六条ミサキ

 リビングに通されたボクは、さらに言葉を失う。

 玄関からは、壁などで遮られて死角があったが、吹き抜けの通路は奥にあるリビングにまで続いていた。


 そして、リビングにも二階に上がる階段があった。

 大きなガラスが横一列に並び、窓越しに見えるのは、自然に恵まれた光景。両脇に緑があり、下は和風っぽく石が敷かれている。


 その奥に見えるのは、海だった。

 オーシャンビューというほど、海を一望できるわけではないが、青い海を眺めながらリビングで寛ぐことができるわけだ。


 壁には大きなテレビがあり、ソファは十人以上が座れるほど長い。

 真ん中には横長のテーブルが置かれ、隣接した場所にはダイニングが見えた。ダイニングの近くにはカウンターがあり、その奥がキッチンのようだ。


「ミサキ」


 ソファには、一人の女の子が座っていた。

 名前を呼ばれると、ダルそうに目を向けてくる。


「今日から、お前のになる」


 一瞬、聞き間違いかと思い、ケイゴさんを見上げる。

 信じられない言葉が聞こえたが、ミサキと呼ばれた女は、ケイゴさんからボクへ視線を移した。


「オモチャ?」

「そうだ。好きにしていい。だから、これ以上、私の手を焼かせるな。疲れたんだよ」

「……ふん」


 ミサキさんは立ち上がり、ボクの方へ歩いてくる。

 一言で表すのなら、『氷の美女』って感じだった。

 雰囲気全体が冷たくて、視線に感情はこもっておらず、親譲りの仏頂面。


 身長は高めで、出る所は出ている体型。

 セミショートの黒い髪は艶があり、前髪はサイドに隙間がある形。

 その下には、いかにも気の強そうな眉の形が見えている。


 ツンとした表情と態度で、ボクの前に立つと、何も言わずに見下ろしてきた。


 白のシースルーになった上着越しには、黒いキャミ。

 下はジーンズの格好。


 目につくところ全てが威圧的で、ボクは若干苦手意識が芽生えてきた。


「本当に好きにしていいの?」

「もちろん」

「ふぅん」


 すると、ミサキさんは片手に持っていた何かをボクに押し当てた。

 ずっと片手に持っていたのだろう。

 後ろに隠していたから、気づかなかった。


「え?」


 首に押し当てられた物。――護身用のスタンガンである。


 バチッ。


 一発で視界が揺らぎ、ボクは暗転した世界に落ちていった。

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