第22話,破戒

観測-3秒:テレビニュースを映している。後方からは食器を置く音が聞こえる。

「では次のニュースです。あ...」


観測0秒:急に画面が切り替わり、全体的にモザイクがかかる。モスキート音及び高音のビープ音が流れる。機械音声が次の音声を話す。

「... ... ... 発生しました」


観測3秒:依然音は流れている。部分的に欠落した画面に以下の文字が表示される。合計2回重いものが木製の床に打ちつけられたような音が鳴る。

===

会社:

情報更新の観点から作成から5年後、自動削除されます。


シナリオの発生を宣言します。

シナリオの種類:006破戒


この世界の人間は既に死んでいる状態です。故に、他の一部のシナリオにて推奨される集団自決はコスト削減の為実行されません。

他世界での我々に託すためこれらのフィルムを既に持っている情報と照合させた上でそれらを提供します。


0.53424dd(異常性の弱いオブジェクトのそれが一部変化する)

警戒度:低

規定現実に送付の際の実質的負荷は理論上確認されませんのでこれらの録画データは直接送付されます。


===


観測8秒:画面が切り替わる。

===

[既情報]

1:

シナリオが発生した時、地球上に存在するすべての生命体における行動が全て抑制されます。処置されていない植物状態のようなもので、3日ほどで人類は息絶えます。


1-1:

既に持病を持っている人間又は自動的処置が為されている人間は通常より長く生存しますが、設備の経年劣化などで結果的に死亡します。


2:

世界線が閉じるタイミングは未観測実体Terminalによって異なりますが現状シナリオ発生後11日後だと見立てられています。


3:

会社及びジェントリーはこれらの発生の感知は不可能です。

===


観測23秒:画面が切り替わる。これらは機械音声で発声された。日本語での発声後、英語、フランス語、ロシア語が続く。

===

[受け渡す情報]

1:

いかなる処置療法を持ってしても恒久的な生命の維持は不可能且つ、1.223331ddからの報告より、既情報項目2により半ば強制的に11日目に世界は閉じられます。

2:

このシナリオは現在会社Over+地域に存在する異常オブジェクト聖櫃によるものだと考えられます。このオブジェクトの異常性の見直し及び更なる警戒の強化を申請します。

===


観測450秒:画面が切り替わる。

===

会社


全ての異常から日常を守るため。

ーーー式部


BetterFly所有者はこのシナリオの影響から抜け出すことはできないため、この分岐世界は確実に終了します。しかし、規定現実の我々が負けることのないよう、十分な努力ができたこと感謝いたします。

生体反応は既に一部失われました。この放送は人間が絶滅するまで続けられます。


電力供給元:会社別所開発所

===


観測212544秒:音声がテレビでないところから検出される。

「マスター、カメリア及びサブマスター、イオの死去が確認されました。以下、録音メッセージを放送します。


やっほー!未来の自分!人生楽しめたかな?この音声は私が死んじゃった時に流れるのだけど、シナリオとかもあるし、何か痕跡を残したかったからさ。見てみればたま〜に機械は生き残れるシナリオがあるっていうじゃん?だから残しておいたんだ。

今イオが隣にいるよ。なんか疲れたみたいで私にちょっと寄っ掛かって寝ちゃってる。この音声を残そうと思ったのもこういう思い出を無きものにしたくないからさ。


40%シャットダウン完了。充電残量3%。アーカイブから近似音声を合成。以下の録音データは破損しています。


まぁ、良い人生なんじゃない?この世界に来たのは決して良い思い出では無かったけどね。あの盗人、彼はもう遠い存在で私が話しかけられるような人じゃなくなって、私も危ないことに片足突っ込まれたりして大変だったし。

ただ...いや、いいや。

発明は消えない。アイデアだって消えない。彼が私の理論を奪っちゃったことにはもう追求する気も起きないよ。なんかもう馬鹿馬鹿しくってね〜。

...はぁ

なんかこういう事してる時って妙に心が空いた気持ちになる。どうしようもない終わりっていうのがとんでもなく理不尽だけど、受け入れる他ないっていうのはどう解釈しても納得しないんだ。

だから私はシナリオを防ぐ発明をしようとは思った。ただ、どうしようもなかった。シナリオは発生条件があるけど、そのどれもが謎っていうのもあれば技術では防ぎようのないものもある。だから研究部門の人たちと協力してもっと効率よくシナリオの情報を提供する方法をとったのさ。


80%シャットダウン完了。関連AI全て停止。建物内防御処置の停止。発明品の電力供給を集中。


イオは今でもシェーレっていう人のことを探してる。私だっていつまでもここに籠っていたい。藤里は自分の兄とできれば再会したいと願っている。ルナは自分の異常性を能力にしたいと思っているし、月蝕は妹の誕生日プレゼントをどうしようか悩んでいた。だから、邪魔してほしくないんだ。私達のこと。

ここが並行世界だってことは既にわかっているから規定現実の私がいるだけ漠然とした安心がある。けど、確かに怖いよ。

夢を描いていたパレットは引き裂かれて、暖かい現実の炎に波が襲って...こんなこと考えたくはないけどね。


じゃ、ロボット一号ロボ太君!君に託したよ!


録音再生終了。バックアップの廃棄完了、シャットダウンしています...」


観測902880秒:テレビから音声が流れる。

「人類の絶滅が完了しました。放送を終了します」


観測902884秒:一切の音が無くなる。


観測950245秒:遠くから足音が検出される。


観測950280秒:録音終了。

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