ep18 飯テロとたこ焼き

 入学式当日、学園が明るく騒がしい雰囲気だった。 同じ系列の学校全てが入学式で人もたくさんやってくる。 出店を開けば簡単に稼げること間違いなしだろう。 案の定通学路である第1都市線メインストリートには多くの出店が出店されていた。 中にはうちの制服を着た先輩の姿も見えたり、オジさんがたこ焼きを焼いたりしている。


「絶対つられんなよ咲夜 」


「私がそんな単純に見えるのかしら?ジュルジュル 」


 本音が口から漏れている、言葉以外で使うことあるんだな。 目もキラキラしている。


「さーちゃんは食いしん坊だねぇ 」


「まったく、子供ですね…… 」


実夕は食べ物に全く興味を示さず微笑んでいた。 だが問題は雪和の方だった。 呆れながらもコンビニを見つけるとレジの方を見つめている。 レジの横にはガラスケースがあり、中には白くて丸いものが入ってるのが見える。 でもこれ毎朝見せられるの?


「ふふ、ところで妙高みょうこうさん。 いつのまにたこ焼きを買ってらっしゃるのですか? 」


 つんつん頭こと妙高みょうこう 健太郎けんたろう。 彼の手にはほかほかと湯気が立ったたこ焼き


「でもこのたこ焼き、幻影かもしれないよ? 」


「なるほど、それでは手を差し出しても何もありませんね? 」


 渚はひょいと手を伸ばす。 その瞬間健太郎が体をのけぞらせる。

 渚はニコリと笑う。 普通の男子ならあの微笑みに落ちてしまうだろうなと思った。 以前の俺なら落ちていたかもしれない。 だがあの日の感覚を思い出してしまい体がぞわりとする。

 普通のいたずら好きの男の子だと思っていたのだが、意外なことに健太郎はニヤリと笑みを浮かべるだけで顔を赤らめることはなかった。


「さ、さーちゃん……! 遅れるってば! 」


 後ろから抱きついてなんとか制止しようとしている実夕と雪和の姿があった目線の先にはたこ焼きのお店がある。 健太郎が引き起こした飯テロのせいで彼女の中の理性が崩壊してしまったのだろう。

 仕方ないな…… もしものときのためのあれを使うか。 俺はカバンをゴソゴソと漁り、あるものをとりだす。


「ほれ咲夜、潤庵堂じゅんあんどうのどら焼きだぞ 」


 その瞬間グワンと首がこちらを振り向く。 目からハイライトが消えており、目線はどら焼きにしか向いていなかった。 ここまでくれば後は学校まで走るまで。


「すまんな皆、先に学校いってるぜ 」


 俺はダッシュで学校に向かって走り出した。 その瞬間掴んでいた手を振りほどいているのが見えてスピード上げる。 ちなみに俺はクラスの中でもそこそこ足は早い方だと自負してるのだが、咲夜は男子にも勝る学年一位だ。 命がけで学校に行かなければ死ぬ!


「潤庵堂……! 私の! 」


「怖えよ! 」


 ほらあそこの女の子めっちゃ怖がってるやん!

 なるべく早く学校につかなければ…… 俺は全力を出して学校にむけて加速した。

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