ep21 自己紹介と友達


「ほら座れ座れ、1分で終わらせてやるから 」


 教壇に革でできたノートのようなものを置く。 先生にしてはかなり若いが、あの雰囲気からして先生だろう。


「えー、今日から担任になりました。 躑蠋つつじ 翔花しょうかと言います、年齢は32で趣味は家でお酒を飲みながら寝ること。 よろしく 」


 パチパチと溢れる拍手。 隣のクラスからも聞こえてくる。


「早速だが、自己紹介をしてもらう。 それ終わったら自由にしてもらっても構わない 」


 早速自己紹介がはじまった。 ガチガチに緊張している人もいれば、スラスラと答えられる人もいる。

 つぎは自分の番だ。

 

「十六番の鷹雨 藍斗です。 趣味は…… 本を読むことです。 1年間よろしくお願いします 」


 特に目立った自己紹介ではない、定型文だ。 一律に拍手が鳴る。 その時右隣からねぇねぇと声をかけられた。 四谷くんからは絶対に発することのないの女の子の声だった。 右前から後ろを向いているショートの女の子がこっちを向いていた。

 

「キミ本好きなん? 」


「え?あぁ…… 」


「ウチも好きなんよ〜! なんの本読んでるんや? 」


「杉並 矢作とか…… 」


 杉並 矢作。 謎多き高校生小説家で、デビューした一作目からリアルな作風と今の差別社会に物申しているかのような比喩が特徴的な作家だ。 ノーベル賞も取っていたはずだが辞退していた。


「杉並 矢作いいよね〜、ウチも全部持っとるわ! 」


「君もか? 」


「そやで〜、あとウチの名前は潤庵堂じゅんあんどう 小豆あずきちゅーねん。 キミちゃうで! 」


「あー、ごめん。 自己紹介聞いてなかったから…… 」


「ひどいわ〜 」


 今までつまらなさそうにしてた四谷くんまでこっちを見てひどいわ〜と言っている。 意外とノリに乗れるやつかもしれない。


「というか潤庵堂……? まさか、あの大阪の名店の? 」


「せや、寂れた街で唯一の人気和菓子店やで! 別にウチは継ぐ気ないけどな 」


 ウチは能力研究員なりたいねん!キャー!と頬を両手で抑えながら体を左右に振る。 なにがキャーなのか知らないが……


「お前、店どうすんだ? 潤庵堂つったら政府指定の伝統文化継承認定店だろ? 」


 その顔には似つかない頭の良さそうなことをスラスラと述べる四谷くん。 俺より頭良さそう……


「ウチの妹がやりたいゆーてるし、ウチはウチの事やらせてもらうだけや 」


「妹はこの学校? 」


「せやで! 何でもできて可愛くて可愛くてしょうがないねん! 」


また頬を抑えてキャーと言う。 そのキャーってなんだ……? その時ピンポンパンポンと放送がかかる合図の鐘がなる。


『能力科一年生は総合体育館に向かい始めてください。繰り返します……』


「あまじか、まあいいや。 とりあえず自己紹介は後にして並べ〜 」

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