第23話

「あ? でも今思うとあのガキが言ってた食べ物ってどうやって俺たちに渡す気だ? まさか直接持ってくるとか……はありえねぇよな。そもそもあのガキがこの島にいるかすらわかんねぇし」

「化け物が運んできたりしてー?」

「もっとねぇよ」


 服部がハッと鼻で笑うと、外からブゥンとなにかが飛んでいる音が聞こえた。


「あ? 今なんか聞こえたか?」

「なにかの音がしましたね」

「外から聞こえてきたみてぇだけど……開けてみるか?」


 ボウリング場の出入り口には相変わらずバリケードが張ってある。それを掴んで福田が問いかけた。


「おいおい、今度は虫型の化け物でも出ていたらどうするつもりだよ」

「でもずっと扉の向こうから音が聞こえてっけど」


 福田の言う通り、謎の音は扉の向こうから聞こえている。ボウリング場の扉の前で立ち止まっているようだ。


『開けろよ』

「うおっ」


 扉を開けて様子を見るべきか、開けないべきか。意見が対立して話し合いにもつれ込んだとき、スマートウォッチから不機嫌そうな声が聞こえてきた。


『あとはそこにいる五人分だけだぞ。べつにいらないならこの食べ物は持って帰させるけど』

「開ける、今開ける!」


 食べ物、という単語を聞いて服部はバリケードをやすやすと開けた。するとそこにはドローンがパンの入った袋をぶら下げて空中浮遊していた。どうやら謎の音はこのドローンから発せられた音だったようだ。


 服部はドローンからパンの入った袋をひったくり、扉を閉めるとまたバリケードを張った。


「ここにいる五人分、ねぇ」


 袋に入ったパンはちょうど五人分。ゲームマスターも五人分だと言っていた。しかしこのボウリング場にいるのは六人だった。


「もやしの分があるわけねぇだろ。なんてったって負けてんだから」

「俺の分を食べてくれ。水さえあれば数日くらい、俺は飯を抜いても問題ない」

「そんな、それは悪いです! ……その、よかったら半分こしませんか?」

「なら俺は平井以外のやつとわけっか」

「俺も分けるって約束したし、半分こしてきます」


 ゲーム終了時、成大と福田はルール上敗者となった平井チームの人間と食べ物を分けると約束した。

 あのゲームマスターですら不満を覚えても約束は守ったのだ。成大が約束を違えるわけにはいかなかった。

 話し合いの結果的に飯島は平井とパンを半分に分けることになり、成大と福田は平井チームの二人を探した。


 昨日水を渡したときにショッピングモールにいたので、今もショッピングモールにいる可能性が高い。なのでモール内を探してればすぐに見つかるだろう。。


「おっ、いたいた」

「こんにちは」


 雑貨店の中に二人はいた。

 福田たちが笑顔で声をかけると二人は笑顔で二人を出迎えた。


「悪いな、なにも出せるもんはねぇんだ」

「べつに茶菓子を用意しとけなんて思ってねぇよ。ほら、約束のパン半分こだ」

「どうぞ」


 自虐的に笑う二人に半分に分けたパンを渡すと二人は目を輝かせた。


「本当にいいのか?」

「ああ、やっと飯が食える!」


 成大たちの前で二人は嬉しそうにパンに齧り付いた。

 大人が食べる量にしては少なく感じるだろうが、そこは勘弁してもらうしかない。成大たちもこの量で我慢したのだから。


「んん、んめぇ」

「ああ、俺、今生きてるんだなぁ」


 二人は久しぶりの食事に感極まったのか涙を浮かべながらゆっくりとパンを咀嚼していた。


「ありがとう」

「俺はなんもしてねぇよ。おっさんとあんたらが頑張った結果だろ」

「ヤンキーみたいな見た目のくせに結構優しいんだな」

「あ?」


 礼を言われてツンと言葉を返した福田だったが、男性に褒められて恥ずかしかったのか少し顔を赤らめながら睨みを効かせた。


「ははっ」


 二人には全然効いていなかった。


「あっ、そうだ。ちょっと気になったんだけどさ」

「あん?」


 パンを渡し、ボウリング場に戻ろうとした成大たちを二人は呼び止める。

 成大たちは一度立ち止まって話を聞いた。


「なんかあのデスゲーム会場、床とか血の跡がついてて」

「そりゃあ最初に化け物が暴れ回ったときに会場内で殺されたやつがいたんだろ」

「そうだと思うんだが……なんか変に血飛沫が途切れているところがあって。それがなんとなく気になったんだ。っていうのを伝えたかっただけだ」

「あっそ。おっさんに言っとくわ」

「頼む」


 いまだ空腹感は感じるものの、二人は満足そうに笑顔で成大たちを見送った。

 優しい笑顔に見守られて成大たちはボウリング場に戻ってきた。


「おう、おかえり」

「っす」


 成大と福田はもはや定位置になりつつある椅子に腰掛けた。

 相変わらず硬い。長時間座るのに適していない硬さだ。


「あっ、そうそう。なんかおっさんに伝えておくことあったわ。な、光川の兄貴?」

「え? ああ、血が途切れた場所があったって話?」

「そうそう」


 福田に話を振られて成大は二人が言っていたことを思い出す。

 二人はデスゲーム会場に謎の血飛沫が途切れた場所があったと言っていた。なにかの役に立つかわからないが、情報共有は大切だろう。

 成大たちは飯島に二人から聞いた話を説明した。

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