第5話 裏

「そ、そんなことよりもほら、さっさと行くわよ」

「は、はい」


 奇抜に現れた階段を下る。


 長い階段。暗めの証明。

 空が下れば下るほど明るくなり、味気ない両壁はガラスへと変わり……そこには探索者町ほどの規模ではないものの、綺麗な施設群が存在した。


 地下都市。

 そんなワードが頭に浮かぶ。


 さっきまであんな目に合った俺ですら内心テンション上がってしょうがないんだから、こういうのが好きな人だったら涎を垂らして喜ぶんだろうなぁ。


「Sランク以上だけが使える施設裏探索者町。お店は全部タダ、最新鋭の防衛システムと小さいながら核シェルターとしての機能もあって、探索者協会Sランク受付からは首脳陣へのお取次ぎが容易。そしてそして今から行くお食事処は日替わりで3つ星獲得シェフがダンジョンのモンスターを調理してくれるのよ」

「モンスターを食べる? モンスターって倒した後消えるんじゃ? ゲームみたいに」

「それは、また後で話すわ。今はご飯ご飯!」


 花咲さんはうきうきで裏探索者町に入ると、無人なのかと思うほど静かな道を通りお店へ一直線。


 中に入っても人はほとんどいなくて、ほぼ貸し切り状態。


 本当にSランクだけが使用できるってことか。

 人と接するのが苦手って人はそれだけでここに住みたくなるかも。


「えーっと私はミノタウロスのステーキ丼とブラッドバードの炭火焼にキングデビルクラーケンのイカ焼きも……」

「結構、食べますね……」

「荷軽井君も……あ、これ私しか注文できないんだった。じゃあ、勝手に選んでいい?」

「は、はい。お構いなく」


 庶民的な食券システムで注文を完了させる。


 さっきの自販機もそうだったけど、個人個人の指紋を登録して指紋認証……でもしているのかな?

 凄いけど凝り過ぎてるというか、これを搭載しようとした人から中二病のそれを感じるぞ。


「探索者協会の会長って見たことないけどちょっと痛い人なのかもな」

「そうだね。会う人会う人に言われるよ。でもさ、こっちのほうが断然テンション上がるだろ? 魔力結晶の売却額を考えればお金なんて嫌でも溜まっていくんだから使わないと損。それに個人の懐に入って死ぬよりもこうしてみんなに施設、サービスとしてこういったものを提供した方がモチベーションが上がって……花咲さんのようにさぼり癖のある人でも君みたいな掘り出し物、じゃなくて掘り出し探索者を探してきてくれる、仕事をしてくれる。ダンジョン探索を捗らせるってことを考えてもこっちのほうがいいのさ」

「会長! 今日はこっちでお食事ですか?」

「お疲れさま花咲さん。今日は日本食の気分だったからこっちで、と思ってね。それで……まさか事前連絡することなく直接候補者を連れて来るなんて思わなかったよ。一応はこっちで判断したいのだけど」

「あ、はは。でも実力は確かですよ」

「……君がそういうのならそう言うことなんだろうね。よろしく、私は探索者協会の会長飯塚貞夫だ」

「ど、どうも荷軽井一重です」

「荷軽井君はAランク?」

「えっと、Cランクです」

「Cランク! そうか、そんなこともあるのか。まぁ実力さえあれば特例として――」


「――いやいやいやいやいや!! 俺たちがどれだけ頑張ってここまで這い上がって来たと思ってるんですか! 甘いんですよ会長は! 上の奴らのモチベーション維持っていうか、せこい金策のためにここを隠すなんて意見も受け入れるし」


 勢いよく扉が開くとオラオラ系ファッションの怖めのお兄さんが声を荒げて入店。


 この人もSランク探索者ってことだよな?

 花咲さんもそうだったけど、基本的に変わってる人の集まりなのかも、Sランク探索者って。


「いやだって『あっち』の探索者さんたちを序列だけでこっちに入れるのはリスクが高いってわかったから。なら、向こうである程度安住の地を作っておくのがいいかと」

「それのせいでどれだけ犠牲者が出てるか……」

「でも人は死んでいないでしょ?」

「そうですけど……。とにかく俺はそこの人がいきなりSランク探索者になることは認めません!」

「認めないと言われても決めるのは私だから」

「それでも俺は認めない! その、もし死んだらどうするんですか!」


 ああ。上の人たちとは違うパターンだ。

 この人見た目はあれだけど根本的に正義感が強い、多分いい人。


「それは……そうだね。じゃあ、折角連れてきてもらって悪いけどちゃんと試験でもしようか。丁度いい。寺本君、Sランク最下位の君には荷軽井君の手合わせ相手をお願いしたい」

「分かった。でも、その結果が悪かったら……お前には早々に上に戻ってもらうからな」

「来いって言ったり、戻れって言ったり……。勝ってな人が多いな、今日――」

「あの!! もう料理来ちゃいますから! 全員座って、まずはご飯食べましょう! お店に迷惑ですよ!」


 券売機の前でやかましく話を進めていると、いつの間にか席について既にお椀を片手に持っていた花咲さんは俺たちに注意を送ったのだった。


「「「すみません」」」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

究極回避火事場双剣でダンジョン無双~覚醒したスキル回避と火事場力が強すぎて表ダンジョンの攻略班から外された俺は土下座されて裏ダンジョンを攻略することになりました。あ、対価は配信の許可でお願いします~ ある中管理職@会心威力【書籍化感謝】 @arutyuuuuuuu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ