第3話 救助 & 出会い

「あわわわ」


 バンっと音を立て、ボールは女の子の顔面に激突し、真上に浮き上がった。

 女の子はのけぞり、バランスを崩す。


「ヤバイ、落ちる!」

「走れトウゴ!」


 反射的に、相棒の言葉に反応していた。

 けど、ゴーレムの後ろ側に彼女が落ちるなら間に合わない。


「キミが私を履いた時、全てがコートだ! 止まるなトウゴ!」

「おお!」


 その言葉に、コースが見えた気がした。

 相棒が見せてくれているのか、ゾーンに入ったのか、赤く光って見える道筋。下ろされたゴーレムの腕から、肩を抜け、落ちようとしている彼女の所まで。

 歯を食いしばって一歩目。土の地面が、キュッと、バッシュがコートを噛む音を鳴らした気がした。オレ自身が持つポテンシャルよりも明らかに速く、ゴーレムの腕を駆け上がる。

 女の子がゴーレムの頭から消えている。落ちたんだ!


「大丈夫だ! 私たちなら間に合う!」


 返事は要らない。相棒の言葉は確信だ。

 全速力で肩口を超え、背面へ。落下している女の子を視界に捉えた。


「跳べ!」


 相棒の声に押され、ジャンプ。空中で体勢を立て直し、抱きかかえるようにキャッチした。声もそうだったが、まだオレよりも幼い。状況にまれて、オレは彼女に求めすぎたのかも知れない。


「申し訳ないことしたな」

「無理からぬことだ。まずは無事に着地をイメージするんだ。あのトウゴが描くヒーローの様に!」


 相棒のセリフに、動揺で女の子を落としそうになる。

 やはり、

 着地の衝撃しょうげきを膝で吸収するように、屈伸しながら着地。土埃は上がらず、衝撃もほとんどなかった。イメージ通りだけど、複雑。


「それより、ボール! ゴーレムを何とかしないと」

「大丈夫だ。近くに来るまで分からなかったが、どうやら喚ばれたのは私だけではないらしい」


 そう答えた相棒に重なるタイミングで、オレの上に影ができる。


「スカイ、やるよ」

「オーケー、セイゴ! 無重力ゼログラビティ! キミを空にだって羽ばたかせる!」


 空に現れた人影は、跳ね上がったボールをキャッチし、そのままゴーレムの頭に叩きつけた。それから本当にあっさりと、ゴーレムは巨体を残さずに土に戻った。

 音もなく着地した乱入者は、オレより背が高い、多分同じくらいの歳の男子。空色のランニングシューズに、青い半袖のパーカーに、膝丈までの白いパンツ。スラッとした瘦身で、スポーツをしているようには見えなかった。


「その子を、離してもらおうか」


 ……開口一番にそれかよ。

 メガネ。奥の眼光は鋭い。なんというか、頭がよさそうに見えた。

 助けてもらったのは事実だし、勘違いに食って掛かっても上手くいかないことはチームで知っている。


「離すよ。ありがとう!」

「え」


 少し大きい声で、ハッキリと。

 ランニングシューズの男子はオレの反応に少し驚いているようだった。

 人は経験や知識で相手の行動を予想できる。

 フェイントはその認識をずらすためのものなんだけど、レギュラーを獲得した後しばらく、大吾先輩以外とのコミュニケーションができなくなった時にオレはこのやり方を考えた。予想してないだろう反応を選び、構えを解かせる。そんな感じ。

 相手はオレを警戒している。なら、こちらが先に感謝を伝えて、敵意がないことを示す。というか、どう見ても助けた女の子の格好と違ってオレの世界の服だし、向こうにもそれくらい気づいてほしいんだけど。


「あのさオレ、助けようとしてたんだけど」

「……え?」


 身構えをずらすことに成功したから、こちらから言葉を差し込む。

 思った通り、そうは思ってなかったという反応が返ってきた。


「セイゴ、まさか本気で言ったノ?」

「……ごめん」


 予想と違ったのは、彼が履いているシューズは気づいていたということ。面白がっているような、呆れているような、そんな軽い響きだった。


「いや、大丈夫。分かってくれたならいいんだ。来たばっかでこの子が助けてって叫んでて、それだけ。知り合い?」

「うん。でもゴメン、よく見たらそれユニフォームだね。気づかなかった。僕はもう二週間になるかな。青沼西吾あおぬませいご、中一」

赤倉東吾あかくらとうご、同じ中一だ」

「トウゴ凄いぞ!」


 お互いが自己紹介を終え、握手を交わす。女の子はまだボールが当たって目を回していた。相棒が興奮した様子でオレに呼びかける。同じ境遇きょうぐうの人が居て、しかもシューズが話しているから驚いたんだろう。


「な、オレと相棒だけじゃないんだな」

「そうじゃないトウゴ、だ! ここでもダブルファイブ結成、それに飛ぶなんて、トウゴのマンガのヒーローみたいだ!」

「あー、あー……うん、ソウダネ」


 それ、大吾先輩とオレのチームでのコンビ名。二人のでダブルファイブ。相棒、家族も知らない自作マンガ、やっぱり知ってたんだな。


「なんのこと?」

「いや、気にしないでくれ。頼む。セイゴもここに魔法陣みたいなのでここに引き込まれたのか?」

「あー、いや。僕は違う。それに赤倉くん」

「トウゴでいいよ、皆そうだから」

「分かった、トウゴくん。多分僕たちは巻き込まれただけだ」


 ちょっと恥ずかしそうに名前を呼びながらセイゴは続ける。


「スカイ。僕の靴の名前なんだけど、召喚されたのはスカイなんだ。僕はそれに巻き込まれただけ。多分君も、そうなんじゃないかな?」


 セイゴは、オレの相棒を見ながらそう言った。

 壊れた状態から生き返り、喋り出した相棒。名探偵よろしくボールをポンと出した相棒の能力。コートと遜色そんしょくなく走れるコンディション。

 じゃあオレは? ……冷静に考えると、テンションが上がって調子が良いというくらいだ。


 ――ダメだ。まだキミとの時間を終わらせるわけにはいかない……


 あの時聞こえた声は、相棒だ。そうだ。


「喚ばれたのは、オレじゃない……?」


 口に出した疑問は、確信にも近かった。

 オレは異世界へとやって来た。

 に巻き込まれてなんて、聞いたことないけれど。



 


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くつが転生!? つくも せんぺい @tukumo-senpei

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