第7話 無職活躍!真剣だからこそ人を動かせる

「何をやってるんだ君は!!!」


 もうダメだと目を閉じていたため、どういう状況か分からなかった。

 目を開けると、真鍋さんがスライムと僕の間に入り、盾で防御してくれていた。


「さすが真鍋さん…ビクともしてないですね」

「何を言ってるんだ!早く逃げるぞ!」


 グイっと腕を引っ張られたが、その手を振りほどく。僕のほうが力が強いので簡単に振りほどけた。

 立ち上がり、スライムの前に立ちはだかる。

 スライムは容赦なく追撃してくる。スライムはタックルしかしてこないようで、攻撃は直線的で予測しやすい。

 あ、そうだ。体力を確認するの、忘れてた…


 ドゴォ!!!!


「だから!なんで!君は!」


 また真鍋さんに守られる。真鍋さんは"シールドバッシュ"を使っていないようで、スライムは盾に弾かれてポヨンポヨンと数回バウンドし、またこちらに視線を向ける。


「何がしたいんだ!全然分からないぞ。早く逃げ…」

「逃げられないときはどうするつもりですか?」

「………え?」


 スライムの追撃がくるも、真鍋さんの盾はいとも簡単にスライムを弾き飛ばす。ビクともしていないようでうらやましい。

 この間にステータスを確認しようとかと思ったが、何故か意地になってしまい、絶対にステータスを開いてやらないぞ!と決心した。

 もしかしたら、スライムの一撃にビビッているのに、迷わずスライムの間に入っていける姿に嫉妬したのかもしれない。


「今の僕みたいに、モンスターに立ち向かおうとして逃げない人がいたらどうするつもりですか?モンスターのほうが早かったら?悪意がある人のほうがステータスが高かったら?」

「な、何を言ってるんだ?」

「真鍋さんのいうことは理想論です。キレイだとも思います。そうやって生きれたらどれだけいいかとも思います。でも、ここは普通にモンスターが襲ってくる、死が身近にある世界なんです」


 ドゴォ!!!という音が響く。スライムの追撃があったのだろうが、真鍋さんは全く意に介していないようで、じっとこちらを見ている。そしてその姿に、さらに嫉妬し、声を荒げる。


「自分の身は、自分で守れるようにならないといけないんです!逃げてばかりじゃ、避けてばかりはいられないんですよ!僕の職業は"無職"です!それでも、強くなろうと一生懸命です!それなのに、努力すれば強くなれる真鍋さんが努力しなくてどうするんですか!守りたいなら、強くならなくてどうするんですか!真鍋さんみたいないい人が、弱いから虐げられるなんて嫌なんです!強く…強くなってください!真鍋さん!」


 ドゴォ!!!!

 5度目。聞き慣れた感すらある音になってしまった。あんなに柔らかそうな見た目でどうやったらこんなにすごそうな音になるんだろう。頭の中ではそんなことを考えていたように思う。

 女性に対してこんなに強気で出たことがないため、自分のしてしまったことのデカさにビビッてしまったのだ。いわゆる、現実逃避というやつだ。


 言いたいことはすべて出し切った。あとは真鍋さん次第…


「君の気持ちは分かった。だが、まだ私と君はそこまでお互いを知らない。」


 最初の言葉に(伝わった!)とうれしく思ったが、続く言葉がその喜びをかき消す。

 確かに、クラスでは一切絡みがなかったので、話をしたのは今日が初めてだ。だが、その話は今関係あるかな?


 そうしていると、スライムの第6撃が来そうだった。僕が1撃耐えられたし、真鍋さんはパッシブスキルでダメージ5割減なので、まだまだ体力に余裕はあるだろうが、そうこう言ってもいられない。

 分かってくれたようだし、この1撃を真鍋さんにガードしてもらったら僕が…


 そう思い待ち構えていると、スライムの1撃が真鍋さんに襲い掛かる。


「シールドバッシュ!」


 真鍋さんはそう言うと、盾で勢いよくスライムを弾き飛ばした。タイミングもバッチリだったのか、スライムは若干苦しそうなうめき声をあげて僕たちとは反対側の木にたたきつけられる。

 すかさず真鍋さんはスライムに駆け寄り、盾でスライムに何度も殴りかかる。何発目で息絶えたか分からないが、スライムは跡形もなく消えていた。


「平くん、私は決めた。これから一緒に旅をして、お互いを知り、私の気持ちが君に向いた時。その時は君にその事を伝えるから、今後について一緒に考えよう!だが、もし君に気持ちが向かなかった場合は、きっぱり私のことはあきらめてほしい!」


 振り返って僕をまっすぐ見ながら、真鍋さんはそう言った。本当に何のことか分からないが、とりあえず嫌な予感だけはしていた。


「あ、あきらめるって…えっと、パーティから抜けるって、こと…です、かね?」

「む?何を言ってるんだ。平くんは私が守ると言ってるじゃないか。」

「で、ですよね…じゃぁ、どういう…」

「私への恋心をきっぱりあきらめてほしい、そう言ったんだ。」

「あーなるほど。恋心ですか。あーはいはいはいはい………はい?


 自分と真鍋さんの関係で、まったく似つかわしくない言葉が出てきた。

「恋心」?!なんで?どうしていきなり?


「なななな、なんでそんなことに…?!」

「なんでって、平くんが私を口説いたんだろ?」

「く、くくく口説くなんてそんな恐れ多いことは…!!!」

「私のことをキレイと言ってくれたじゃないか。」


 キレイ?キレイなんて言ったか?

 自分の発言を振り返ってみる。こんな真面目な話の中で容姿を誉めるような言葉を使うわけがない、そう思っていたが違った。

 容姿に対してじゃない。思考、考え方、生き方について発言したときに、確かに「キレイ」と使った。

 それを真鍋さんは自身の外見に対しての誉め言葉と捉えてしまったということか?


「い、いや、それは、あのですね…」

「それに、平くんの言うことはごもっともだ。確かに、みんなを守るためには、自分も強くならないといけないな!自分を守れない人間が他人を守れるわけがない!その言葉にも感動したぞ!これからよろしくな!」


 ワッハッハ!と豪快に笑いながら僕の肩をバシバシとたたく。

 大変な誤解を与えてしまった。どうにかして訂正しないと。そう考えたが、寸前で思いなおす。

 真鍋さんは可愛い。というかキレイでもある。自分なんかが付き合うなんてほんとおこがましくて、そんなことは一切考えていない。考えていないのに、真鍋さんが僕に興味を持ってくれるかどうか、様子見期間を与えてくれたのだ。

 これはいわゆる、怪我の功名ではないか?!

 訂正しようとした言葉をグッと飲み込み、僕はこういった。


「そうですね!よろしくお願いします!」


 その時の笑顔は、異世界に来てから見たどの太陽よりも、一番まぶしかったはずだ。

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