第5話 ローラッド

「……確かに年に数回いなくなる時期があるなとは思っていたが、こんな豪華な旅行を楽しんでいたのか?」


 手馴れた様子で大量の食事を頼むフィアーナに呆れ半分で、声を掛ける。


「好きで利用していたわけじゃない。

 『鬼の祠』から竜になって飛んでいくのは、やめてくれと甥っ子に頼まれただけ」

「甥っ子……、ローラッドか?」


 フィアーナが甥としてみているのは、マナの息子であるローラッドだけだろう。

 レンターの子供にはもう1人男がいたが、トラブルの末に、母親と共にジンバット王国へ渡ったから、関わりも薄い。


「そう。

 そういえばあの子は今はどうしているのかしら?」


 俺の問いに同意し、その現在を思案するフィアーナ。

 ……確かに気になる。

 訃報は聞いていないし、何処かで生きているとは思うが、仮にも初代ドラグネシア皇帝なんて大層な肩書きの人間が穏やかに暮らせる場所など……、


「今は天帝宮の隅に小さな家と畑を貰って、幼馴染みと静かに暮らしてますね」


 ……あったよ。

 確かにあそこなら、人間族最大国家の権力も及ばないが、


「ローラッドのヤツ、相変わらずの主人公振りだな」


 特に幼馴染みと一緒にスローライフの辺り。


「正直な話、姉さんの呪いもあるんじゃないのかと思っている」

「姉さん? この場合はマナか?

 まあ、自分の息子にアニメの主人公名を付けている辺り、変な作用を起こしても不思議じゃ……」

「違う。

 レナの方、マナ姉さんの期待に応えるために、そういう風に周辺国を引っ掻き回したんじゃないかと思わない?」


 どうやら、呪い(物理)ではないかと疑っているようである。

 さすがに、あのシスコンでもそれは……。


「……ありそうで怖いな。

 そもそもレンターの側室に入った各国の王女らの中で、王子を産んだのがジンバット王国の姫だけってのがな……」

「いや、それはない。

 いくらレナでも、さすがに洒落にならないと分かるだろう」


 俺が産み分けレベルから、レナによる暗躍を疑うと、さすがにそれはないだろうと否定されるが、


「そうか?

 マナのところが、女男女で3人。

 後は旧ラロル王女が女2人に、アガーム8世の養女として輿入れした旧アガーム公爵家の姫に3人の女子だろ?

 そんで、ジンバット王女の息子が1人。

 9人の子供の内、男2人とかレナならやりかねん。

 俺の知識があるんだから、そういう産み分けも知っているだろう?

 加えて、レナは水竜だし……」


 こうやって情報を並べると、より怪しくなる。

 何でよりによって、一番制御が難しいジンバットの王女だけが王子を? となる。


「あの大姉様。

 私見ですが、レナではなく人間達による調整ではと思いますよ?

 知っての通り、王位はマナの息子に絶対に継がせたかったはずですが、同時にマウントホーク家との縁はほしいであろう、各国の王族達。

 ラロルやアガームから随行した王女達は、娘を産むように誘導されたのでは?」

「……」

「対して、レンターとの血縁もあるジンバットは、野心を隠しきれなかったとも思えませんか?」


 ……確かに、あり得ると言えばあり得る話か。

 実際、ジンバット王女の息子であるラギオンは自身の王位継承を主張して、クーデターを画策したわけだし……。

 だが、


「あのジンバット王の娘がねぇ?

 わざわざ、あの王は俺のところまで謝罪に来たくらいだぞ?」

「それは……。

 そうでもしないとジンバット王国との国交再開は認められなかったのでは?」

「……確かに」


 国王と言う高貴な身分の男が、危険を犯してまで迷宮都市タカヤマまでやって来たのだからと、俺がローラッドへ取り成したのも事実だ。


「それにその取り成しによって、頓挫しそうになった北への路線計画が維持されたのも事実では?」

「ファーラシアの上層部に利用されたと言うわけか?」


 グランドモービルの北へ延びる路線は、王女の側室入りを対価に、ジンバットへ敷かれたもの。

 ……逆か。

 トランタウ教国からの圧力で、ジンバットに路線を敷きたかったファーラシア王国と、膨大な国益となるジンバット王国の話し合いによって、口実として持ち出されたのが、王女の輿入れと言うべきだ。

 それが頓挫しそうになったから、俺のところまで謝罪に来たと……。


「あり得そうではあるな。

 だが、結局暴発して問題をややこしくしただけだったしな……」


 ジンバットへ移ったラギオンは、結局再度ファーラシアの王を僭称して、関係を引っ掻きまわした。

 お陰で、グランドモービルの路線はマーキル方面へ変更され、ジンバット王国は未だに困窮を続けている。

 ファーラシア王国からドラグネシア帝国へと変わったのも、その際のゴタゴタが原因だし、つくづく主人公らしい人生の男である。

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