いかんなく発揮し、近衛隊の隊長にも勝利したようだ。

 リアには自重するように言っていたが、オルタンシアには力を見せつけるように命令していた。

 それはリアの護衛役には実力者がいると認識させるためだ。

 手を出せば痛い目を見るとわかれば、そう簡単にリアを襲うことは出来ないだろう。

 もし手を出してきても返り討ちに遭うだけだ。


「しかしオルタンシアがいるからといって、油断はするなよ」

「承知しました」

「それとリアに聞きたいことがあるんだが、ウォードという商人のことを知っているか?」

「ウォードさんですか? 以前からたまに城に出入りされていましたが、最近はよく見ますね」

「誰か懇意にしている貴族か王族がいるということか」

「お調べになりますか?」

「頼んでもいいか」

「承知しました」


 誰と繋がっているのかわかれば、ウォードの意図もわかるかもしれない。


「だがとりあえずその話は置いといて、今は訓練をするぞ」

「「はい!」」


 そして俺はこの後、一時間程二人と模擬戦をしてから、自宅へと戻るのだった。


 翌日の朝。

 俺は一人で教会へと向かった。

 またゴロツキ共が来ないとは限らないので、少し心配になったからだ。


「♪~」


 そして教会へと近づいていくと、声が聞こえてくる。

 どうやら誰かが歌っているようだ。

 それにしても綺麗な歌声だな。

 それにこれは⋯⋯ 


 俺は身体の中から何かが沸き上がるのを感じながら、教会の中に入る。

 すると歌を歌っていた者はステンドグラスから入る光を浴び、神々しい雰囲気を醸し出していた。

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異世界を裏から支配する~表舞台は信頼できる仲間に任せて俺は無能を装って陰で暗躍する~ マーラッシュ【書籍化作品あり】 @04020710

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