第47話 団結力

「なにっ!? 美羽が居ない!?」


「はい。どうやら」


 ライトの話をした翌日の朝、リズワールから話があると言われて起こされた翡翠が目をしばたたかせながら聞いていると、徐々に目を見開きやがて大きな驚きへと化す。美羽が自分の下を離れていったのはまさに寝耳に水の話であったのだ。


「白鳥様が出ていったあの時に恐らくは」


「凛はどうした? 凛も美羽の事を追いかけていったはずだろう?」


「花園様もどうやら居なくなっているみたいです」


「そんな……」


 二人が居なくなったと聞き、翡翠は暫し沈黙する。第一部隊の中でも特に大きな存在であった美羽の存在は翡翠の中でかなりでかい。この世界に来てリズワールに誘惑された際に、この世界は一夫多妻制なんですよ、と言われてからというもの二人を妻にすると勝手に決めていた翡翠からすれば美羽が姿を消したというのは葛西ライトがダンジョンに置き去りにされたことよりも大事件であった。


「美羽が僕に黙ってどこかへ行くはずがない。きっと攫われたに決まっているんだ!」


「誰にですか?」


「もちろん、魔族にだよ」


 何でもかんでも魔族のせいにすればよいと思っているこの勇者の憶測は奇しくも美羽の行き先だけは当たっていた。


「凛さんもですか?」


「もちろんそうに決まっている! そうと決まれば早速攻め込もう!」


「お待ちください、翡翠様」


 一人で勝手に盛り上がって勝手に突撃しようとする翡翠をリズワールが止める。


「先の戦いで我が部隊は今、疲弊しております。それに兵糧もあまり残っておりません。他の部隊に前線は任せて一度我々は退くと、今日の会議でそう決まったではありませんか」


「だがその間も美羽は魔族に囚われたままだ。何をされるか分からない。兵士たちが疲弊しているのなら僕は単身でも乗り込んで美羽を助け出したい。もう仲間を失いたくないんだ」


 凛の事は言及するのを忘れているくせにもう仲間を失いたくないと言う勇者。この世界に来た当初は最もまともであった彼も自身の持つ力に甘んじて更に周囲から担ぎ上げられることによっていつのまにか正義の化け物へと変貌を遂げていた。


 しかしそんなことを本人が気づくはずもない。翡翠は今、本気で仲間を失いたくないからという理由を信じ切っているのだ。


「翡翠様。確かに今の翡翠様なら摩天などどうという事はないでしょう。ですが魔王が出てきたときにはそうもいきません」


「大丈夫さ。そのための勇者だから」


 勇者の取り柄は強敵と戦う事によって急激に力を増していくこと。その成長率はまさに命の危機となった際にも発動し、敵を圧倒してきた。


「確かにそれはそうですね。正直、翡翠様だけでも魔王を討伐はできると思います。たとえ魔王が二人いたとしても」


「付いて来てくれるかい?」


「はい、もちろんお供しますとも」


 リズワールの言葉に勢いよく立ち上がり、出陣の準備を始める。そうして皆が起き始め、いつも通り朝の会議を始めた直後に翡翠が手を上げて美羽と凛の身に起きたことを話し始める。


「美羽と凛が魔族にさらわれた。恐らく部隊から離れたあの時に攫われたのだろう。僕は今から彼女たちを救い出しに行くつもりだ。これはあくまで僕の感情で動いているから行きたくない人は来なくていい。だが、もしも僕の意見に同意してくれる者が居るなら僕とともに来てほしい」


 翡翠が熱い思いを語る。その高い熱量はこの場に居た者の心を揺さぶるほどに真剣にそう伝える。


「おいおいおい、流星! 俺が日和ってるとでも思ってんのかぁ!?」


 翡翠の言葉に真っ先に反応したのは美羽の事を付け狙っていた鷺山だ。美羽の事ともなればこの男は真っ先に動く。


「僕も同意だね。魔王がなんだ。僕達の方が強いに決まっている。というか鷺山って魔天に負けたんだろ? 大丈夫なのかよ」


 そして次に反応したのは黒木。鷺山を煽りながらそう言う。


「あれは油断してただけだ! 次戦えば絶対ぶっ殺せる! てめえも調子乗ってっとついでにやっちまうぞ?」


「おー怖い怖い」


 それから二人に追従して続々と出願者が現れ、結果的にクラスメートたち全員が翡翠へ付いていくこととなった。


「ありがとう、皆。多分これが正真正銘の最終決戦になると思う。この勝負を勝ち切って絶対に僕達の平和な世界を作り上げよう!」

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