ep10 保険員さんと真実

 寮には常駐の保険員さんがいて、急病なども対応してくれる。 たまにロボットが置かれてることもある。 ただ、保健室の場所がリビング兼キッチン兼談話室兼保健室なのが欠点だが……


 「入学式前で、凍傷と火傷を手当したのはあなた達が初めてよ 」


「いやぁそれほどでも 」


「全然褒めてないわ 」


 寮の保健員の人に治癒能力を使ってもらっている。 暖かな光が手をふんわりと癒やしてくれるのがとても心地よい。 隣にはブスッとした顔の雪和が首に保冷剤を当てていた。 

 隣の雪和がゆっくりと喋り始める。。


「改めて聞きますみーちゃんを騙したのですか? 恋愛目的ですかロリコン変態ゴミクズ人間以下さん 」


「せめてボロくそに言うなら敬語外せこの野郎 」


「答えてください 」


 さっきまで敵対していたのだ。 助けたとはいえ誤解は解けていない。 実夕はすでに部屋でお休みしているし、起こす訳にはいかない。


「みーちゃんは、あなた方を信頼しています。 」


「あのな、君の妹が迷子ですって言って勝手に迷子扱いされてたんだ 」


 実夕の誤解も解けていなかったしもしかして誤解解くの下手? まだ怪訝そうな顔を浮かべているけど。


「……みーちゃんならやりかねませんね 」


「そこは認めるな、俺の痛い思い返して 」


 なんか腑に落ちない、俺の痛みとかいろいろ返してほしい。 俺の高いプライドが傷つく。


「みーは昔から…… いえ、何でもないです 」


 表情が暗くなる、やはり過去になにかあったんだろうが誰しも隠したい過去など山ほどある。 黒いノートとか黒革の手袋とか眼帯とか。 全部咲夜にバレてる。 あれ、俺のプライバシーってどこいったっけ。


「まあ無事で何よりだったよ 」


「藍斗くん、あなたもね 」


 ふんわりと癒やしてくれていたところはいつの間にか治っていて、前を見ると笑顔の保険員さんがいた。 その笑顔は何処か覇気を込めており、いつでもやれるという雰囲気を醸し出していた。 ゾワッと本能が叫びをあげている。

 保険員さんは「この子にはちょっと聞きたいことがあるから 」といい、しっしっと保健室(以下略)から出ていくように指示される。 やられる前に出ていかないと何されるかわかったもんじゃない。

 急いでドアを開け外に出る。 そしてドアを締めて一息をついて自分の部屋に向かおうとしたその時だった。 目線の先で俺のことをじーっと見つめている女の子がいた。 その顔はどこか見覚えがあり、親近感を感じた。


「何か用か? 」


彼女はふふっと笑うと長い髪をふわりとなびかせて俺の前まで来る。 仕草一つ一つが大人ぽくてドキドキしてしまう。

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